介護のストレス。認知症の人の愚痴には心に余裕を持った対応を もめない介護3
編集協力/ Power News 編集部
「介護そのものはそれほど負担ではないんです。ただ、母が何かあるたびに『さっさとお迎えが来てほしい』と嘆くのがつらくて……」と話してくれたのは、認知症介護6年目になるという、リョウコさん(60歳・仮名)。
リョウコさんのお母さんに認知症のきざしが見え始めたのは、お父さんが亡くなったのがきっかけ。それまでは夫婦で散歩に出かけていたりしたのが、引きこもりがちになり、「気づいたときには認知症が進んでしまっていた」と言います。
お母さんの発言の背景には寂しさも見え隠れします。リョウコさんは「母の気持ちもわかるのだけれど、でも何度も続くとこちらもウンザリしてしまって」と苦笑い。「またその話!?」「もういい加減にして」と不機嫌に対応してしまい、後悔することが時折あるそう。
わたし自身も、義両親の認知症介護が始まったばかりのころ、この「早くお迎えが来てほしい」発言にずいぶん悩まされました。
一触即発の中、医師の「なぜ?」
義父はそうでもありませんでしたが、義母は何か気に入らないことがあるたびに、“お迎え”リクエストを連発。介護が始まるまでは、年に一度会うか会わないかという疎遠な関係だったので、「おかあさん、そんなこと言わないで長生きして!」と言うのもなんだか白々しいし、かといって「そうですね」と同意するのもおかしな気がする。かといって、聞き流すのにも限度があるし……と、ひたすら困惑していました。
ある日のことです。夫婦揃ってもの忘れ外来を受診した際に、こんなやりとりがありました。
診察中、義母がいつもの調子で「こんな不自由な状態で生きていても仕方がない」「早くお迎えが来てほしい」と愚痴り始めたところ、医師が「お迎えが来てほしいんですか?」と、聞き返します。
義母は憮然とした表情で「ええ。そうですね」と答え、一触即発の雰囲気。さらに医師が「どうしてお迎えが来てほしいんですか?」と質問を重ねます。
義母をニコニコにした医師の一言
「長生きしても厄介なことばかりですから! 早くあの世に行きたいです」と義母がイライラをぶつけても、医師は顔色ひとつ変えず、「なるほど。あの世っていいところなんですね」。義母の不満を一通り聞き出したところで、「でも、そんなに早く行っちゃうと、残されたお父さんがさびしがるんじゃないですか?」と問いかけます。
義母は気勢をそがれたようで、「まあ、それはそうなんですけど……」とモゴモゴ。医師が「まあ、僕もまだあの世に行ったことがないのでわからないんですけど」と言うと、義母は「いやだ、先生! 私だって行ったことありませんよ」とニコニコ。あれ? ご機嫌直ってる!
締めの台詞を決めて、心に余裕を
これ以来、義母が“お迎え”願望を口にしたときは、淡々とした対応を心がけるようになりました。「どうしてそう思ったの?」と理由を尋ね、具体的な答えが出てくれば、解決策を探る。漠然とした愚痴のときはひと通り聞くだけ聞いた後、「でも、おとうさんがさびしがるんじゃない?」で、この話題は終了。話を締めくくるフレーズを決めておくと、こちらも気がラクです。
この対応を繰り返すうちに、義母が「早くお迎えが来てほしい」と嘆く回数は減っていきました。今でも時折、口にすることはありますが、深刻さはなく、少々おどけた調子での「長生きするってホントいやね。早くお迎えが来ないかしら」。
わたしが「タクシーの“お迎え”じゃないんだから、そう簡単にこちらの都合には合わせてくれないですよ」と笑いながらツッコむと、「それもそうね」と、うれしそうにしています。