窮すれば通ず! 解決の糸口は、母には関係ないと思っていたあの施設

いつかはやってくると思いつつ、ついつい先送りしてしまう親の介護の準備。関西在住のイラストレーター&ライターのあま子さんもそんな一人。これまで一人暮らしを続けていた母が、2022年正月早々に転倒し、骨折→入院という経緯で認知症を発症。いったん母は首都圏に住む兄一家のところで暮らすことになりましたが、その後、母は入退院を繰り返します。そうした中、母の住まい探しを関西で続けていたところ、とうとう母に合いそうなサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を見つけたのですが…。
迷走の末、やっと見つけた母に最適なサ高住。しかし、母が「食道アカラシア」という珍しい病気と診断されたため、ホームから入居不可と断られたのは、前回お伝えした通りです。理想のホームに入れない衝撃も大きかったけれど、もっとショックだったのは落ちた理由が「健康問題」だったこと。これから新たなホームを探しても、同じ理由で断られるかもしれない。その夜は、落胆と不安で押しつぶされそうになりながらベッドに入りました。
布団の中で煩悶(はんもん)していたとき、ふとした疑問がわきました。「入院先から自宅へ戻らず、施設に入る人も多い」って聞いたことあるけど、その人たちはどこに入居するんだろう?
健康に不安を抱えている人を受け入れてくれる施設があるってこと…? そう思うと、いてもたってもいられず、ベッドから抜け出して、すぐにパソコンをつけました。「窮すれば通ず」ということわざがありますが、このときの私がまさにそんな感じでした。ネットで調べると、いまの母に適した形態の施設が見つかったのです。その名は「老人保健施設」(老健)。
- 【「老人保健施設」(老健)とは】
- ・公的な施設で、介護保険が適用される。
・在宅復帰を目的とし、リハビリや医療ケアを受けながら生活できる。
・医師や看護師が配置されており、医療ケアが24時間体制で受けられる。
・入所期間の目安は3~6カ月
老健は、母のように「退院はできても、自宅(老人ホームやサ高住も含む)での生活には不安が残る」という人にピッタリの施設です。介護や医療ケアだけでなく、理学療法士や作業療法士などの専門スタッフによるリハビリも受けながら、入所者は在宅復帰を目ざします。
前から「老健」という言葉は、ネットで目にしていました。でも、当初、元気だった母には関係ないと読みとばしていました。よく利用する商店街でも、自分に用のない店は見ていないのと似た感じです。探すと市内でも、複数の老健が見つかりました。それぞれのホームページや、評判などを調べ、候補を3つに絞り込んだときには、すでに夜が明けていました。
受付があくのを待って、さっそく第1候補の老健に電話をかけました。わが家から1番近いところでしたが、本人面談ができないとダメとのこと。気持ちが弱っているときだったので、電話口の女性の事務的な言葉に、ちょっと涙ぐんでしまいました。
しかし、落ち込んでいるひまはありません。すぐさま、第2候補に電話。家から電車とバスで1時間近くかかるものの、口コミがとてもよかった施設です。電話口で対応してくれた支援相談員の女性は、とても親身に話をきいてくれました。そして、「ベッドに空きはある」「体調面は入院先の担当者と相談する」「本人との面談は必要なし」と、私のほしい言葉をすべてもらえたのです。このときは、先の電話のときとは真逆の意味で涙ぐみました。すぐさま兄と義姉にも連絡して了承をもらうと、翌日には申し込みもかねて見学にいきました。
見学17:2023年4月 B市の老健
めざす老健は、ヨットハーバーのすぐ前にありました。8階建ての大きな施設。目の前をさえぎるものがなにもなく、解放感があります。悲壮感に取りつかれていた私も、陽光にきらめく海をみて、しばし爽快な気持ちになれました。母も海が好きなので、きっと気に入ると思います。
老健は施設の性格上、病院が経営することが多いようです。こちらの施設も、病院の一部が老健になっていました。同一の建物内に病院があるのはなにかと心強い。
- <施設情報>
- ●1カ月の料金:居住費、食費、日用品費(ティッシュなど)、教養娯楽費(新聞など)、あわせて約8万円
別途、寝衣リース、テレビレンタル代など
●部屋:多床室約130ベッド、洗面台(共有)・収納スペース・緊急通報装置(ナースコール)
●食事:施設内調理
●人員配置:夜間は1人
●特徴:24時間医療体制
受付で、名前を伝えると、すぐに電話で話をした女性がきてくれました。20代かな。電話口でも好印象でしたが、対面してもやはり感じがいい。入り口そばのテーブルで施設の説明を一通り受けたあと、内部を見せてもらうことになりました。
フロアを案内してもらいながら思ったのは、ここは病院の延長にある施設だということです。これまで見学してきた老人ホームでは、生活に必要な居住スペースが確保されていましたが、老健では個室料金を払わない限り多床室になります。部屋は居室というよりは、病室に近い…というか病室です。状況に応じて部屋は変更になることもあるらしいです。部屋によっては海が見えるので、願わくば海側になってほしいな。

持ち込む品は、入院時と同じように必要最低限のもの。いや、衣服もリースできるとのことで、持ち込む必要はないので、入院より荷物は少ないかも。必要なのは靴下や下着、タオルと、ブラシくらいとのことでした。
入所後の面会については、当時はコロナ禍ということもあって、15分程度と制限されていました。とはいえ、短い時間でも顔を見られるのはありがたい。とにかく、入所させてもらって、母の体を回復させることが目的なので、細かいことは言っていられません。入所の希望を伝えて、必要な書類などの説明を受けました。母の情報については、義姉や入院先のケアマネさんとやり取りをしてもらいます。書類を提出して、審査が通るまで安心はできませんが、ひとまず母の入所先(候補)が決まりました。
【感想&後日談】
施設見学のあと、持ち帰った書類にすぐに必要事項を記載して提出。母の健康状態に関しては、入院先から「退院してもよい」との許可が下りた段階で、義姉に健康診断などの書類をそろえてもらい提出してもらいました。
1週間ほどたって、支援相談員さんから家族面談の連絡がありました。今回は支援相談員さん以外に、医師、看護師さんも同席していました。緊張するっ!
面談といっても、母のことは前回いろいろ話していたので、入所後の医療や看護について、生活の諸注意、料金体制など、施設側の説明がメインでした。
医師に、食道アカラシアについても聞くと、母は「アカラシア疑い」であって確定ではないことや、入所中は飲食後すぐに横にならないよう注意することなど、丁寧に説明してくれました。こちらにとっての懸念材料が、お医者さんからそれほど問題視されていないことに、とても安心しました。これなら受け入れてもらえるかもしれない。というか、話の内容が入所前提の感じだったので、途中からどんどん期待がふくらんでいきました。
果たして、最後に入所の意思を聞かれ、母の受け入れが許可されました。ついに、母の関西への帰郷が決まったのです。今度こそ、これからなにも起こりませんように!

