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副業ヘルパー

まずは先輩職員について同行訪問 覚えることがいっぱいでメモだらけに

事前説明、同行訪問時にできる限りのメモをとっておきます
事前説明、同行訪問時にできる限りのメモをとっておきます

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされた「介護職員初任者研修」を無事修了し、ヘルパーとしてT事業所に登録しました。初めてとなる訪問先にNさん宅が決まり、まずは、先輩職員に同行してもらい、お宅に伺うこととなりました。

おむつ交換や食事介助もなく「かなり余裕がある」と言うけれど…

Nさん宅への同行当日。サービス開始時間の少し前に、マンションのエントランスで事務所の職員さんと待ち合わせしました。
事前説明で聞いていた45分間のサービスの流れを、ざっとおさらいします。まずはご本人の体調確認と、朝食・服薬が済んでいるかの確認。絶対に忘れてはいけないのは、検温。これは、どのお宅に伺うときでも必須事項です。そして、Nさんがお着替えをされている間に、食器の片づけ、室内干しの洗濯物の取り込み、風呂掃除などのちょっとした家事を行います。人工透析のクリニックに行く際にNさんが持参するお荷物を確認し、時間になったら、車椅子でNさんを階下のエントランスまでお連れします。
職員さんいわく、「かなり余裕のあるサービスですよ」とのこと。
Nさんは、ご自分のことはほとんどできる方なので、介助と言える介助は車椅子でお連れするときくらい。おむつ交換や食事介助もなく、家事などの作業量も多くありません。
きっと、新人の私の初仕事にちょうどいいと考慮され、決められたのでしょう。

サービス開始時間が迫ってきたので、ご家族と事前に決めた、お部屋の鍵が置いてある場所に向かいます。鍵は、キーボックスという南京錠式の頑丈な箱の中に入っています。暗証番号を知っていなければ開けることはできません。ご自分でドアを開けるのが難しいお客様の場合、キーボックスで鍵を管理するケースは多いそうです。こうすることで、ご家族が不在でもヘルパーを利用することができるのです。このほか、事業所の方で、鍵を預かり保管することもあるとのこと。なるほど、玄関の鍵という究極のプライバシー、セキュリティーに、ヘルパーは関わってくるわけですね。個人のお宅に伺うというのは、そういうことか…。責任重大です。

うちとけてくれるだろうか… 不安の中で業務開始

お住まいの玄関ベルを鳴らして中に入ると、Nさんはベッドに横になられていました。朝食はすでに済ませたとのこと。
Nさんの第一印象は、「気難しそうな方だな…」というものでした。ごあいさつをしても、そっけない。受け答えの言葉も短い。表情は険しく、笑顔が浮かぶことはない…。お体のつらさからくるものだと教えられてはいたけれど、なにしろ初仕事。うちとけていただけるだろうか、と少し不安になりました。

ともかくも、次回からは私ひとりで訪問し、サービスを完遂させなければなりません。職員さんの横にはりついて、仕事を間近で見学します。
朝食に使った食器は、流しにあるスポンジと洗剤で洗います。風呂掃除は、風呂場にある掃除道具を使います。そうか!! 掃除道具は持参せず、そのお宅にあるものを使用するんだな。あらためて、ヘルパーの仕事のしかたというものを理解しました。
職員さんはてきぱきとスピーディーに作業を進めます。しかもその間、Nさんへの目配りを忘れることなく、時折話しかけることも怠りません。私、こんなにスムーズにできるだろうか…。

お宅にある道具を使って掃除をする
お宅にある道具を使って掃除をする

次は全部自分で対処しないといけないから必死にメモ

事前説明で大まかな流れは把握していたものの、実際に同行見学してみると、こういうことも覚えておく必要があるな…ということがちょこちょこありました。たたんだ服をしまうタンスの引き出しは何段目とか、体温計はどこに置いてあるとか、電気スイッチはどれがどこのものとか、などなど…。次回は自分ひとりで全部対処しなければなりません。モレがないように、必死でメモをとります。

そうして、いよいよお部屋を出る時間に。だいたいサービス終了10分前に、ここまで進んでいないといけません。ヘルパーは時間との戦い。何分ごろまでに何をするというタイムキープを、常にしておく必要があります。
Nさんが乗った車椅子を押してマンション下まで移動。エントランスでしばらく待っていると、お迎えの車が到着しました。大きなバンです。バックドアが開き、リフトが降りてきました。車椅子のまま乗車できる仕組みです。へぇ、こんなふうになっているんだ、すごい。
Nさんを乗せた車が去っていくのを見送り、同行訪問は終了しました。

「どうでしたか」
と職員さんに聞かれました。
「実際に見てみて、何をどんなふうにすればいいか、よくわかりました。でも、ひとりでやるとなったら、うまくできるか自信ないです…」
と私。
「大丈夫ですよ。慣れです、慣れ。自分もヘルパーになった当初はあたふたしてばかりだったけれど、続けるうちにだんだん体が動くようになりましたから」
そう言ってもらえて、少し気がラクになったけれど、やっぱり不安。これから1週間、ドキドキしながら次回の訪問日まで過ごすことになりました。

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