「嫌いなヤツがいる」 父がやっと入った施設を出たがります 【お悩み相談室】
構成/中寺暁子

認知症介護指導者の久保圭司さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.以前見学して気に入ったグループホームに1年近く待って父(80代)を入居させることができました。安堵したのもつかの間「嫌いなヤツがいるから出て行く」と父。少人数のホームなのでほかの利用者と関わらないのは難しく、困っています(50代・女性)
A.グループホームは少人数の施設なので、一人ひとりに合わせたケアを受けられる点がメリットです。その反面、人間関係でトラブルが起きた場合に、その相手と全く関わらずに生活することは難しいという難点があります。お父さんはそのグループホームを気に入ったからこそ、1年近くも入居を待たれたのだと思います。出て行くことなく、問題を解決できるといいですよね。
できれば、お父さんに誰のことが、なぜ嫌いなのかを聞き出して、それをスタッフに伝えられるといいと思います。「嫌いなヤツ」という表現だと、利用者ではなくスタッフである可能性も考えられます。スタッフであれば、施設側も対策を考えやすいと思います。
グループホームの居室は原則個室で、食堂やキッチンは共同スペースとなります。嫌いな相手が利用者である場合も、個室と共同スペースをうまく使い分けて、なるべく関わらないようにする工夫はできるはずです。私はグループホームに勤務していますが、利用者間でトラブルが起きることは珍しくありません。年齢や認知症の程度には差がありますし、持病もそれぞれで、多様な方が入居されていますから、当然のことだと思います。なるべく顔を合わさないように時間帯をずらしたり、食堂の席を遠くに離したりといった対応をすることもあります。
お父さんは入居して間もないので、知らない人たちと暮らすことにまだ馴染めず、ストレスがたまっている状況だと考えられます。それが「出て行く」という言葉につながっている可能性もあります。このため、ご家族ができることとしては、お父さんがなるべく早く馴染めるように、居室の環境を自宅にいたときと近い環境に整えることです。自宅で愛用していたものを持ち込むのもいいでしょう。居室を自分の居場所だと感じられるようになれば、ストレスは軽減されていくのではないでしょうか。また、スタッフがお父さんをよく理解することも、お父さんの居心地のよさにつながるので、ご家族はお父さんが好きなこと、嫌いなことなど、スタッフにできるだけ情報を伝えてほしいと思います。ご家族は「父は昔はものづくりが好きだったけれど、認知症だからもうやらないですよ」といった言い方をされることがあるのですが、ご家族の前ではやらなかったことをグループホームではやるというのは、よくあることです。認知症というフィルターをかけずに、情報はどんどん伝えてほしいと思います。
時間の経過とともにグループホームに慣れてくれば、気持ちも落ち着いてくるかもしれません。お父さんが早く、居心地よく暮らせるようになるといいですね。
【まとめ】父が1年待ってグループホームに入居したのに「嫌いなヤツがいるから出て行く」と言うときには?
- 誰のことがなぜ嫌いなのかをお父さんから聞き出し、スタッフに伝えて対応してもらう
- グループホームにまだ馴染めていないことからのストレスがあるかもしれないので、居室を自宅に近い環境にする、スタッフにお父さんのことを理解してもらうために、情報をできるだけ多く伝えるといった工夫をする
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫
