認知症とともにあるウェブメディア

お悩み相談室

入院後、食事を拒否し、同じ話を繰り返す父 退院すべき?【お悩み相談室】

病院食を運ぶ看護師、Getty Images
Getty Images

認知症介護指導者の椎名淳一さんが、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.父(70代)が骨折をして2カ月ほど前からリハビリ病院に入院していますが「ごはんがまずい」と全然食べず、便秘になってしまいました。さらに、面会に行くと同じことばかり言うように。リハビリを中断して退院させたほうがいいでしょうか(50代・男性)

A.相談者が悩むお気持ち、よくわかります。自宅で不自由なく暮らせるようにリハビリをがんばっているのに、入院したことで別の症状が出てしまったら心配ですよね。特に「同じことばかり言う」とのことで、認知症についても気になるところだと思います。

高齢の方は「リロケーションダメージ」といって、入院や引っ越しなどの急激な環境の変化に適応できずに、認知機能が低下したり、精神的な症状が出たりすることがあります。ごはんを食べないのも、食の好みの問題だけではなく、ストレスが関わっているのかもしれません。「同じことばかり言う」のは、せん妄といって入院をきっかけに、一時的に認知機能が低下している状態の可能性もあります。認知症は、認知機能の低下が6カ月以上続くことが目安となるので、入院前には認知機能に関わる症状がなかったとすれば、現状では認知症とはいえないと思います。ただし認知機能が低下した状態が長引くと、認知症の発症にもつながるリスクがあるので確かに心配です。

相談者が考えるように、退院させるというのも1つの選択肢だと思います。リハビリ病院は、理学療法士などによるリハビリ指導を集中的に受けられるのがメリットですが、退院してリハビリ病院に通院するという選択肢もあります。場合によっては介護保険を申請して通所リハビリや訪問リハビリを利用する方法もあります。

ただし、退院には主治医の許可が必要です。もう1つ、退院の条件としては自宅での環境が整っていることが挙げられます。お父さんが現段階でどこまで身体的に回復しているのかにもよりますが、生活をサポートできる家族がいるのかということがポイントになると思います。いないのであればホームヘルパーやデイサービスを利用するなど、介護の環境を整える必要があります。

主治医の許可がおりない、あるいはお父さんが自宅で生活できる環境が整っていないといった場合、退院はできませんが、お父さんのストレスを軽減する工夫はできると思います。病院は生活をする場として建てられていないので、壁が真っ白で何もないなど、自宅の雰囲気とは大きく異なると思います。何もない部屋で長く過ごしていると刺激がなく、曜日の感覚などもなくなってきて、自分の中で不確かさのようなものを感じるようになります。同じことばかり話すのも、そうした不確かさからくるのかもしれません。

会話することが脳への刺激の1つになるため、短時間でもいいので、相談者が可能な限り面会に行けるといいですね。お父さんと話す機会が多い理学療法士に、お父さんの趣味や仕事のことなどを伝えておくと、会話のきっかけになるかもしれません。ベッドサイドにお気に入りのものを置いたり、写真を飾ったりするのもいいでしょう。

便秘や同じことを話すという状態は、ストレスがたまっているサインともいえるので、病院のスタッフと情報を共有しつつ対応できるといいですね。

【まとめ】骨折でリハビリ病院に入院中の父が便秘になり、同じことばかりを話すように。退院させたほうがいい?

  • 入院を機にリロケーションダメージが起きている状態だと理解する
  • 主治医の許可が出て、自宅で過ごせる環境が整っているのであれば退院させるのも1つの方法
  • 退院が難しければ、お父さんのストレスを和らげる、脳に刺激を与えるといった工夫をする

 

 

≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア