描いたみかんに「ごちそうさま」の文字添えて 絵手紙、はじめました
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
今年こそ、なにか新しいことを始めたい。
趣味らしい趣味もなかった自分だが、一念発起。
見よう見まねで絵手紙を始めることにした。
まずは、ご近所さんの山田さんからいただいた、
みかんを描いてみよう。
なんとかみかんは描けたけれど、
不格好そのもの。
幼稚園児のほうがまだ上手に描けそうだ。
いつもお裾分けをしてくれる山田さんへ、
お礼状のつもりで書いてみたものの、
こんな絵手紙、渡せるわけがない。
とはいえ、せっかく心をこめて書いた絵手紙。
意を決して、山田さんに頭を下げつつ手渡してみた。
すると山田さんは目を見開き、
「なんとも味わい深い絵と文字じゃないか!」と、喜んでくれた。
それどころか、
「僕も、絵手紙を書いてみたいな」とまで言ってくれた。
もしかすると、僕はもう、
絵手紙仲間を見つけたのかもしれない。
私の周りには、絵手紙を書いて楽しんでいる高齢者の方々がいらっしゃいます。
時にはご近所さんから、切手の貼られていない季節の絵手紙を手渡され、その鮮やかさに感激することもあります。
また、月に一度、私自身も高齢の方々と一緒に絵手紙を書きます。
再会した際には「先月の絵手紙はどうなりました?」と談笑しながら、交流の輪を広げて楽しんでいます。
面白いのは、絵手紙を受け取った人が「私もやってみようかな?」と興味を持ち、次々とつながっていく様子です。
つまり、絵手紙を書くのに、絵が達者だったり達筆であったりする必要はまったくない、と私は思っています。
必要なのは、相手を思う気持ち。それだけで十分です。
SNSのように「みんなが読むために書かれた文章」とは違い、
絵手紙には「あなたひとりを思って書きました」という切実な想いが込められています。
その想いは、受け取った人の心に深く響きます。
特に、若い頃のように頻繁に交際の行き来ができなくなった高齢の方々にとってはなおさらです。
「なかなかお目にかかれませんが、あなたを思っていますよ」と気持ちを届ける絵手紙は、
送り手と受け手の間でしか味わえない、特別なぬくもりを生むのです。
そんなつながりの灯火が、今年も一枚一枚、
カラフルに広がっていく様子を見たいと願っています。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》