孫を亡き息子だと言う母 否定しづらく対応に悩みます【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の落川晃央さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の母(80代)は、息子(私の弟)に先立たれているのですが、最近、私の小学生の息子を自分の息子だと思い、「元気になってよかった」と泣きます。否定したくないですが、息子に演技をさせるのは申し訳なくて。母と息子、それぞれどう対応すればいいでしょうか(50代・女性)
A.まずは息子さんに認知症に対する正しい知識と理解を持ってもらうことが、大事だと思います。今は小学生向けの認知症サポーター養成講座を地域や学校でも開催しています。小学生であれば、認知症について十分に理解できるはずです。
お母さんに対してやってはいけないのは、責めたり、怒ったり、お母さんの気持ちを踏みにじるような声がけです。息子さんが認知症について理解できれば、病気によって間違えていることがわかるので、自然と責めるような声がけにはならないと思います。
とはいえ、お母さんに合わせて、演技をする必要はありません。亡くなったはずの自分の息子に会えて喜んでいるお母さんに話を合わせたくなるお気持ちはわかりますし、場合によってはそれでいいのかもしれませんが、私としては「認知症の人には嘘をついてもいいんだ」とは思ってほしくないという考えがあります。なぜなら認知症の人とのコミュニケーションにおいて、「認知症だから」ということを意識してほしくないからです。人とのコミュニケーションの中で、嘘をついたり、演技をしたりしてもいいという場面は基本的にはないですよね。
息子さんはお母さんである相談者の対応をよく見ていると思うので、相談者が演技をしている姿をみたら、息子さんは「認知症の人には演技をして合わせればいいんだ」と認識してしまうと思うのです。また、認知症であっても感情や直感はあるので、相手が「何となく話を合わせている」と感じている場合もあります。
頭ごなしに否定するような言い方ではなく、「確かに弟に似ているけれど、私の息子だよ」と、一度は正しいことを伝えてほしいと思います。そのうえで、弟のエピソードなど思い出話ができるといいですね。もしかしたら息子さんは亡くなった叔父さんのことはよく知らないかもしれないので、「こんな叔父さんだったんだよ」ということを息子さんに伝えると、お母さんも喜ぶと思います。息子さんも、こういう関わり方をすればおばあさんは喜んでくれるんだということがわかり、その後のコミュニケーションのヒントになるかもしれません。お母さん、相談者、息子さん、みんなが笑顔になれるようなやりとりができるといいですね。
【まとめ】孫を亡き息子だと思って泣いて喜ぶ母。どう対応すればいい?
- 相談者の息子に認知症のことを理解してもらう
- お母さんに対して責めたり怒ったりせず、一度は正しいことを伝える
- お母さんに合わせて演技をする必要はない
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