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副業ヘルパー

新人ヘルパー 時間に追われてすっぽり抜けてしまった利用者ファースト

洗った食器は何番目の棚に入れるのだっけ…?
洗った食器は何番目の棚に入れるのだっけ…?

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされた「介護職員初任者研修」を無事修了し、ヘルパーとしてT事業所に登録しました。初めてとなる訪問先のNさん宅への先輩職員との同行訪問も終えて、いよいよ、ヘルパーとしてひとりでの初仕事です。

社会人20年以上でも初めての仕事は緊張する

同行訪問から1週間がたち、ついにひとりでヘルパーの仕事に向かう日がやってきました。
朝は早く目がさめてしまいました。社会人になって20年以上、ずっと働いてきたけれど、初めての仕事はいくつになっても緊張するものなんだなと実感。

Nさん宅に到着すると、同行訪問で確認したとおり、キーボックスから鍵を取り出し、玄関ドアを開けます。
部屋に入ると、Nさんは今日もベッドで横になられていました。ごあいさつすると、やはり同行日のときのように、そっけないお返事。少し気後れしつつも、ご体調や朝食を召し上がったのかを伺い、検温していただきます。

さあ、この次はどうするんだっけ…?
事前説明を受け、同行訪問はしたけれど、すべての段取りを暗記できているわけではありません。事前にスマホにまとめたメモを見ます。あ、そうだ、次はNさんにお着替えをしていただくんだった。その後、私は洗濯物を取り込んで、と…。あれ、クリニックにお持ちになる荷物のチェックは、どのタイミングですればいいんだっけ? あっ、お薬は飲まれたか伺うのを忘れていた…。

あれもしなきゃ、これもそれも…そんな調子でバタバタ。逐一メモを見るので、そこで時間をとられます。慣れたお宅なら、どこに何がしまってあるか頭に入っているので、自然に体が動くのでしょうが、まだ慣れていないこの日は「お皿は何番目の棚に入れるんだっけ?」「薬の置いてある場所は?」と、いちいち立ち止まり、メモを確認しないといけません。こうしたことに時間をとられ、先輩職員さんいわく「かなり余裕のあるサービス」のはずが、「わぁ、もう20分たっちゃった」ということに…。
これは、ヘルパー職4年目の現在も同様です。初めてのお宅に伺うときは、慣れるまでしばらくバタバタしてしまいます。

時間との戦いでバタバタ

クリニックからのお迎えの車を外で待つため、午前8時35分にはお部屋を出ないといけません。
いったん部屋を出たら、戻ってくることはできません。そのため、部屋を出る前にするべきことが、いくつもあります。急がなければ!
まず、サービス記録を書きます。現在はアプリ上での管理ですが、当時は紙での記録も併用されていました。複写式になっており、1枚をお客様宅の専用ファイルに残していきます。
Nさんがクリニックから戻られるまで、留守宅になるので、給湯器を消し、テレビやエアコン、加湿器などの電化製品もオフにします。窓等の戸締まり確認、最後に電気を消していく…。これも、一覧になっているメモをチェック。わー、急げ急げ!
バタバタしながらもなんとか終え、玄関に車椅子をセットし、Nさんにお声がけをします。玄関で靴を履こうとするNさん。しかし、足がむくんでおり、なかなか靴に足が入りません。これから人工透析に行かれるということは、直前の今が一番、体がむくんでらっしゃるとき。顔色も悪く、本当におつらそうです。足が入りやすいように、履き口を広げてお手伝いしました。

慌てていたせいでミスをおかす

Nさんの乗った車椅子を押して、マンションの廊下を歩きます。ここでミスをおかしてしまいました。
床のつなぎ目となっている部分に、ごく小さな段差がありました。段差の上は「車椅子をそっと押すように」と職員さんに言われていたのに、慌てていてスピードを落とさないまま、その段差を越えてしまったのです。
すると、Nさんが「あっ!」と声をあげられました。そして、「気をつけてください!」と強い口調で言われました。
しまった!「申し訳ありません」と急いで謝りました。ここまでの時間、ほとんど口を開かれることのなかったNさんに、強い調子で注意されたことはショックでした。けれども、それ以上に、こんな小さな段差が大きな衝撃になるNさんのお体が、いかにしんどいものか、真に迫ってきました。
サービスをこなすことにばかりに頭がいっていて、Nさんのお体にきちんと気が配れていなかったぁ。想像力が足りなかったなぁ…と反省しきり。

この日、2つめのミスとは
この日、2つめのミスとは

その後はとにかく慎重に、車椅子を押していきました。無事にお迎えの車に引き渡し、初任務完了。はー、なんとかやりきったぞ…。
と、そこで、本日2つ目のミスが発覚。サービス記録にはお客様の印鑑を押していただかなければいけないのに、すこーんと頭から抜けていた! もう部屋に戻れないのに、どうしよう。
大慌てで事業所に連絡すると、
「次回のサービスに入るヘルパーさんに、押印をお願いするから大丈夫ですよ」
とのこと。あ、そうしてもらえるんだ…。ほっとしたものの、他のヘルパーさんによけいなお手間をかけることになって申し訳ない…。次は押印を絶対忘れないようにしなくちゃ。
するべきことに頭がいっぱいで、余裕のない初仕事となってしまいました。

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