若年性アルツハイマーとともに 失敗したって笑顔で生きる 丹野智文さん
取材/磯崎こず恵 撮影/中田 悟
朝日新聞社は10月30日、「消費者」としての認知症の人たちのニーズを考えようと、企業向けの勉強会を開きました。当事者の丹野智文さんが講演し、「失敗しても怒らず、次はできるかもと信じてあげて」「当事者は守られるのではなく、皆さんの力を借りて課題を乗り越えることが必要だ」と話しました。 その後、「なかまぁる」の冨岡史穂編集長と対談。いつもおしゃれな丹野さんの買い物のこだわりや、一人で行動する理由などを語っていただきました。なかまぁるでは、この対談の様子を、詳しくお伝えします。 朝日新聞社は創刊140周年事業として、認知症フレンドリープロジェクトを展開しています。
冨岡史穂編集長(以下冨):今日は、どうしても聞きたいことがあるんです。丹野さんは、とてもおしゃれですよね。「奥様スタイリスト」がいらっしゃるんですか。
丹野智文さん(以下丹):これは自分で選びました。服はもともと好きで、自分で買いに行ったりしています。妻に選んでもらうとおじさんくさくなってしまうので。買い物は、家族と一緒だと、自分が本当に買いたいときに買えない。だから私は1人で買いに行くんですけど、他の当事者をみると、一人で買い物ってできないんですよね。家族が外に一人で出さないんです。
冨:自分で選択すること、そして選択する時間を家族が妨げないのも重要なのですね。
丹:診断される前と、診断から時間がたった後とでは、認知症の症状は増えているかもしれないけど、実は何も変わってないんですよ。認知症の症状が出た、それだけなのに、別人のようにみんな守りすぎです。だから認知症の人は何もさせてもらえなくなるんです。
「新手のナンパですか」と言われ、まずいと思った
冨:丹野さん、太らないコツはあるんですか?
丹:会社まで歩きます。車の運転をやめたときに、妻に会社まで送り迎えしようかって言われました。送り迎えをしてもらったら、すごく楽ですよ。だけど、それを受け入れたら自分でなにも出来なくなるんじゃないかって思ったんです。だから自分でやるって。
冨:自分でやると、いろいろ工夫が必要になるのでは?
丹:会社へ行くのに電車に乗っていて、どこで降りるのか忘れることが多くて。聞けばいいやって思って、電車に乗っている女性に「どこで降りるか分からなくなって。教えてください」と言ったら、「新手のナンパですか」って言われたんです。
これはまずいと思って、定期入れに「若年性認知症本人です。ご協力ください」って書いて、それを見せながら聞いています。みんな優しく教えてくれますよ。
券売機の使い方を忘れたら聞けばいい
冨:今日も仙台からお一人でいらっしゃったんですか?
丹:一人で来ましたよ。新幹線は、駅員さんのいる窓口で買うからいいんですよ。券売機ではもう買えないです。そのときどうするか。駅員さんに「若年性認知症で、切符の買い方を忘れたから教えてください」って聞けば、教えてくれますよ。教えてくれるのに、やらない。やらないんじゃなくて、家族がやらせない。守るから
冨:社会の側も、一人でやることを前提にできていないですね。
丹:できていないですね。だから、一人でよく来るねっていわれますよ。大丈夫なの?って。
しゃべれるから大丈夫じゃない、聞けばいいんですよ。実際に、町中でも道が分からなくなって困る時があるんですよ。そしたらタクシーに乗って『近くの駅まで』って言えばいいんじゃない、と思うんです。通勤の行き帰りに道が分からなくなって、タクシーに乗ることもありますよ。でも近くまで行ってるから、料金もそんなにかからないし、いいかなって。
一人で出張、「ホテルのベッドでビール」が楽しみ
冨:一人でいろんな所に行くのは、自立の証しでもある。そして一人の時間も大切ですね。
丹:講演に一人で行くと、ホテルのベッドでビールを飲むのが楽しみで。あとテレビをつけっぱなしで寝ます。どちらも家でやると怒られるから。でもそういうのも必要かなって。
あと、一人でやると失敗もいっぱいあるんです。失敗した時は、どうやって工夫すれば補えるかなあって考えます。ほかの当事者たちにも役に立つんじゃないかなって思ったりしてます。