必要なサポートが介護とは限らない 若年性認知症と診断された丹野智文さん
取材/磯崎こず恵 撮影/中田 悟
「消費者」としての認知症の人のニーズを考える企業勉強会「認知症当事者とともに考える」の様子をお伝えする記事の後半です。認知症当事者の丹野智文さんと、「なかまぁる」の冨岡史穂編集長との対談は、あの大人気スマートフォン向けゲームにも及びました。(対談前半はこちら)
「ポケモンGOをやっていた」と言えなかった
冨岡史穂編集長(以下冨):「ポケモンGO」をされるんですよね。
丹野智文さん(以下丹):会社の若い人たちに言われて、やってみたことがあるんです。友達との待ち会わせまで30分ぐらいあったから、町中で初めてやってみた。そしたらある人が、「テレビに出ていた丹野さんですよね。道に迷ってますよね、どこまで行くんですか」って。その時ポケモンGOをやってるって言えなくて。今はあんまりやってないです。
冨:ほかにもよく使うスマートフォンのアプリが?
丹:時計の目覚ましですね。バスが来るのが何分かなって見ても、すぐ忘れるから、だいたい気付くと(バスは)行っちゃう。だからバスが来る5分前にアラームが鳴るようにしてます。あとは乗り換え案内とか、グーグルマップとか。これだって、携帯電話を認知症になる前から使っていたから、使えるんですよ。
重度になる前に必ず初期がある
冨:同じ認知症でも、丹野さんみたいに若い人もいれば、90歳を超えている人も。それぞれにきめ細やかなサービスや支援があってほしいと。
丹:こういうところで登壇すると、うちの施設にいるおじいちゃんやおばあちゃんと丹野さんは、全然違うって言われるんですよ。そりゃそうでうよね、もともと40代と70代は違うでしょう。認知症の症状と老化は違うということは、もっと認識されていいと思う。
冨:認知症1千万人時代と言われています。これから増えていくのは丹野さんと同じように、インターネットを使い慣れた人たちで、認知症と診断される方たちですよね。
丹:認知症の人はインターネットなんて見られないよって言われます。いやいや、見られるよって。仙台で冊子を作ったときも、認知症の人は読めない、しゃべれないって言われる。読めますし、しゃべれますよ。みなさんに伝えたいのは、重度になる前に必ず初期があって、診断直後があるんですよ。そこを無かったことにして、重度の人ばっかり。メディアもそうですよ~(笑)。
冨:あ、メディアも…。
出来ないことをサポートするシステムを
冨:どういう情報が増えていけば良いですか?
丹:私は診断されて、1年間、毎日泣いてばかりいました。インターネットで調べても何一つ良い情報が無かった。不安と恐怖でつぶされそうになって、勝手に涙が出るんですよ。冊子なども、介護保険とか重度の人の情報ばかりで。そうじゃなくって、認知症になっても今までの生活をどのように続けていくか、そこに出来ないことがあったらそこだけサポートしてもらうようなシステム、それが必要なんです。
笑顔で生きられると思える、当事者同士の出会いの場を
対談の最後に、会場の参加者から、「あったらいい、もしくはあって良かったと思う国や自治体の支援は」という質問が寄せられました。
丹:地元仙台で作り始めたのが、当事者同士が出会える場です。笑顔で明るい当事者に会って、こうやって笑顔で生きられるって思えた方がいい。いま認知症の人の支援はあまりないんです。重度になってからの支援ばかりで、診断直後から介護保険が使えるようになるまでの間は、何もないです。
冨:介護としての支援しかないのですね。実際には、認知症と診断されたときも、体は元気な人も多い
丹:だけどみんな、介護が必要だという視点だけで……。私はまだ介護は必要ないですよ。確かに切符は買えないとか、人の顔を忘れるとかあるけど、それだって助けてくれる人はいっぱいいます。必要なサポートは、介護ではないんです。当たり前の人付き合いで助けてもらえる部分があると思うので、そういうのが増えてきてほしいなあと思ってます。