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副業ヘルパー

ヘルパーによる介護はかわいそう? 実際に利用している人からよく聞く本音

訪問を楽しみにしてくださっている方も多い
訪問を楽しみにしてくださっている方も多い

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めました。今回は、ヘルパーとして働きながら考えた「ヘルパーに介護をしてもらうご本人の気持ち」についてです。

他人に介護されるのはかわいそう?

前回の記事で、「介護を人に頼るのは全く悪いことではない」という話を書きました。では介護を受ける側、つまりお客様ご本人は、ヘルパーに介護されることをどう思われているのでしょうか。

「もう帰っちゃうの」とよく言われます

お客様のAさんは、ご病気で自宅療養されていました。ご家族が近くにいるものの、お仕事で忙しく、日中はおひとりでベッドに横になっている状況でした。
「こうしてあなたたち(ヘルパー)が来て、話し相手になってくれてうれしいよ。昔はいつもお客としゃべって、にぎやかにしてたから」
Aさんは、かつてお店を営んでおり、人と話すのがお好きでした。Aさんのご体調は良くなく、たくさんお話しされるわけではありません。それでも、「人が来る」ということが、Aさんにとってはささやかな楽しみだったようです。歓迎されているなと感じます。退室時にごあいさつすると、「もう帰っちゃうの。寂しいね」と言われていました。
この「もう帰っちゃうの」という言葉は、他のお客様からもたびたび伺います。もちろん、ヘルパーはおむつ交換や食事介助など、具体的な介護をするために訪問しているのですが、「訪問する」ことそのものが、お客様に喜んでいただけているのかもと感じます。

おむつ交換も慣れ

おむつ交換、いわゆる「下の世話」をヘルパーにされることについては、どうでしょうか。
こちらも、あくまで私が経験した限りですが、抵抗を感じている様子の方はいませんでした。やはり慣れなのではないでしょうか。
それよりも、ご本人はおむつの汚れを不快に感じられており、交換すると「ありがとう、助かる」と感謝してくださることがほとんどです。意思疎通の難しい認知症の方などでも、おむつ交換の後はうれしそうな表情を見せてくださいます。
ただ、「男性のヘルパーはイヤ」という方が、男女を問わず、お客様の中にはいるようです。私の事業所には、男性ヘルパーが何人かいるのですが、「男性であるということで、担当できないお宅もある」と聞きました。
女性のお客様が、男性におむつ交換をされたくないというのは、心情的に理解できます。けれども実際には、男性のお客様が、男性のヘルパーに介護をされるのがイヤ、女性のヘルパーにしてほしいと言うケースも少なくないとのこと。驚きました。
ヘルパー不足を解消するためにも、男性の介護者がもっと受け入れられるようになってほしいのですが…。これは難しい問題なのかもしれません。

毎日違うヘルパーでも、それぞれと関係が築かれる

訪問介護とはプライベートな空間に入っていくこと
訪問介護とはプライベートな空間に入っていくこと

最後に、複数のヘルパーが担当することについては、どう感じてらっしゃるのでしょうか。毎日、違うヘルパーが来るということです。一人のヘルパーが担当するのが理想ではあるものの、訪問回数の多い方の場合、なかなかそうもいかないのが現実です。
お客様のBさんには、週5日、ほぼ毎回違うヘルパーが伺います。私もその中のひとりです。Bさんのお宅に通って3年半たちますが、認知症が進んだBさんには、私の名前を覚えていただいてはいないと思います。
けれども、長く通った分、Bさんとの間に、たしかな親しみが生まれています。信頼してくださっていることも感じます。たった週に1回、1時間ですが、その1時間に1対1で向き合い、関係性を築いてきました。
それは他のヘルパーも同じだと思います。Bさんは、私以外のヘルパーとも、それぞれ関係を築かれ、親しみ、信頼感も持たれていることだろうと思います。

介護サービスの利用に躊躇(ちゅうちょ)されるご家族の中には、「他人に介護されるのはかわいそう」というお気持ちのある方もいるかもしれません。けれども、これまで記したように、私が経験した限りでは、ヘルパーが家に来てお世話をすることに、イヤだと感じていそうなお客様(ご本人)はいらっしゃいませんでした。
一番は、慣れだろうと思います。最初は、プライベートな生活空間に、家族や親しい人でもない人間(ヘルパー)が入ってくることに、抵抗感がある方もいるでしょう。けれども、一度サービスを利用してみれば、ハードルは下がるようです。何度も通えば、他人ではなく顔見知り、親しい人にもなっていくものです。

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