さりげなく パートナーのななめ後ろに半歩の距離が私の最近の定位置
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
認知症があるパートナーが、
最近、よくつまずく。
足元に注意を向けづらくなっているようだ。
一緒に歩いている時は、私も
障害物に気をつけるようにしているけれど……
あ、危ない! 石がある!
気づくのが遅れてしまった!
どうしたって、こんなふうに見落とすこともあるから怖い。
でもそんな時も、大丈夫。
彼の体が、ぐらりと前傾したのと同時に、
私は、脇から両手を彼の体にサッとさしこみ、支えた。
「ありがとう、助かったよ!」
「うんうん、よかった!」
すっかり、きもが冷えたけど、
ふたりでにっこり、ほっ。
実をいうと最近の私は、
彼のななめ半歩うしろを歩くようにしているの。
つまずきそうになったら、すぐに手が出せるように。
でもそれを言ったら、あなたは気にするだろうから……
気づかれないようにさりげなく、
新しいふたりの歩幅を見つけていきたいな。
認知症がある人のなかには、
足元に注意を向けづらい人もいます。
目の前の段差を見逃して、転びそうになったり、
水たまりに足を踏み入れて、靴を汚してしまったり。
普段私たちは何げなく歩いていますが、
舗装された道路でさえ、平坦(へいたん)ではありません。
車椅子を使っていたり、歩行になんらかの障害がある人と歩いたりすると、
道のあらゆるところに傾斜や隆起が存在することに気付くでしょう。
そんなときに知っておくと安心な、
歩行介助のポイントがあります。
「転倒するかもしれない人の、
ななめ後ろに半歩距離をとって、
さりげなく歩く」
それは私が訪問介護ヘルパーになった当時、一番はじめに教えられた、
歩行介助の基本のきです。
身体状況が変わってくると、障害物がなくても、
突然ひざが崩れて転倒しそうになる、ということもあるわけです。
その基本のおかげさまで、
私は半歩前で歩く人の転倒を、今までなんど回避できたかわかりません。
ちなみに介助者はご本人の右側・左側、そのどちらの後ろについたらいいかですが、
身体状況や環境によっても変わります。
けれど「ご本人の体が傾きやすい側の半歩後ろ」と覚えておくと、安全の目安になります。
そしてなにより、その立ち位置をつくる時に大切なのが、
「さりげなく」ということです。
介助されている・しているという心の距離感よりも、
気持ちのいい間合いをつくること。
それが、共に歩く信頼につながるのかもしれません。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》