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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

84歳を83歳ヘルパーがケアする現状 訪問事業所ゼロの町も 介護の人材不足

駒村多恵さん
駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。「介護の危機」と題して、訪問介護事業者の現状についてリポートしたときのお話です。

訪問介護事業者の危機

先日、NHK「あさイチ」で「介護の危機」特集のリポートを担当しました。介護業界は高齢化していると聞いてはいましたが、今や全国のヘルパーの4割以上が60歳以上。取材させていただいた、都内に住む寝たきりの84歳の女性の介護をしていたのは、83歳のホームヘルパーさんでした。電動自転車で颯爽と移動し、てきぱきとした仕事ぶりに惚れ惚れしましたが、ベテランのヘルパーに頼らざるを得ない深刻な人手不足は大問題。感心している場合ではありません。

車いすに乗る高齢者を介護する高齢者、getty images
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地方は、より深刻です。訪問介護事業所ゼロの町村が103にも上り、事業所が1つだけの市町村も277あるというのです。山形の訪問事業所がゼロになった町に住む一人暮らしの88歳の女性の場合、隣の市の社会福祉協議会の訪問介護事業所が担当を引き継ぐことになったのですが、そもそも余裕がない状態だったので、なかなかヘルパーの都合がつかず、介護事業責任者が事務仕事を終わらせた後、車で30分走らせて訪問していました。
この日は、翌日から寒くなる予報が出ていました。「この間、灯油のふたが開けられなかった」と話す女性。もし、この責任者の方が今日来ていなかったらと思うとゾッとします。しかし、今回は引き受けることが出来ても、次回はわからないという状況は変わらずで、「一人でなんて生きてらんねぇ。正直」とこぼす女性の言葉に胸が詰まりました。

番組では、都内と地方のヘルパーさんのある一日のタイムラインを比較しました。都内の方は自転車移動で、それぞれの移動時間は10分くらい。一方、地方の方は一軒一軒への移動時間が長く、だいたい30分以上。中には約1時間かかっており、結果として訪問できる件数が少なくなっていました。この効率の悪さも地方の事業所の経営悪化の要因のひとつ。放送中には、お金にならず、ボランティア精神がないと出来ないという、地方のヘルパーさんからの悲痛なメールが数多く届きました。車は事業所のものではなく、自家用車を使用している。ガソリン代の支給がない。豪雪地帯の雪の日は出かけるだけで大変…。
専門家の先生によると、あと10年もすると、今のヘルパーの主力である60代が引退し、若手もいないので、事態は益々深刻になるであろうとのことでした。

田舎を走る車、getty images
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なぜ訪問介護の担い手が不足しているのか。訪問介護事業者に聞いた「就業希望者が少ない理由として考えらえること」(厚生労働省「令和3年度老人保健健康増進等事業 訪問介護事業のサービス提供体制の見直しに関する調査研究事業」/株式会社浜銀総合研究所受託調査・研究)で一番多かったのは、「一人で利用者宅に訪問してケアすることへの不安」でした。2位の「他の介護サービスと比べて実質的な拘束時間が長いわりに効率的に収入が得られない」というお金の問題を上回る結果だったのです。我が家のケアマネさんはこの結果ついて「それだって、もっと人がいたらマッチングの問題で多少解決できる場合もあるんですよ。例えば、ウチみたいに多少人数がいれば、ちょっと難しい性格の利用者さんには、入ってすぐの人じゃなくて上手くやれるベテランのヘルパーを派遣したりするんだけれど、小さい事業所さんはそんな余裕ないから。その時間に人がいなかったらヘルパーになりたての人でも派遣せざるを得ない。それで嫌になっちゃったりする。合う、合わないの相性もあるしね」

高齢男性と若いヘルパー、getty images
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適材適所を考える余裕がないのも影響しているという見解。結局、人が潤沢であればという話に行きつくのか? 負のスパイラルに眩暈(めまい)がします。もちろん、他にも数々の要因があり、取材を重ねるほど、簡単に解決できない現実にスタッフ全員どんよりした雰囲気になっていったのですが、まずは少しでも現状を知ってもらうきっかけになれば。そんな思いです。

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