もめない介護

連ドラ「餅と高齢者」 魔法瓶の裏ワザで想定外の親孝行 もめない介護36

コスガ聡一 撮影

「今年のお正月は、実家で一緒にお雑煮食べようか?」

夫にそう提案したのは、「新年早々、モチによる窒息騒動に巻き込まれたくない」という一心でした。

当時、義父母の嚥下機能はそれなりにキープできていて、食事も「普通食」でしたし、飲み物もトロミなしでOK。モチも自分たちで問題なく食べられそうな気もしていましたが、それでもやはり、“万が一”が怖い……と感じていました。

新年早々、夫の実家で雑煮を用意するなんて正直、面倒。でも、それ以外に選択肢がないならやるしかないじゃん! と思っていたのです。

しかし、夫は浮かない顔で考えこんでいます。
「うーん……。やっぱり、そうするしかないか。問題はどうやって雑煮を持っていくかだな」
「雑煮を持っていく……?」

夫に言われて、ハタと気づきました。

老人保健施設に一時入所したのをきっかけに、夫の実家では “ガスコンロを使わない生活”をスタート。義父と相談し、義母には「ガスコンロの調子が悪い」と説明し、ガスの元栓を止めたのです。火の不始末問題を再燃させないためにも、できることなら義母の目の前でガスコンロを使わずにすませたい……。

となると、夫の実家で使えるのは、オーブントースターと電子レンジのみ! どうやって雑煮を作ればいいのか、さっぱり見当がつきません。直前に自宅で作って、鍋ごと持ち込む……? でも、もともとの予定では12月29日から31日にかけてはわたしの実家に帰省し、31日には東京に戻ってきますが、そのまま友人宅の年越しに合流。自宅に戻って、雑煮をつくる隙間はなさそうです。どれか予定をキャンセルするしかないのか……。

我が家のシェフの知恵と介護餅で乗り切る

「大根とニンジンに味をしみ込ませるには、ある程度時間も必要だから魔法瓶を使って……」
夫は何か思いついたようで、ブツブツ言っています。

我が家は、圧倒的に夫のほうが料理が得意で、私はほぼ戦力になりません。具体的な雑煮の持ち込みオペレーションは夫に任せ、私は以前チラッと聞いたことがある、のどにつまりにくいという「高齢者向けのモチ」をネット検索することにしました。

「高齢者向け」「モチ」「のどにつまりにくい」などで検索すると、いくつかの商品やレシピがヒットします。介護食用の通販サイトのほか、ヤフーショッピングやアマゾンでも、のどにつまりづらい“介護餅”が購入できることがわかりました。

商品の解説文を読むと、うるち米や米粉を使ったり、ムース状にしたりすることで、かみ切りやすく、のどにも張りつきにくくするなど工夫がこらされているようです。さっそく注文し、モチについては手配完了!

問題は、夫も頭を悩ませていた雑煮汁と具の用意です。

夫曰く、野菜と鶏肉を下ゆでし、だし汁と一緒に魔法瓶で持ち歩けば、移動中にほどよく味がしみこみ、当日は電子レンジで温めるだけで大丈夫だと言います。でも、どこでその下ゆでをするのか。大晦日は友だちの家で恒例の年越しイベントがあり、その直前までは私の実家がある仙台に帰省しています。

夫と私、そして両親と4人で台所に立つ幸せ

「いっそのこと、うちの実家で仕込んじゃえば?」

完全な思いつきでしたが、結局のところ、それがいちばん現実的な方法ではないかという話になりました。いっそのこと、雑煮の材料も実家で少々分けてもらえば、わざわざそのために買い出しに行く必要もなくなります。

幸い、うちの実家の雑煮と、夫の実家の雑煮は材料がほぼ同じ。「そこまで甘えるのはちょっと……」とためらう夫を押し切って、正月用の大根やにんじん、鶏肉を実家で分けてもらうことにしました。

うちの母親は「魔法瓶で具材に味をしみこませるの? アイデアね」と興味津々。夫が、義父の大好物の鯛茶漬け用の鯛を仕込んでいるのを見て、「せっかくだから、習っておいて」と、父親(私の実父)をけしかけます。

私と夫、私の両親という顔ぶれで台所に立つのは初めての経験で、はからずも親孝行ができたような気分にもなりつつ、雑煮の仕込みは完了。魔法瓶に詰めた雑煮汁と、ネット通販で取り寄せた“介護餅”を大切に抱えて、年越しイベントへ。

そしてイベント終了後は、夫の実家から比較的近いエリアのホテルにチェックインし、数時間の仮眠をとった後、夫の実家に向かいます。

「大変な失敗をしてしまった」と繰り返す義母

眠い目をこすりながら、夫の実家に到着したのは元旦の朝9時。チャイムを鳴らすと、すぐさま玄関に義母が現れ、「あけましておめでとうございます!」とうれしそう。ところが、部屋に入った途端、急に義母の表情が曇ります。

「大変な失敗をしでかしてしまったの……」
新年早々、一体なにが!? と思いながら話の続きを促すと
「お正月なのに、お餅を買うのを忘れちゃったの!!!!」と、義母はショックを隠しきれない様子です。

実は、年末の実家支援をお願いしていた義姉に、くれぐれもモチは買わないよう、お願いしてありました。義父母には「新年のモチは我々が用意します」「雑煮も準備するので大丈夫」と繰り返し伝えていました。

しかし、いざ新年を迎えてみると、そんな話は記憶の彼方に消え去り、義母の心情は「モチを買い忘れたショック」に埋め尽くされていたのです。

雑煮の準備は夫に任せて、わたしはお母さんの“モチ買い忘れショック“のフォローを担当。

「おふたりだけでモチを食べるとのどにつまらせて心配なので、今年はわたしたちが用意しますという話になったんですよ」
「あら、そうだったの! じゃあ、買わなくてよかったのね」

説明すると一瞬、落ち着くものの、数分もすると「大変な失敗をしてしまったの……」という話が再燃します。

「今朝起きて、おモチを食べようと思ったら、冷蔵庫になかったの! こんなこと、長年生きてきて一度もなかったのに。もしかしたら、認知症になってしまったのかも……」
義母はよほどショックだったのか、ひたすら会話がループし続けます。

頭ごなしの否定は逆効果。最善の落とし所を探って

義母の話を聞きながら、やはり、「のどにつまるからモチを食べるのは控えよう」と言ったところで聞いてはもらえないだろう、という判断は間違ってなかったと確信します。それどころか、「モチは持参します。雑煮も用意します」という提案も、軽やかにスルー。

義母は私たちの到着を待つ気もさらさらなく、もし、冷蔵庫にモチがあれば、朝一番で食べる気満々でした。うっかりモチの買い置きがあれば、私たちが到着するころには、ごく当たり前のように食べていたはずです。セーフ!

幸いなことに、介護餅についても「こんなのは私が知っているモチと違う!」と拒否されることはなく、「これはこれでおいしい」とすんなり受け入れてもらえました。義父母の好奇心に救われた部分もあり、こればかりは個人差が大きく一筋縄ではいかないケースも考えられます。

ただ、いずれにしても「正月にはモチを食べるもの」という習慣は根強く、命の危険がどうといっても、頭ごなしに否定すれば、反発されるのは目に見えています。家族がいくら気を揉み、命を守るためだと力説しても、ご本人たちにとって折り合いがつくかどうかは別問題です。

やみくもに禁止するわけではなく、かといって、無条件に言いなりになるのではなく、話し合い、観察しながら安全でストレスの少ない落とし所を探っていく。認知症介護はその繰り返しなのかもしれません。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について