認知症とともにあるウェブメディア

味覚障害の原因や治し方、対策とは 亜鉛摂取のおすすめ食材も紹介

味覚障害(写真/Getty Images)
写真/Getty Images

高齢者に多い味覚障害。味覚機能が低下するだけではなく、さまざまな要因が重なって味がわからなくなるといった症状が出ると考えられています。味覚障害があると、人生の大きな楽しみが失われるだけではなく、健康面にも悪影響が出ることがあります。味覚障害の原因やリスク、認知症との関わり、日常生活での対策について、味覚の専門外来を担当する東京都立広尾病院耳鼻咽喉科医長の田中真琴医師に解説していただきました。

※ 下線部をクリックすると、各項目の先頭へ移動します

味覚障害とは?

味覚は「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」の5種類の味を感知する感覚です。味覚障害は、この感覚に何らかの異常が起きている状態で、大きく分けると「量的味覚異常」と「質的味覚異常」があります。量的味覚異常は「味が全くわからない」「味の感じ方が鈍い」「特定の味だけわからない」といった状態で、質的味覚異常は「口の中に何もないのに苦味などの別の味を感じる」「何を食べても違う味がする」「何を食べても嫌な味がする」といった状態です。

味覚障害があると、食べ物が自分の体にとって摂取すべきものなのか、あるいは不要、有害物質なのかを判断できなくなるほか、食の楽しみがなくなり、生活の質が低下することにつながります。

味覚はどう感じる?


味覚は、食べ物が唾液と混ざり、舌表面にある「味蕾(みらい)」というセンサーに接触することで、5種類の味を感知します。味蕾は、30~100個程度の味細胞からなり、舌表面の舌乳頭(細かい突起状の部分)に多く存在します。味がわからないといった量的味覚異常では、味蕾の機能異常による場合が多く、質的味覚異常では、それ以外に心因性、脳の機能異常などが関連していると考えられています。

舌乳頭と味蕾(みらい)/舌乳頭・有郭(ゆうかく)乳頭、葉状(ようじょう)乳頭、茸状(じじょう)乳頭、味蕾・味物質、舌の表面、微絨毛、味孔、味細胞、味神経繊維
舌乳頭と味蕾(みらい)

加齢と味覚障害との関連性

味覚は、視覚、聴覚、嗅覚などほかの感覚と比べて、加齢による影響が少ない傾向があります。それにもかかわらず、味覚障害が高齢者に多いのはなぜでしょうか。理由として最も多いのは、亜鉛不足です。亜鉛は、味蕾にある味細胞の新陳代謝に必要で、亜鉛が欠乏すると、味蕾が機能障害を起こすことがあると考えられています。亜鉛は食べ物から摂取できますが、服用している薬によっては亜鉛が吸収されにくくなる、あるいは排出されやすくなるといった影響が出ることがあります。また、腎臓や肝臓、消化管の病気などによっても亜鉛欠乏を起こす場合があります。高齢になるほど全身性の病気があったり、服用している薬が多かったりするために、亜鉛不足を起こすリスクが高くなるというわけです。

さらに唾液の分泌が減少すると、味を感じにくくなるため、高齢者に多い口腔機能の低下も味覚障害に関わります。老人性うつなどの精神的な症状も味覚障害を引き起こすことがあります。また、嗅覚は60~70代になると大幅に低下していきます。嗅覚が低下すると味覚も異常を感じやすくなりますが、この場合は味覚障害ではなく「風味障害」と呼ばれます。加齢で嗅覚が低下することから、風味障害も起こしやすくなるのです。

目の前の食事を拒む高齢女性(写真/Getty Images)
Getty Images(写真はイメージです)

味覚障害と認知症の関係は?

においがわからなくなる嗅覚障害は、認知症と深い関わりがあることがわかっていて、認知症の発症早期あるいは発症前から嗅覚障害が起こる場合があることが知られています。味覚障害の場合、認知症との関わりはあるのでしょうか。

味覚がわからなくなる原因はさまざま

味覚がわからなくなると、食事をおいしいと感じられなくなり、食の楽しみがなくなります。食の楽しみがなくなると、生活の質が低下し、健康面で悪影響が出てくる可能性もあります。

人が食品の味を感じるとき、味覚だけではなく、料理の彩り、におい、食感、温度、嚙(か)んだときの音など五感を総動員して感じています。さらに人と食べるとおいしいけれど、1人で食べるとおいしくないなど、環境による心理的な影響もあります。つまり、「食事をおいしく感じられない」という場合、単に味覚が低下しているわけではなく、そのほかの要素が原因になっている可能性も高いのです。

味覚と嗅覚は密接に関連

五感の中でも特に嗅覚は、味の感じ方に影響を及ぼします。新型コロナウイルスの感染によって味覚障害が起きることが話題になりましたが、検査をすると実際に味覚機能が低下している人は少なかったと報告されています。このため、新型コロナウイルスの感染による味覚障害は、実際には嗅覚の低下による風味障害である場合が多いと考えられています。

嗅覚障害は、認知症と深い関わりがあり、認知症の人は発症早期あるいは発症前から嗅覚障害が起こる場合があることが知られています。認知症の人の場合も嗅覚障害によって風味障害を起こす可能性があります。

※嗅覚障害と認知症の関わりについては、以下の記事をご参照ください。
嗅覚障害は認知症の前兆? においがわからなくなる影響と対策を紹介

味覚と認知症、関連性の解明はこれから

認知症の症状として、味覚障害が起こるかどうかは、現在のところ明らかになっていません。認知症の人と認知症ではない人の味覚を比較した研究はいくつかありますが、認知症の人のほうが味覚機能が低下していたという報告もあれば、両者で差はなかったという報告もあり、意見は一致していません。

現在実施できる味覚検査は、本人の申告に基づく自覚的な方法しかありません。認知症が進むほど本人の申告があいまいになりやすいので、検査を正確に行うことが難しくなるという問題点もあります。今後、他覚的な検査方法が開発されれば、認知症と味覚障害の関わりについて明らかになってくるかもしれません。

味覚障害になった場合のリスク

味覚障害があると、健康上どのような問題が起きるのでしょうか。味覚障害が引き起こすリスクについて説明します。

糖尿病や心疾患などの生活習慣病になる

味がわからなくなることで、調理の際などに味つけが濃くなり、塩分や糖分の摂取が多くなりやすいと言われています。このため、高血圧や糖尿病、心疾患などの生活習慣病を発症するリスクが高まる可能性があるほか、すでに生活習慣病にかかっている人は悪化する危険性があります。

料理に多すぎる塩を入れようとする人(写真はイメージです)
Getty Images(写真はイメージです)

栄養不足になる

味覚障害によって食事に対する楽しみが減ると、食欲が低下し、食事量が減ることから栄養不足になる危険性があります。高齢者は口腔機能の低下などによっても食事量が減りやすいので、注意が必要です。

味覚障害のチェック方法

味覚障害の治療は早いほど、治りやすいと言われています。できるだけ早く気づき、受診につなげるためにはどうすればいいでしょうか。

味の好みが変わっていないか

料理の味が濃くなった、濃い味を好むようになったといった場合は、味覚に何らかの異常が出ているかもしれません。また、同じものを食べているのに以前と全く違う味がするのは、味覚障害の症状の1つである可能性があります。

体重が減っていないか

味覚障害によって食事量が減り、低栄養状態になっているかどうかの目安となるのが、体重減少です。低栄養は「フレイル(心身の脆弱化が出現した状態)」や「サルコペニア(筋肉量が減少した状態)」など、要介護になる可能性が高い状態を引き起こします。

※フレイルやサルコペニアについては、以下の記事をご参照ください。
「フレイル」の予防法やチェック法 サルコペニア、ロコモとの違いは?

