認知症とともにあるウェブメディア

幻覚が見えるのは認知症が原因?認知症との関係や対応方法を紹介

認知症と幻覚(イラスト/Getty Images)
イラスト/Getty Images

「あそこに人が立っている」。誰もいない空間を見て家族がそう言い出したら、驚いて認知症を疑うかもしれません。実際にはないものをあるように知覚する幻覚は、確かに認知症によって起きることがありますが、せん妄によるケースも多く、適切な対応も異なります。幻覚症状の原因と対応方法について、大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の池田学教授に解説していただきました。

※ 下線部をクリックすると、各項目の先頭へ移動します

幻覚を引き起こす主な原因は2つ

幻覚とは、実際にはないものをあるように感じる知覚の異常です。幻覚を起こしている場合、高齢者であればまず疑われるのがせん妄です。せん妄は意識レベルの低下によって、認知機能障害や精神症状が起きる急性・一過性の症状です。入院や手術などの急激な環境の変化、抗コリン作用のある薬剤(睡眠薬の一部、胃腸薬の一部、頻尿治療薬の一部)などの服用などがきっかけとなります。特に高齢者はリスクが高く、80代では多くの人の術後にせん妄が起きると言われています。せん妄が起きると高い確率で出現するのが幻覚です。

病院のベッドで眠る高齢者/Getty Images
Getty Images

せん妄の次に考えられるのが、認知症の1つであるレビー小体型認知症です。脳の神経細胞に「レビー小体」というたんぱく質のかたまりができるタイプの認知症で、幻視が初期からみられるのが特徴です。

レビー小体型認知症についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
レビー小体型認知症を専門医が解説 原因や前兆、なりやすい人など

認知症による幻覚とせん妄の違いについて

幻覚がせん妄によるものなのか、認知症によるものなのかを見極めるのは、実は医師でも難しいことです。その理由の1つとして、認知症の人はせん妄を起こしやすいという点があります。レビー小体型認知症による幻覚なのか、レビー小体型認知症の人がせん妄を起こしているのか、認知症ではなくせん妄だけなのか。どれに当てはまるのかを判断するのは、非常に難しいのです。

見極める1つの目安は、前述したような入院、手術、病気やケガの発症、薬剤の変更などせん妄を引き起こすようなきっかけがなかったかどうかということです。引っ越しや昼夜逆転の生活などがきっかけになることもあります。

【せん妄による幻覚のきっかけになりやすいこと】入院、手術、病気やケガ、引っ越し、服用している薬剤の変更、昼夜逆転の生活、イラスト/Getty Images
イラスト/Getty Images

もう1つポイントとなるのが、本人が幻覚を覚えているかどうかということです。せん妄の場合、意識レベルが低下しているのでせん妄を起こしていたときのことをほぼ覚えていません。一方、レビー小体型認知症の場合は、「昨夜ベッドの横に子どもが来ていた」など幻視によってみたものを覚えていることがあります。

高齢者のベッドわきに立つ子ども、Getty Images
Getty Images

幻覚症状と認知症の関係

レビー小体型認知症は、幻覚が特徴的な症状の1つですが、高齢者のアルツハイマー型認知症や血管性認知症によって幻覚が起きることはほとんどありません。しかしこれらの認知症の人は、せん妄を起こしやすく、それによって幻覚が出現することがあります。認知症の人に幻覚があると、認知症が進行したのではないかと疑われることがありますが、レビー小体型認知症でなければ、せん妄である可能性が高いといえます。

若年性のアルツハイマー型認知症の場合は、進行期になると、幻覚が出現しやすくなる傾向があります。

幻覚症状の種類

幻覚の中で圧倒的に多いのは幻視です。そのほかにも幻聴、幻臭、幻味、幻触(体感幻覚)があります。

幻視

レビー小体型認知症の幻視で見えるのは、子どもや小動物、虫が圧倒的に多く、亡くなった配偶者や親類が見えることもあります。「光がヒュッと通った」など何かが通過したことを訴えるのもよくあるケースです。幻視と似た症状に「錯視」がありますが、本質的には異なります。幻視は何もないところに人やモノが見えるのに対して、錯視はハンガーにかかっている洋服が人に見えるなど、目の錯覚で違うものに見える現象です。せん妄は幻視だけのことが多いですが、レビー小体型認知症の場合、錯視も起こりやすくなります。

ハンガーに掛かった洋服、Getty Images
Getty Images

幻聴

周りに人がいないのに声が聞こえたり、存在しない音が聞こえたりする症状です。統合失調症の代表的な症状です。レビー小体型認知症の場合、見えている人がしゃべっている、見えている動物が吠えているなど、幻視に伴って幻聴が起こることがあります。

幻味・幻臭・幻触

幻覚症状には実際にはない味を感じる幻味、ない匂いを感じる幻臭、「虫が体をはっている感触がある」といった幻触もあります。いずれもレビー小体型認知症では、幻視症状に伴って起こることがあります。味覚や嗅覚が低下する味覚障害、嗅覚障害とは異なります。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症は、発症早期あるいは発症前から嗅覚障害が起こる場合があることが知られています。

味覚障害や嗅覚障害などについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
味覚障害の原因や治し方、対策とは 亜鉛摂取のおすすめ食材も紹介
嗅覚障害は認知症の前兆? においがわからなくなる影響と対策を紹介

妄想と認知症の関係

妄想は誤った確信をすることで、幻覚とは異なります。しかしレビー小体型認知症では、幻覚と妄想が一体化して出現することがあります。例えば「夫の愛人が赤ちゃんを抱いている姿が見えた」など、どこまでが幻視でどこまでが妄想なのかを区別しにくいところがあります。

