黒色のズボンはNG! ヘルパー勤務前のオリエンテーションで学んだこと
新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされた「介護職員初任者研修」を無事修了。ヘルパーとしてT事業所登録を決め、まずは、働く前のオリエンテーションを受けることとなりました。
「利用者さん」はNG、「お客様」と呼ぶ
オリエンテーションでは、2時間半かけて、事業所におけるサービス提供のルールを学びます。担当は、私の面接をしてくれたサービス提供責任者(サ責)の職員さんでした。職員さんと私の1対1で行います。「2時間半か、長いな…」と思ったけれど、それは職員さんの側も同じ。新しいヘルパーが入るたびに、1対1で2時間半のオリエンテーションをするわけで、大変です。それだけの手間をかけているという点でも、事業所への信頼感が増しました。
事業所に所属するヘルパーが働く上で守るべきルールとして最初に言われたのが、介護サービスを提供する相手の方を「利用者さん」とは呼ばない、ということ。「お客様」と呼ぶように教えられました。
そうなんだ…。介護職員初任者研修では「利用者さん」と呼んでいたので、一般的にもそう呼ぶものだと思っていました。
「実際には、◯◯さんとお名前をお呼びすることになりますが、『お客様』ととらえることが、良質なサービスの提供につながる、というのが会社の方針です」
なるほど、親会社が介護以外の事業を行っている民間企業なだけはある。たしかに、その考えはとても重要かもしれません。お客様と考えるから、言葉遣いに気をつけ、よりていねいな対応を心がける。お金をいただいてサービスを提供していることを忘れるな、ということでしょう。私もここからは、「利用者さん」ではなく「お客様」と記すことにします。
黒色のズボンがダメな理由とは?
もうひとつ、初任者研修で習ったことと違うなと思ったのは、服装についてです。上着はユニホームを支給されますが、下は私物のズボンでいいとのこと。
「ただし、ジーンズはNGです」と職員さん。
それは初任者研修でも先生に言われました。カジュアルな格好は失礼にあたる、との説明でした。
「それと、黒色のズボンもなしで」
…ん? どういうこと??
「認知症のお客様には、黒い色を見ると不穏になる方もいるんですね。なので、黒いズボンは避けるということになっています」
それは知らなかった。初任者研修では、ズボンの形については細かく言われました。短パンや半ズボンはだめ。しゃがんだとき、背中や腰が出ないものにする。ワイドパンツやフレアパンツなど幅の広いものは、しゃがんだとき裾が床につきやすく不衛生で、どこかに引っかかりやすいのも危ない。「10分丈のチノパンが望ましいです」と教えられました。でも、色についての言及はとくになかったなぁ。
初任者研修は、施設・在宅を問わず、あらゆる介護職に共通する基本の知識を授けるもの。細かいルールは事業所ごとに違ってくるのでしょう。
イレギュラーなことが起きたら、サービス中でも事業所に連絡
口を酸っぱくして言われたのは、「何かあったら、すぐに事業所に報連相(報告・連絡・相談)をする」ということでした。
仕事をしていれば、不測の事態、トラブルは必ず発生します。たとえば、食事介助後にお茶碗を洗っていて、割ってしまうといったことも想定されます。
「お客様の物を扱うときは、細心の注意を払うのが前提ですが、それでも事故が起きてしまうことはあります。それはこちらも承知していますし、弁償は会社がするので安心してください。だから、隠すことだけはしないでください。お客様との信頼関係にも関わってくるので」と言われました。
また、サービス中に判断に迷うようなこと、たとえばお客様の体調に変化を感じたようなときは、「遠慮せず、その場で事業所に電話してください」とのこと。
ヘルパーは単身でお客様宅に伺います。心細いな、と思っていたけれど、何かあれば事業所にヘルプを求めればいいのだと知って、少し気がラクになりました。
とにかく隠さず、率直に何でも事業所に伝える、ということです。心にとどめておきたいと思います。
その他、サービス記録の付け方や基本的な持ち物(訪問直後に必ずする手洗い用の携帯ソープと手指消毒液、おむつ交換時などに用いる使い捨て手袋、サービス記録やお客様のご家族にメモを残す際に使う筆記用具等)、個人情報の取り扱い(お客様の秘密は外に漏らさない、サービス記録や薬の代行受取でお預かりした処方箋の紛失には注意することなど)といった、ヘルパーとして働くにあたり知っておくべきことを教わり、オリエンテーションは終了しました。