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アガワ式 認知症との向き合い方

認知症の母と過ごす日々で気づいたこと 阿川佐和子さんと介護1

阿川佐和子さん アガワ式 本文1新

「最近、介護をテーマにした作品って、小説にしろ映画にしろ本当によくみかけるようになりましたよね。私も随分目にしてきましたけど、これがね、みんなつらい(笑)。なので、自分が書くとしたら、なんとか明るい介護小説は書けないものかねと思ったんです。明るいわけはないんですよ、介護っていうのは。だけど、全然明るい要素がないかというと、そうでもない。それを見つけることが大事なんじゃないかと思うんです」

作家として、インタビュアーとして、最近は女優としても、マルチに活躍する阿川佐和子さん。

『看る力 アガワ流介護入門』(文藝春秋)、『ことことこーこ』(KADOKAWA)と、介護や認知症を題材にした新刊が続いています。阿川さんならではの、認知症への視点をお聞きしました。

介護小説にも明るさを 実の母との日々もネタに

最新刊『ことことこーこ』の主人公・香子(こうこ)は、結婚11年目にして夫と離婚し、実家に舞い戻ったアラフォー女性。フードコーディネーターの仕事をスタートさせ新しい人生に踏み出そうとしますが、その矢先、母・琴子に認知症の症状が見られるようになります。仕事と介護に意気込む香子ですが、大事なテレビ番組の収録で失敗するわ、その間に母の症状は進んでいくわ、介護を体験したことのある人なら身につまされるようなことが次々に起こります。

ただ、自宅を訪れる娘の仕事仲間や病院の看護師とすぐ打ち解けてしまう琴子の行動には、読み手をクスッと笑わせるところが多々あって、全体に流れるトーンはユーモアにあふれた明るい作品です。

「うちの母はかなり明るい呆け老人(笑)ですから、そういう母を多少モデルにしたところはあります。『実際はこんなに甘いもんじゃないよ、アガワ』と突っ込まれるところもたくさんあるでしょうが、つらいことが多いからこそ明るい面にも光を当てたかったんですよね」

阿川佐和子さん アガワ式 書影 新
阿川佐和子さんの最新刊『ことことこーこ』(角川書店、1,620円税込み)

実生活で阿川さんの介護生活が始まったのは、2012年。父である作家の阿川弘之さんが自宅で転んで入院したことがきっかけでした。さらに、時を同じくして母親に、認知症の兆候が出始めます。じわじわと始まった介護生活。忙しい仕事は相変わらずで、いっぽう自身は更年期症状にも見舞われる。「報われないなぁ」と思ったこともたびたびだったそうです。

「母は父だけに耐えて尽くしてきた人生だった。『私は誰のために生きているのかしら』なんて嘆くこともあったので、その反動で怒り出すとか、拗ねるとかいうネガティブな感情が認知症の症状に表れるのかと思っていたら、これが本当に明るいんですよ。父についても、『別にそんなにひどい目に遭ってないわね』って言ったり。忘れるって素晴らしいこともあるなぁと(笑)」

オクラもタダでは終わらない

こんなエピソードも。

「オクラを食卓に出すと、『あら、おいしい、これなあに?』って聞くので、『これ忘れちゃったの? オクラ』と答えると、『なんだ、オクラね』」

2分たったころにまた、「『あら、おいしい。これなあに?』。『さっき言ったでしょ、なんだったかなぁ?』『うーん……』『オクラ』。『あ、オクラ』。それを3回繰り返して『さっきも言ったでしょ。どうしてそう忘れるの?』って言ったらね、『覚えていることもある』って反論するんですよ」

そこで阿川さん、「『じゃあ、何を覚えているのかなぁ? 言ってみようか』と言うと、『うーん……今、覚えていることが何だったか忘れちゃった』って。頭よくない?(笑)」

続きを読む「後ろめたさ」が優しさを生む

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阿川佐和子(あがわ・さわこ)
1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒。テレビ番組のキャスター、エッセイスト、小説家として活躍。08年『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。12年の新書『聞く力 心をひらく35のヒント』は年間ベストセラー第1位に。14年菊池寛賞、18年橋田賞。最新刊の新書『看る力 アガワ流介護入門』(共著)では、父親の主治医と対談をまとめた。

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