うれしいことは忘れない母 小多機に戸惑う娘 認知症も高齢者施設も奥深い
いつかはやってくると思いつつ、ついつい先送りしてしまう親の介護の準備。関西在住のイラストレーター&ライターのあま子さんもそんな一人。これまで一人暮らしを続けていた母が、2022年正月早々に転倒し、骨折→入院という経緯で認知症を発症。姉と兄による“介護押しつけバトル”を経て、いったん母は首都圏に住む兄一家のところで暮らすことになったのですが、あっという間に関西に戻ってくることになりました。再び、母の住まい探しが始まりました。今回見学したのは、小規模多機能型居宅介護が併設されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。
母が兄宅での同居を開始した2022年9月以来、母は私に毎日「関西に帰りたいコール」をしてきました。「なぜ関西に戻れないのか」と聞かれるたびに、私は「兄の世話になるのは母自身が希望したこと」で「一人暮らしはもう難しい」ので「兄宅にいる」と伝えていました。そのときは納得して電話を切りますが、かけたことを忘れてまたすぐに電話してきます。母もつらかったでしょうが、私も本当にノイローゼになりそうでした。
そこから、1カ月余り後、紆余(うよ)曲折の末に母が関西へ戻ること、すなわち私が母の世話をすることが決まったのは、これまでこの連載に書いたとおりです。
「兄宅にいるのは新しい住まいが見つかるまで」となったことを、母はとてもよろこびました。そして、それ以降の電話では「関西に戻りたい」と口にすることはなくなり、「関西に戻ったら~」の話をするようになったのです。母の頭の中に「関西に戻れる」はすぐに書き込まれ、決して消えないようでした。あいかわらず、電話をかけてきたことはすぐ忘れるのに…。
ずっと後になってからですが、同じような経験をしました。私の家から車で1時間足らずの山中にある温泉に、母と泊まったときのことです。この温泉宿は母のお気に入りでしたが、その月の月末で閉館することになっていました。母がさみしがると思い、私は内緒にしていましたが、母は目ざとく建物内にあった「閉館のお知らせ」を目にしていたようです。
数日後「あそこの温泉宿がなくなるのはさみしいなー」と母が言いだしたので、私がびっくりして「なんで知ってるん?」と尋ねると、母は当然のように「入り口にお知らせがあったやん」と言います。まさか、覚えているとは思いませんでした。そのあとも、たびたび「最後にもう1回行きたいなー」と母は言います。「最後に泊まったやん」と返す私。母「そうやったっけー」。私「閉館のお知らせを見たのは宿でやろ」。最後はいつも母の「そう言えばそうやな。最後に行けてよかったわー」でおわります。閉館することは覚えていても、つい先日宿泊したことは忘れているようです。インパクトの大きい出来事はすぐに覚えて決して忘れない。でも、その周辺情報はきれいに抜け落ちている。認知症の奥深さ、不思議さの一端を見た思いです。
「ショウタキ」ってなあに?高齢者施設も奥深い
これまで3回にわたってグループホームのリポートをしてきました。
ですが、それと同時進行でサ高住の見学もしていました。今回は、家から徒歩10分の距離にある超大手企業が経営母体のサ高住です。
見学9:2023年1月 B市のサ高住
- <施設情報>
- ●1カ月の料金:家賃、共益費(水道光熱費込み)、食費、管理費あわせて約19万円
別途、敷金家賃3カ月分、介護保険利用料、電気代、服薬管理費、医療費、生活消耗品代など
●部屋:個室18m²~ 洗面台・収納スペース・エアコン・緊急通報装置(ナースコール)
●食事:施設で調理
●人員配置:夜間1人
●特徴:小規模多機能型居宅介護を併設
2階建ての施設で、部屋数は約20室。幹線道路沿いにあり、裏手には高速道路が走っているため環境はイマイチです。案内は50代前後の穏やかそうな男性がしてくださいました。まずは、一通りの施設案内と、料金などの説明を受けます。話の中で魅力を感じた点は、毎日午前中に体操があることと、週に数回授業形式のレクリエーションがあること。母は「学校に行って勉強したい」とよく口にしているので、このレクをよろこぶにちがいありません。以前、施設に父親を入れた友人から「父さん、することがなくてずっとテレビ見てるねん」と聞いたことがあったので、できれば毎日なにかしら「退屈しのぎ」があってほしいというのが私の希望でもありました。
今回のサ高住の一番の特徴は、小規模多機能型居宅介護(以下:小多機)が併設されていること。小規模多機能型居宅介護とは、デイサービス(「通い」)をメインに、訪問介護などの「訪問」のサービスや「泊まり」のショートステイのサービスを組み合わせて使うことができる介護サービスです。いずれのサービスも同一事業所が提供する点が特徴です。
だからなんなのという声が聞こえてきそうですが、もう少しお付き合いください。サ高住は「高齢者向けの住宅」であり、提供するサービスは「安否確認の声かけや生活相談」で、一般的に介護サービスは提供していません。(←これ、私は住まい探しをはじめるまで知りませんでした。)介護が必要な場合は、訪問介護や居宅介護支援などの事業者と別途契約することになります。私の経験でいうと、ほとんどのサ高住では、施設のすすめる事業者(系列グループのことが多い)があって、そこを利用する前提で話が進められていきます。
で、今回のサ高住は、その提携事業者が小多機なのです。メリットとしては、デイサービスも、訪問も、ショートステイもあり、月額定額制で24時間365日、柔軟な介護サービスが受けられること。顔なじみのスタッフが対応してくれるので、サービスを受ける側(母)の安心感につながることです。
つぎは、説明を聞きながら私が感じたデメリットです。利用料金が一定ということは、サービスを利用しなくても全額支払わなければいけないということ。母の現状は、目いっぱいサービスを使う感じではないので割高感が否めません。また、デイサービスも併設ということは、外部の好きなサービスを選べず、自由度が低いなーとも思いました。この当時はコロナ禍で面会・外出に制限があったので、デイで外出できないのは痛手だったのです。あと小多機は地域密着型サービスなので、ここに決めると住民票をいまのA市から、施設のあるB市に移す必要があるという話も、地味にマイナスポイントでした。
説明が終わるころには、いまの母には合わないなと感じていました。交通量の多い立地も息苦しい気がします。数日猶予をもらいましたが、考えは変わらなかったので、おわびをしてお断りしました。
【感想&後日談】
今回のサ高住の説明でびっくりしたことがあります。それは薬の管理に別途月5000円ほどかかるということ。薬の管理と1口に言っても、(うろ覚えですが)「薬を受け取る」「薬を保管する」「薬を渡す」「服薬を見守るまたは介助する」と細かく分かれていました。最初は理解できなくて、何度か説明してもらいました。よーく考えてみると、薬の保管も、服薬の管理も命にかかわる大切な仕事で、料金が発生するのも納得できるのですが、聞いたときは「そんなことにもいちいちお金がかかるんか!」と思ってしまいました。この料金が自費になるかどうかは施設によって違うので、気になる人は施設見学の際に聞いてみるとよいと思います。