もめない介護

墓参りにこだわる義父 認知症介護3年目のわが家の対応 もめない介護28

コスガ聡一 撮影

義父「いまからお墓に行きます。今日来られますか?」
わたし「えーっと、お墓参りですか?」
義父「そうです。今日行けますか」
わたし「今日は難しいので、約束していたとおり、お彼岸に行きましょう」
義父「お迎えはいつですか?」

義父とそんなやりとりをしたのはたしか、9月の始めごろでした。2017年春に夫婦そろって認知症だと診断された義父(当時89歳)と義母(当時86歳)は約2年間の在宅介護生活を経て、現在は有料老人ホームで暮らしています。

夫と相談し、お墓参りの日にちを決め、施設に連絡するとともに、義父母の部屋に掲示してもらうよう「貼り紙」をFAXで送りしました。

約束への緊張感から解くおまじないを添えて

〈お墓参りは9月22日(日)です。
10時30分に迎えに行きます。
いつも通り、朝食をしっかり食べ、
朝の体操にご参加ください。 真奈美〉

義父も義母も、日にちや時間の感覚はかなり曖昧になっていますが、スケジュールへの関心は失われていません。むしろ、忘れる不安があるからこそ、きちんと知りたいと強く思うのかもしれません。

義母に「何曜日だったかしら?」「何時だったかしら」と質問攻めにされ、義父が疲弊することがないよう、貼り紙にはしっかり日時を記入します。こうしておけば、介護スタッフの方々にも助け船を出してもらいやすくなると、在宅介護時代に学びました。

朝食と体操のくだりは主に、義父に向けたメッセージです。「約束を忘れてはいけない」という緊張感から、一歩も部屋を動かなくなることが何度かあったことから付け加えた一文です。どこまで効果があるかはわかりませんが、少しでもリラックスして、いつも通りに過ごしてくれますように……という、半分おまじないのような気持ちで書いています。

このまま施設での療養か、それとも入院加療か

とりあえず、これで準備万端。あとは当日、晴れるのを祈るばかりかと思いきや、予定していたお墓参りの数日前に、義父が大量下血で緊急入院することに。幸い、10日ほどで退院できましたが、その後も熱が上がったり、下がったり……。

抗生剤と解熱剤を内服すれば熱が下がり、食欲もある程度はキープできているようです。しかし、薬の服用期間が終わるとまた熱が上がってきます。このまま、施設での療養を続けて大丈夫なのか、それとも入院加療を視野に入れ、受け入れてくれる病院を探すべきなのか。

ただ、入院させれば安心というわけではなく、入院がきっかけで認知症の悪化を引き起こすリスクもあれば、筋力の衰えにもつながります。かろうじて、キープできている食欲がさらに減退する可能性もありうるわけです。

困った……。結論が出ないまま、様子見を続けていたところ、施設から連絡がありました。電話をかけてきたのは義父で、開口一番こう言われました。

一刻も早く墓参りに行きたい義父

「今日あたりお墓に行きたいんだけど、都合はどうですか? お迎えはいつですか?」

いやいや、お父さん!!! わたしたち夫婦が、うっすら見え隠れする“お迎え”の気配に気をもむ中、どうやら義父は別の意味で、お迎えが気になっていたようです。

とっさに「お医者さまと相談中です」と説明しました。発熱もあり、体調に不安があるので医師に相談していると義父に説明すると、「僕の体調がまだそんな感じですか」と怪訝そうなリアクションが返ってきました。

義父の認識としては「もう元気になった!」ので、「一刻も早く墓参りに行きたい!」ということのようです。解熱剤がうまく効いている間は熱がストンと下がっていると考えると、さほど不思議なことではないのかもしれません。

ゆっくり衰弱し、気力を失いかけている心配はなさそうですが、「墓参りにいつ行くか」問題が再浮上してきました。つい最近まで、自分の足で立って歩いていた義父は退院後、車椅子生活になっています。家族だけで墓参りに連れて行けるものなのか、少々不安に思うところもあります。ただ、このまま先送りにしても、事態が好転する確証はありません。むしろ、何らか悪化する可能性が高いのではないか。そう考えるのには理由があります。

高齢者の行動力や実行力を軽んじるべからず

認知症介護が始まったばかりのころ、「うちの親は墓参りに興味がないから」という義姉の言葉をうのみにし、ほったらかしにしたのが大失敗。ある日ケアマネさんから「A子さん(義母の名前)の行方がわかりません」と切羽詰まった声で電話がありました。

義父の話では、急遽、墓参りを思い立ち、夫婦ふたりで出かけたけれど、移動中にはぐれてしまったそう。結局、その日の夜に義母は無事に帰ってきて、途中で迷子になりながらも墓参りを済ませたことがわかりました。義母本人は「大騒ぎだったんですって?」とケロリとしたものでしたが、こちらは本当に肝が冷える思いでした。

さすがに現在の義父母が施設を抜け出し、ふたりきりで墓参りというのは考えにくいですが、想像のななめ上を行く「何か」が起こらないとも限りません。思い込んだら一直線。高齢の親だからといって、行動力や実行力を軽んじると痛い目に遭うというのが、義母の“墓参り”失踪事件の教訓です。

義父との電話を終えた後、夫に連絡をとり、墓参りの日程を調整しました。レンタカーを予約し、施設に例の「お迎え」に関するFAXを送信し、準備完了!

今回も義父が体調を崩して墓参りに行けなくなる可能性はもちろんあります。でも、そのときはそのときで予定を変更し、再調整すればOK。のんきに構える場面と、すみやかに行動する場面、その緩急がつけられるようになったのも、3年目に入った認知症介護の成果と言えるかもしれません。

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