逃げるぜじーちゃん!ばーちゃん恐怖政治から命の洗濯 これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母が認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
強烈すぎる! ばーちゃんの“マイ・ルール”の押しつけ
夫婦そろって認知症のじーちゃんとばーちゃん。せん妄(妄想など)がひどく、暴れたり暴言をはいてしまうばーちゃんとは反対に、じーちゃんはときどき自分の心にカギをかけて閉じこもってしまうことがありました。昔はバリバリの営業マンで人あたりもよく、知らない人にもガンガン話しかけてしまうくらいコミュニケーション力が高かったじーちゃん。でも「アルツハイマー型の認知症」と診断されてから、これまで見たことがないような“無気力で自分の世界に閉じこもる”という一面を度々見かけるようになったのです。
認知症の症状の一つに、無気力で何もする気が起きない状態を指す「アパシー」があります。うちのじーちゃんも、何かしようと誘ったり提案しても口癖のように「めんどくせえ」と言って家に閉じこもろうとするのです。ただ、よく観察していると実はある人の影響をものすごく受けていることが分かりました。
その“ある人”とは、ズバリばーちゃんのこと。
二人をよく観察していると、ばーちゃんはじーちゃんに「私が決めたルールにはアンタも従いな!」「私が○○しないって言ったら、あんたもやらないんだ!」「私たちは二人でやれるんだ」と独裁者のような恐怖政治(ルール)をじーちゃんに時々強制することも。
それは新しいものや人を拒んでしまったり、変化を受け入れにくい認知症の症状の一つでもあるのでしょうが、それによってじーちゃんの行動が制限されていたのもまた事実です。
じーちゃんお気に入りのデイサービス 「あたしが行かないと言ったらあんたも行かない!」とピシャリ
ある日、3人で近所の介護施設にショートステイやデイサービスの見学に行ったときのことです。その日のじーちゃんは積極的に人の輪に入っていく明るく活発なモードで、利用者さんたちにもガンガン話しかけていました。
一方で隣のばーちゃんを見ると、なぜかどんどん強張った表情になっている……。そして「私たちは二人がいいんだ」「私はこんなところになんか来たくない」と叫び出して大暴れ。ふと手をみると、爪が自分の手の平に食い込むくらい、震えながら強くこぶしを握っている……その後なんとか家に連れて帰ったものの、最後にわたしが家に入ろうとした瞬間、戸を「ピシャッ!」と閉めてカギまでかけられました。
なんとか家に入って、施設をすごく気に入っていたじーちゃんに話しかけたのですが、「また今度行こうね」と言ってみても、「もうおれはいいよ」「めんどくせえよ」と、一気に無気力状態に。こうして何をするにもいつも「私が行かないと言ったら行かないんだ!」というばーちゃんの勢いにのまれ、無気力状態に拍車がかかってしまうのです。
さらにばーちゃんは、このように荒れた日の夜はきまって夜通し何時間も家族や親せき、ご近所さんの根も葉もない悪口を、隣で寝ているじーちゃんに言い続けます。もしかすると内弁慶で意外とシャイなばーちゃんは、社交的にふるまうじーちゃんを見て、疎外感に苛まれたり一人ぼっちになってしまうのが怖かったのかもしれません。
でも負のエネルギーを受け続けたじーちゃんは、より一層無口かつ無気力な状態に陥ってしまうのです。
在宅介護は家族同士の距離感が大事! ひっかきまわす人の存在も
“認知症は伝染する”なんて、科学的根拠もなければまったく何の信ぴょう性もない話です。ただ、ときどき悪い方に転がっていってしまう二人を見ていると、そんな思いがよく頭をよぎりました。何か今の状況を変えなきゃいけない。そこでわたしがしたことは至ってシンプルで、バランスよく二人を引き離しちゃおうということ。
夫婦で仲睦まじく余生を過ごしてもらうのはそりゃ理想ですが、でも今のままではじーちゃんがちょっとかわいそう。
そこで、じーちゃんだけ買い物に付き合ってもらったり、ゆずこのカラオケ相手になってもらったり、夫婦を引き離すことであえて一人にして、物理的にも精神的にもある程度距離をとって気力を刺激してみました。
じーちゃんを連れ出すタイミングは、定期的に来る母やオバがばーちゃんを病院に連れて行っているときが狙い目です。もちろん夫婦一緒に行動できる機会も作りますが、あまり一緒に居すぎるとばーちゃんがまた何かと「マイルール発動!」させてじーちゃんの行動を制限してしまうので……。
ばーちゃんと離れすぎて不安や寂しさを感じない程度に、時間と距離のバランスを考えて引き離します。するとしがらみから解き放たれたように、ゆっくりと目に力が戻ってくるじーちゃん。
ところが、しばらくすると必ずきょろきょろとばーちゃんを探し出します。ずっと悪口を聞かされたり、いろいろと行動を制限されるのに。なんだかんだ、やっぱり夫婦なんだなあと思わされたゆずこでした。
こんなゆずこ家のじーちゃんとばーちゃんの関係性を、湘南いなほクリニックの院長・内門大丈先生は次のように話します。先生は、認知症の在宅医療推進や認知症情報の発信に積極的に取り組み、『認知症の人を理解したいと思ったときに読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)の監修も担当されています。
「夫婦といえど、ずっと同じ空間に一緒にいる……というのも息が詰まってしまいます。ゆずこさんの「一時的にでも引き離す」という方法は、その状況をいい意味でかき回してプラスになりましたね。
これはゆずこさんや介護者が入っていても同じことが言えるんです。いつも決められた空間の中でずっと一緒にすごしていると、いつの間にか自分を客観視できなくなってしまう。そしていつの間にか共依存の関係に陥ってしまう可能性もあるので、物理的にも精神的にも、たまには距離を変えたり人を入れてかき回すのはいいですね」
もちろん、ショートステイやデイサービスなどを使って、気分転換や適度な距離感を保つのがベストだと思います。ただ、うちの場合はばーちゃんが拒否してしまうことが多かったので、家族間ですったもんだ&試行錯誤してさまざまな在宅でのケア方法を考えたりしていました。
そしてばーちゃんいわく、「ゆずこはうちを引っ掻き回しにきた」とよく言われましたが……うーん結果オーライ。いい意味として受け取っておこうっと。
- 内門大丈先生
- 湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。認知症の在宅医療推進や認知症情報の情報発信に積極的に取り組んでいる。『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)監修。