目の前で突然倒れた高齢者 立ち尽くす人々に連携を生んだ僕の一言
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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町を歩いていたら、目の前でとつぜん、
高齢の女性が倒れた。
「大丈夫ですか!」と慌ててかけよると、
女性は苦しそうな声で、
「発作が出たので…救急車を……」と、言った。
——大変なことになったぞ!

慌てて、スマホをとり出すが、
指が震えてうまくかけられない。
倒れた女性が小声でなにか言っているが、
気が動転してしまって、
それも聞いていられない。
あれ、119だっけ? 110だっけ?
そういえば、ここの住所がわからない。
気づけば、頭が真っ白になった僕の周りを、
多くの人がぼうぜんとして囲んでいた。
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「どなたか手を貸してください!」
震える声でさけぶと、
急に頭が、冷静に動きはじめた。
そして周りの皆も、
我にかえったように動きはじめた。
住所を探し、メモにして渡してくれる人や、
倒れた女性に寄り添い、声をかけつづける人、
車が来ないように道路を見張る人も現れた。
そうやってみんなのちからで
安全に女性を、救急車に引き渡せた。
——ほっとひと息、見渡すと、
同じように息をはく、仲間たちがいた。
以前、防災センターで講習会に参加した際、
「出火や倒れた人を発見した場合、まずは声をあげること」と、
講師から、いの一番に教わりました。
決して自分ひとりでどうにかしようとせず、助けを呼ぶことが先決だと。
とはいえ当時は「一人のほうが早く対応できる場合もあるだろうな」と、勝手に解釈した覚えがあります。
その後、実際に外出先で急病人に対峙(たいじ)し、対応を迫られたとき、
なぜ、まず声をあげる必要があるのかを、身をもって知るはめになりました。
思いもかけず、私自身やそこにいた皆が、パニックを起こしたのです。
ぼうぜんと立ちすくむ人や、不安から笑ってしまう人、
きっと誰かが対応しているはずだからと、興奮した面持ちで去る人もいました。
そんな誰もが冷静ではいられない非常事態には、
「誰か手を貸してください」という、シンプルなひと声こそが、
声を発した本人だけでなく、
現場の一触即発な空気を、やわらげてくれることを知りました。
そして、人はいざとなれば、
善意のちからを発揮するもの。
もし、いつかそんな機会があったときには、
一人でどうにかしようとせず、
まずは声をあげることを選択していただけたら、と思います。
また、救助を呼びたくても住所がわからない場合、
スマートフォンのマップ機能を使って現在地を知る方法もありますが、
自動販売機のおつりや返却口のあたりには、
「ここの住所は○○」とシールが貼られていることが多いので、ご参考までに。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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