認知症の人だからこそ、生み出せる価値も見える化を 未来共創ハブ開設
取材/冨岡史穂
「認知症とともによりよく生きる未来」のために、認知症の本人、家族や地域住民と産官学が連携した体験や知見の共有をめざす「認知症未来共創ハブ」(代表・堀田聡子慶応大大学院教授)のオープンイベントが20日開かれ、100人を超す参加者が集まりました。
認知症未来共創ハブは、「より魅力的な生き方(wellbeing=ウェルビーイング)」を研究する慶応大ウェルビーイングリサーチセンター、医療政策のシンクタンク「日本医療政策機構」、認知症フレンドリーを目指す地域をつなぐNPO「認知症フレンドシップクラブ」、様々な社会課題の解決にデザインの視点から取り組むNPO「issue+design」が運営団体となり、認知症のある人の思いや体験、知恵や工夫を集めて発信したり、研究をすすめて課題解決や商品開発につなげたり、政策提言に取り組んだりしながら、認知症とともに生きる人たちの社会参加や就労支援などを含めた「よりよい未来」づくりを目指しています。
東京・大手町で開かれたオープンイベントでは、評議員として共創ハブに参加する丹野智文さんが、自身が若年性アルツハイマーと診断された体験をもとに講演。「目が悪い人たちは、それぞれの視力にあったメガネを持っている。合わないメガネをかけたら動けなくなってしまう人もいるだろう。認知症だって、いろいろなタイプがあり、段階があり、それぞれの価値観がある」と語り、「認知症の人」とひとくくりにせず、もっと多様性に目を向けるべきだと訴えました。自分自身の「よりよい未来」については、常に不安と闘っている認知症当事者たちの笑顔が増えるように、自らの活動を通して「認知症のイメージをぶっこわし、認知症らしくない当事者でありつづけたい」と力強く宣言しました。
さらに丹野さんは、共創ハブ代表の堀田さんとの対談にも登壇し、勤め先の自動車販売会社では講演活動などの経験をいかせる新卒採用の業務にかかわっていることや、新たな挑戦として、病院で認知症と診断された直後の人に会うことで、本人同士ならではの支援のあり方をさぐる取り組み始めたことなどを紹介しました。
その後、共創ハブの理念に近い活動をする人たちの「リレープレゼンテーション」として、世界保健機関(WHO)健康開発総合研究センターの茅野龍馬さん、東京都健康長寿医療センターの粟田主一さん、福岡県大牟田市の猿渡進平さん、シルバーウッド代表取締役の下河原忠道さん、武田薬品工業の吹田博史さん、スターバックスコーヒー町田金森店の林健二さん、京野菜いのうち代表の井内徹さん、経済産業省ヘルスケア産業課の西川和見さんの8人が次々に登壇し、活動などを紹介しました。
最後に、運営委員たちが共創ハブ立ち上げの経緯や今後の活動予定などを発表しました。代表の堀田さんは、「『認知症になっても(○○できる)』を超えていきたい。認知症の人だからこそ、生み出せる価値があることをしっかり見える化し、エビデンスを示したい」と語りました。
「認知症の人を『守る』から始めて、一緒に働く、社会参画するところまできた。地域の風景をつくるパートナーとして一緒に活動していきたい」(大牟田市の取り組みを紹介した猿渡さん)
「認知症になったら終わり、と考える人たちにパラダイムシフトを起こしたい」(サービス付き高齢者住宅の新しい運営スタイルで注目される下河原さん)
「認知症の方や、関係者の方の思いがつながる場所を提供することで、地域の人たちと長期的な信頼を築いていきたい」(定期的に認知症カフェが開かれるスターバックス町田金森店の林さん)
「認知症の人たちと一緒に、ブランド野菜作りに挑戦する」(万願寺唐辛子など京野菜農家として認知症の人たちに就労の場を提供する井内さん)
【こちらも注目記事】
・認知症とともに生きる 失敗したって一人で行動し続ける理由 丹野智文さんが語る
・必要なサポートが介護とは限らない 若年性認知症と診断された丹野智文さん
・デートで介護を話題に。そのとき相手の男性は ~認知症フレンドリーを目指して2