おかしいと感じたら早めに受診を

味覚に異常を感じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。「味覚外来」など、味覚障害を専門的に診る施設では、視診で口の中をチェックするほか、肝機能や腎機能、亜鉛などの値を測定する血液検査、唾液量を調べる唾液検査、味覚検査などで総合的に検査します。

口の中のチェックでは、口腔カンジダ症を見つけることができます。口腔カンジダ症は、口の中の常在菌であるカンジダ菌が異常に増殖した状態のことで、味覚障害を引き起こすことが知られています。この場合、カンジダ症の治療によって味覚障害も改善します。

味覚障害の治療は、一般的には亜鉛製剤の服用が中心になります。症状を自覚してから6カ月以内に治療した人と6カ月以上経ってから治療した人を比較すると、6カ月以内に治療した人のほうが治癒するまでの期間が早かったという研究結果があります。味覚検査は限られた施設でしか実施されていませんが、まずは近くの耳鼻咽喉科のクリニックを受診して、亜鉛製剤などによる治療を受け、3カ月程度経っても良くならなかった場合に、専門的な施設を受診するのがおすすめです。

亜鉛製剤などの治療で改善しない場合に多いのが、心因性や中枢機能障害による味覚障害です。この場合、抗不安薬や抗うつ薬で改善することがあります。

味覚障害の対処方法

味覚障害の予防や改善のためには、日常生活ではどのような対策ができるでしょうか。対処方法について紹介します。

亜鉛を含む食材を取り入れる

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、亜鉛の1日の摂取推奨量は18~74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgとなっています。しかし「令和元年国民健康・栄養調査報告」では、65~74歳の摂取量の平均値は8.7mg、75歳以上は7.9mg。日本人は亜鉛が不足している人が多いことがわかっています。

亜鉛は赤身の肉、魚介類、米などに多く含まれています。主食として麺類やパンを食べることが多い人は、米を積極的に食べることを意識するといいでしょう。食事からだけでは摂取しにくい人は、用量を守ったうえで亜鉛が含まれたサプリメントを利用するのもおすすめです。

赤身の肉、魚介類、米など亜鉛が豊富な食材、Getty Images(写真はイメージです)
亜鉛が豊富な食材/Getty Images(写真はイメージです)

亜鉛欠乏による早期の症状の1つが味覚障害と言われています。亜鉛欠乏の状態を放置すると、脱毛や爪の変形といった症状が出てくることもあります。

唾液の分泌を促す

唾液量の減少は、味覚障害につながります。特に高齢者は唾液の分泌量が少なくなりやすいので、よく嚙む、水分をこまめに摂るといったことを意識して、唾液の分泌を促すことが大事です。耳の下あたりからあごの下あたりにある唾液腺(せん)を刺激する「唾液腺マッサージ」も効果的です。

唾液腺マッサージ/①舌下腺マッサージ、②耳下腺マッサージ、③顎下腺マッサージ
唾液腺マッサージ

また、合わない義歯(入れ歯)を使っていたり、義歯に不具合があったりすると嚙みにくく、唾液の分泌量が減ります。義歯を含めて日ごろから口の中の環境を整えることも、味覚障害の対策、そして予防として大事なのです。

※口腔ケアや口の働きの衰えを予防するトレーニングについては、以下の記事もご参照ください。
フレイルは予防可能 オーラルも!パタカラ体操や食事など対策を解説

まとめ

味覚障害は、食の楽しみを奪い、生活の質を低下させるほか、食事量が減って低栄養になる危険性もあります。早く治療するほど治りやすいため、味覚に異常を感じたら、早めに受診するようにしましょう。亜鉛を積極的に摂取する、唾液の分泌を促すなど日常生活での対策も大事です。

味覚障害について解説してくれたのは……

田中真琴・東京都立広尾病院耳鼻咽喉科医長
田中真琴(たなか・まこと)
東京都立広尾病院耳鼻咽喉科医長
2002年、日本大学医学部卒業。日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野所属。2021年より東京都立広尾病院耳鼻咽喉科医長。耳鼻咽喉科一般のほか、嗅覚・味覚障害、嚥下障害が専門。日本大学医学部附属板橋病院の耳鼻咽喉・頭頸部外科で味覚の専門外来を担当。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医・指導医、身体障害者福祉法第15条指定医、難病指定医、補聴器適合判定医。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア