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副業ヘルパー

訪問先のお宅に飾られていた笑顔の写真で知った Nさんの本当の姿

昔の写真には、その方の人生が詰まっています
昔の写真には、その方の人生が詰まっています

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされた「介護職員初任者研修」を無事修了し、ヘルパーとしてT事業所に登録。初めての訪問先であるNさん宅でのお仕事に取り組みました。

今とはまったく違う、朗らかな写真の表情 いかに病気がつらいか…

Nさん宅での初仕事の日は、するべきことで頭がいっぱいで余裕がなく、ミスもしてしまいましたが…。2回目、3回目と訪問を重ねるうち、だんだん仕事にも慣れてきました。お宅の、どこに何があるかも頭に入り、自然と体が動くようになりました。慌てることも少なくなり、Nさんのご様子にもしっかり目配りできるようにもなりました。本来、それがヘルパーの一番の任務です。

Nさんのことも、最初は「気難しそう」と思ってしまいましたが、お会いする回数が増えるにつれ、少しずつうちとけてくださってきているように感じました。やはり、相当にお体がつらく、ずっと耐えていらっしゃり、それが表情に出ているのだなと思うようになりました。
あるとき、お部屋に写真が飾られていることに気づきました。Nさんと、おそらく奥様らしい方が並んでいます。10年ほど前のものでしょうか。Nさんが今よりふっくらとしてお顔色もいい。なにより、とても柔和で明るい笑顔だったことに驚きました。そうか、元々はこういう表情をされる方なのだなぁ…。いかにご病気が大変なものか、胸に迫ってきました。Nさんのお体に負担をかけないよう、最大限注意しなければ。

忙しい中にこまめに通ってくるお子さん

サービス中に、近所に住むお子さんが来られたことがありました。家庭も仕事もある身でお忙しいのに、こまめにNさんのところに通い、お世話をされています。
「ヘルパーさんたちにはいつも助けていただいて、本当にありがとうございます」
と言われました。
Nさんは金曜朝の私がお伺いする時間帯だけでなく、他の曜日や午後にも介護サービスを利用されており、複数のヘルパーが入っています。お母様が先立ち、今こうしてお父様の介護を担い、お子さんの心労ご苦労は大変なものだと思います。職員さんも、「お子さん、とても頑張られているので、応援してさしあげたいですよね」と言っていました。自分がヘルパーとして介護サービスに入ることで、少しでもお子さんがラクになるなら、ヘルパー冥利(みょうり)というもの。ヘルパーとは、お客様ご本人だけでなく、ご家族も支える仕事なのだなと改めて実感しました。

お客様の容体が急変するのは珍しくないことらしいけれど…

2カ月ほど通い、ようやく軌道に乗ってきたなと感じていたとき。急きょ、Nさんが入院されることになりました。容体が急変し、病院に運ばれ、そのまま入院となったそうです。
「お元気になって戻ってきてくださるといいけれど…」と思っていましたが、1カ月ほどして、Nさんが入院先で亡くなられたとの報を受けました。
初めて担当になった方の、急なお別れに、とてもショックでした。しかし、ヘルパーとはそういう場面に直面することの多い仕事だと、職員さんに言われました。お客様はみなさんご高齢、末期がんの方も少なくありません。いつ容体が急変してもおかしくないのです。
「サービスに入ったとき、お部屋で亡くなっているということもあります」
と職員さん。
そ、そうなの? そのときに動揺せずに冷静に対応できるとは、とても思えない…。

後日、事業所にお子さんから、お礼のお菓子が届きました。私たちヘルパーへの感謝の言葉が書かれたお手紙が添えられていました。Nさんは穏やかに旅立たれたとのこと。
Nさんの人生最後の時間を、少しでも快適なものにできていたらよかったな、と思いました。改めて、ヘルパーという仕事の意義、奥深さを実感して、初めての訪問先でのお仕事を終えたのでした。

ご家族からのお手紙はありがたいもの
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