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今日は晴天、ぼけ日和

さあ今日も炊きたての米でおにぎりを握ろう それが私の原動力になる

《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

目覚めたひと

朝が来た。

趣味もなく、友達もいない80代の私。

「今日はどうやって時間をつぶそうか」と
目が覚めるやいなや、気が重い。

でもそんな自分にも若いころから、
ひとつだけ、楽しみがある。

台所に立つひと
 

それは、炊きたての米で、
おにぎりを作って食べること。

水でじゃぶじゃぶ米を研いでいると、
気分までさっぱりするから不思議だ。

そして、何十年毎日食べても、
おにぎりはいつも、新鮮でおいしい。

粗末な楽しみかたかもしれないが、
そんなささやかな幸せこそが
年齢を重ねても変わらない、唯一のことだった。

おにぎりと梅干し

さあ、今日も米を研ごう。

あら塩をまぶした手のひらで、
アツアツの飯を握ってやろう。

私は、えいや!と
ふとんから飛び出した。

家事に楽しみを見つけられる人は幸いだと思います。

ある頃からどこへ行っても
「役割や趣味など、ご自身に生きがいを見つけましょう」と、

それこそが健康の絶対条件であるかのように、言われはじめました。

もちろんそれも大切なことですが、
料理や洗濯、掃除など、
日々の土台を繰り返し支えるものに、かがやきを見つけられたなら、

なにより自然な生きがいにつながるのではないでしょうか。

なぜならご高齢の女性が、独居でひとりになっても、
男性と比べると、あかるく元気に過ごされている傾向にあるのを目にするたびに、

どうも家事の役割が大きいように思われてならないのです。

家事は、面倒なこともしょっちゅうありますが、
気持ちを切り替えてやってみると、
はつらつと生きるための原動力になるのを、私も日々感じています。

土のついた野菜を洗うとき、

洗濯物をお天道様のもと、広げて干すとき、

さっぱりと生きるちからがめぐるのは、きっと私だけではないはずです。

それこそ家事に携わってこなかった男性でも、
「おにぎり」のお話のように、
自分自身が楽しめれば、それは立派な家事です。


新たに生きがい見つけようと焦らなくとも、
私たちの周りには、かがやきが満ちています。

 

 

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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