アルツハイマー型認知症の人によく見られるもの盗られ妄想は、「お財布を盗られた」と言いますが、「お財布を盗られたのを見た」とは言いません。つまり、幻視は伴っていないことがわかります。

財布をさがすひと、Getty Images
Getty Images

認知症やせん妄以外で幻覚症状が起きる原因

幻覚症状を引き起こす要因として多いのは、せん妄とレビー小体型認知症ですが、そのほかにも幻覚症状を引き起こす病気があります。

パーキンソン病

パーキンソン病の主な症状は、安静時のふるえや手足のこわばりといった運動症状ですが、非運動症状の1つに幻覚があります。パーキンソン病とレビー小体型認知症の関連は深く、パーキンソン病の発症から20年後に約8割は認知症を発症していたという報告があります。

統合失調症

幻覚や妄想が出現する精神疾患の1つです。10~20代で発症することが多いため、若い世代の人に幻覚がある場合に疑われます。中年期を過ぎて病気と診断されることもあります。

アルコール幻覚症

長期間かつ大量の飲酒により、幻覚や妄想が起こる精神障害の1つです。アルコール依存症の人が、アルコールを中止、あるいは減量したあとに24~48時間以内に出現します。飲酒中に出現することもあります。

アルコール依存症の高齢者、Getty Images
Getty Images
アルコール性認知症についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
脳が萎縮するアルコール性認知症 症状や回復の可能性を専門医が解説

幻覚症状がある人への対応方法

ないものをあるかのように言われると、家族や周囲の人は混乱してしまいます。どのように対応すればいいのでしょうか。

錯視の原因となりそうなものを取り除く

人やモノが見えている位置に、ハンガーにかかった洋服、すりガラスの向こう側にあるごみ箱など、錯視を引き起こしそうなものがあれば取り除きます。

部屋を明るくする

明るい部屋で過ごす母娘、Getty Images
Getty Images

幻視は薄暗くなる夕方から夜にかけて起こりやすくなります。寝る直前まで部屋を明るくしておくことで、幻視を予防しやすくなります。

否定しない

本人にとっては見えたり聞こえたりしているのは事実なので、「そんなはずはない」と頭ごなしに否定されると不安が増したり、混乱したりするだけです。かといって話を合わせる必要はなく、「私には見えないけどね」と伝えて話題を変え、前述したような対策をとりましょう。

認知症の人に言ってはいけない言葉や、やってはいけないことについては、以下の記事をご参照ください。
認知症の人に言ってはいけない言葉とは?シーン別の接し方や声がけのコツを紹介
認知症の人にやってはいけないことは何?困ったときの対応方法と心構えを紹介

幻覚があるときの本人の様子を観察する

本人が怖がっていたり、不快に感じていたりすれば、できるだけ幻覚を取り除く必要がありますが、本人が怖がったり困ったりしていない場合は特に対応しなくていいこともあります。

笑顔で話す母親に相づちを打つ女性、Getty Images
Getty Images

病院で診断してもらう

幻覚がせん妄によるものなのか、レビー小体型認知症によるものなのか、あるいはほかの病気によるものなのか。原因によって対応や治療は異なるため、病院を受診して診断を受けることが大事です。診断には専門的な知識が必要で、日本老年精神医学会が認定する専門医であることが1つの目安となります。全国の専門医は、日本老年精神医学会のホームページで検索することができます。

治療を受ける

レビー小体型認知症の幻覚症状には、ドネペジル(商品名アリセプト、精神症状には保険適用外)が効果的です。せん妄の場合、薬剤や昼夜逆転など原因がわかればそれを取り除きます。幻覚があって暴れたり、興奮状態にあったりして危険なときには、抗精神病薬で症状を落ち着かせます。術後にせん妄を起こしている場合などは、2、3日経って身体状態が回復すればせん妄もなくなることが多いのでそれ以上の治療は必要ありません。

せん妄で問題となるのは、症状が長引くケースです。せん妄が長引くと死亡率が上がるという研究報告もあります。このため、適切な治療を受けることが大事なのです。せん妄には症状が目立たない「低活動性せん妄」というタイプもあり、高齢者に多いことがわかっています。ぼんやり静かにしているだけなので気づかれにくいのですが、長引くと病気の回復が遅れたり、うつ病と間違われたりすることがあります。高齢者が退院して自宅に戻ってもボーっとしている場合は要注意です。この場合、積極的に声がけをする、日中はデイサービスに行くなどして昼夜のメリハリをつける、といった対策が有効です。こうしたことはせん妄の予防にもなります。

デイサービスで仲間と水彩画を描くひと、Getty Images
Getty Images

まとめ

高齢者にとって、幻覚は決して珍しい症状ではありません。周囲は幻覚を訴えられても慌てずに適切な対応をとることが、本人が苦しまないためにも、症状を長引かせないためにも大事なことです。

認知症と幻覚について解説してくれたのは……

池田学・大阪大学大学院医学系研究科精神医学分野教授
池田学(いけだ・まなぶ)
大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室教授
1984年東京大学理学部卒業。88年大阪大学医学部卒業。東京都精神医学総合研究所、兵庫県立高齢者脳機能研究センター、愛媛大学精神科神経科、ケンブリッジ大学神経科、熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野を経て、2016年5月より現職。厚生労働省「認知症のための縦断的連携パスを用いた医療と介護の連携に関する研究」「認知症初期集中支援チームが直面している地域における認知症にかかる困難事例の類型化とその対応のあり方に関する調査研究事業」など、臨床のかたわら、認知症に関する多くの研究に従事。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア