レビー小体型認知症を専門医が解説 原因や前兆、なりやすい人など
更新日 取材/塚田史香
約70種類あると言われている認知症。その中に日本人が発見したタイプがあることをご存じでしょうか。1976年、認知症や脳の病気などを研究していた小阪憲司医師が、パーキンソン病と深く関わる認知症があるという論文を世界に発表しました。それが、レビー小体型認知症です。上用賀世田谷通りクリニック院長の織茂智之医師が、症状や特徴、治療方法、ほかの認知症との違いなどについて解説します。
※下線部をクリックすると、各項目の先頭へ移動します
・レビー小体型認知症とは 原因と特徴 ドパミンとは
・症状
・なりやすい人
・検査の種類・診断基準
・治療
・ご家族へのアドバイス
レビー小体型認知症についてお話してくれるのは……
- 織茂智之(おりも・さとし)
- 上用賀世田谷通りクリニック院長
1980年信州大学医学部卒。MIBG心筋シンチグラフィがレビー小体病の診断に有効であると発見した。“赤ひげ先生の心と科学者の目”で神経疾患患者の診療ができるよう日々努力している。
【レビー小体型認知症とは 原因と特徴 ドパミンとは】
レビー小体型認知症は、認知症全体の約10~20%台とする調査報告が多いようです。4大認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性、前頭側頭型)の一つで、英語ではDementia with Lewy Bodies(DLB)と表記します。
小阪先生の論文によると、レビー小体型認知症の発見は65歳で亡くなったある女性の症状がきっかけでした。その女性には体がこわばる、手足がふるえるなどパーキンソン病の症状(パーキンソニズム)と認知症があり、自律神経(※)の働きの乱れから腸の動きが悪化し、腸閉塞(ちょうへいそく)で亡くなりました。
死因をさらに詳しく調べると、パーキンソン病の研究で存在が知られていた「レビー小体」というタンパク質が大脳から見つかりました。レビー小体は、パーキンソン病ならば運動機能に関連する中脳の「黒質」にある神経細胞内に現れます。しかし、この女性の場合は認知機能に関わる大脳の神経細胞内からも見つかったのです。これがパーキンソン病と関わりの深いタイプの認知症、レビー小体型認知症の発見でした。
黒質は脳の中の伝達係として、人間の動きをスムーズにするドパミンという物質を作ります。レビー小体がたまり、黒質が減り、充分な量のドパミンが作られなくなると、レビー小体型認知症もパーキンソン病も、パーキンソニズムが表れます。
※自律神経
自律神経は、呼吸や体温調整、心拍、胃腸の運動などをコントロールする神経のことです。「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。交感神経は活動的な時や緊張している状態のとき、副交感神経はリラックスしているときに活発になります。
レビー小体型認知症とパーキンソン病との違い・関係
レビー小体は「αシヌクレイン」という特殊なタンパク質のかたまりです。レビー小体が脳にたまると、情報の処理や伝達に必要な神経細胞が徐々に少なくなっていきますが、なぜ減ってしまうのか、理由はまだはっきりと分かっていません。
αシヌクレインが自律神経の神経細胞にたまると、自律神経に関わる症状が表れるようになります。具体的な症状は後述します。
レビー小体型認知症とパーキンソン病は脳にレビー小体がたまることが原因のため、どちらも「レビー小体病」と表現されることがあります。
●レビー小体型認知症は主に大脳と中脳にレビー小体が現れるので、認知症と運動症状(体の動きに関連する症状)が出る
●パーキンソン病は主に中脳にレビー小体が現れるので、最初は認知症がなく、運動症状がメインに出る
しかし近年、パーキンソン病でも中脳に現れたレビー小体が10年、20年と時間をかけて大脳に広がって、認知症になることが分かってきました。レビー小体型認知症とパーキンソン病は進行すると症状が似てくるため、両者はきょうだいのような関係と言えます。
【症状】
物忘れとは限らない多様な症状
認知症と言えば、物忘れ(記憶障害)を想像する人が多いかもしれません。しかし、レビー小体型認知症の場合は必ずしも物忘れが起きるとは限りません。初期は、買い物や料理など日常的な動作ができなくなってしまう「遂行機能障害」、情報を選んで意識を向けることができなくなる「注意障害」、文字や図形などを視覚的に正しく理解できなくなるなどの「視覚認知機能障害」が目立ちます。
さらに、レビー小体型認知症の特徴的な症状は次の4つです。
【1】レム睡眠行動障害
眠っている最中に大声で寝言を言ったり、眠ったまま暴れ、壁やベッドパートナー(同じベッドで寝る人)を殴ってしまうことがある。
【2】認知機能症状の変動
日ごと、あるいは時間帯ごとに症状の表れかたに大きな波があり、頭がはっきりしている時とぼんやりしている時がある。
【3】幻視・錯視
そこにはないものが本当にあるように見えたり(幻視)、ハンガーにかけた服が人に、電気コードがヘビに見えるなど、全く別物に見える(錯視)ことがある。
【4】パーキンソニズム
手・足が震える、動作が緩慢になる、歩幅の狭い歩きかたになる、筋肉がこわばるなど。
【なりやすい人】
レビー小体型認知症には前兆がある
レビー小体型認知症になる可能性が高い人の多くに、次のような症状がみられます。
1つは「レム睡眠行動障害」です。
睡眠にはレム期とノンレム期という周期があります。レム期は、筋肉の力が抜けているため体が動かないのですが、眼球だけは急速に動きます。また、よく夢を見るという特徴があります。ノンレム期にはそのような特徴はなく、寝返りをうつなど筋肉には力が入っています。
しかし、レビー小体型認知症になると、レム期でも筋肉の力が抜けず、たとえば喧嘩をする夢を見ると、そのとおりに体が動いてしまったり大声を出したりします。
レム睡眠行動障害がある人は将来、レビー小体型認知症かパーキンソン病、まれに多系統萎縮症という難病になる傾向があることが分かっています。
もう1つは「嗅覚障害」です。
匂いは、鼻の奥にある嗅球(きゅうきゅう)という器官が匂いの素となる物質を受け取り、電気信号として脳に届けます。この経路にレビー小体が現れると、信号がじゃまされるため匂いが分からなくなります。そのためレビー小体型認知症では、パーキンソニズムや認知機能の障害よりも先に嗅覚の異常に気付くことがあります。耳や鼻の病気はないのに嗅覚がおかしいと感じる時は、レビー小体型認知症かパーキンソン病の前兆である可能性があります。
その他、便秘や色覚の異常、抑うつなどもレビー小体型認知症の前兆に挙げられ、これらはパーキンソン病の前兆とも共通する症状です。
レビー小体型認知症のほうが、発症年齢が高い傾向にあります。
しかし、症状があるからといって、すぐにレビー小体型認知症になるわけではありません。脳にレビー小体がたまっても、黒質の神経細胞が通常の半分くらいに減るまでは症状は出てきません。
例えば記憶障害では論文があり、レビー小体型認知症の前兆が表れてから記憶障害が起きるまでの期間を調べた論文(2013年、藤城弘樹先生)によると、レビー小体型認知症90人のうち7割以上の人に、記憶障害が始まる9.3年前から便秘が、8.7年前から嗅覚障害がみられました。
レビー小体型認知症を疑ったら何科に行く?
内科や精神科でも診てくれますが、脳神経内科をお勧めします。認知症、パーキンソニズム、自律神経障害に伴う症状、精神症状などがトータルでみられ、画像による診断や自律神経系の検査の相談もできるからです。
【検査の種類・診断基準】
レビー小体型認知症は、その症状が生活に支障をきたしていることを前提に、次の診察と検査を組み合わせて診断します。
診察
次の4つのうち2つ当てはまれば、レビー小体型認知症と診断できます。また、質問用紙や診察でも確かめます。
●認知機能(注意・集中)に変動がある
●具体的な幻視が繰り返される
●パーキンソニズムがある
●レム睡眠行動障害がある
検査
上記診察の4つのうち、当てはまる数が1つだった場合に検査をします。アルツハイマー型認知症の場合はMRIで脳の委縮を確認しますが、レビー小体型認知症の場合は脳の萎縮が目立つとは限りませんので、医師の判断により次のA~Cのいずれかの検査を行います。
【A】ドパミントランスポーターシンチグラフィー
ドパミンが充分にあるかどうかを画像で診断します。
ドパミンを作る細胞の一部分にある「ドパミントランスポーター」に付く性質のある診断薬を静脈に注射し、時間をおいてから特殊なカメラで撮影すると、画像に診断薬が色づいて表示されます。ドパミンを作る細胞が生きていれば色を確認できますし(画像左)、減っていれば色が見えません(画像右)。この色の有無から診断できます。
【B】MIBG心筋シンチグラフィ
心臓の交感神経の分布を画像で診断します。レビー小体は、脳だけでなく初期から心臓の交感神経にも表れます。MIBGという薬は心臓の交感神経に集まり、特殊なカメラで撮影すると画像上は色づいて表示されるという性質があるため、これを使って交感神経の働きを画像にして診断します。
検査ではMIBGを静脈に注射し、時間をおいて撮影をします。正常ならば心臓の交感神経が色づいて画像化されますが、レビー小体により心臓の交感神経が正常な状態ではなくなっていると画像に現れません。その差から診断します。
【C】睡眠ポリグラフ検査
脳波をとりながら顔や胸などにセンサーを付けて就寝し、レム期に目以外の筋肉が動いているかどうかを筋電図で調べます。
診断基準
下記の組み合わせから診断します。
- 上記の診察で2つ以上当てはまる場合
または
- 診察で1つ当てはまり、A~Cのいずれかに異常がある場合
に、高い確率でレビー小体型認知症だと診断できます。
【治療】
QOL(生活の質)を上げるための服薬
レビー小体型認知症の根本的な治療薬はまだありませんが、薬の服用はとても大切です。認知機能障害、幻視や抑うつなどの精神症状、パーキンソニズムの3つに対してそれぞれの薬を使い、QOLを上げることを目指します。
認知機能障害には「ドネペジル」
認知機能障害によく処方されるのが、ドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)です。アルツハイマー型認知症で使われている薬で、記憶や学習に関わる伝達物質アセチルコリンの減少を緩やかにする効果があります。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症以上にアセチルコリンの減少が大きく影響しているので、処方された薬をきちんと服用することが大切です。
精神症状には「ドネペジル」「クエチアピン」など
幻視にはまずドネペジルを使用します。ドネペジルが使用できない場合や無効の場合、あるいは緊急にコントロールしなくてはならない症状(強い幻覚・妄想、暴力行為など)に対しては、非定型抗精神病薬のクエチアピン(商品名:セロクエルなど)を使用します。
うつに対しては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の使用を考慮します。
パーキンソニズムには「L-ドパ」「ゾニサミド」
レビー小体型認知症の人でパーキンソニズムがある場合には、ドパミンを補うL-ドパ(商品名:ネオドパストン、マドパーなど)が有効です。L-ドパだけではパーキンソニズムが治まらない場合は、抗パーキンソニズム薬のゾニサミド(商品名:トレリーフ)も選択できます。
処方はオーダーメイド
薬を飲むときはできる限り副作用を避けなければいけません。たとえば、パーキンソニズムを改善するトリヘキシフェニジル塩酸塩(商品名:アーテン)を服用すると幻覚・幻視を強める傾向があり、原則的にはレビー小体型認知症の人には処方しません。レビー小体型認知症の人は症状の表れ方がさまざまです。かかりつけの先生と相談しながらオーダーメイドのように、飲む種類、量、順番を決めて使います。
また、パーキンソニズムが軽ければ、散歩のような有酸素運動はおすすめです。有酸素運動に認知機能の悪化を防ぐ効果があることは、研究で明らかになっています。
【家族へのアドバイス】
幻視・錯視を否定しない
冒頭の「原因と特徴」でも触れたように、錯視ではハンガーにかかった洋服が人間に見えたり、電気コードがヘビに、小さい粒状のものが虫に見えたりします。幻視では、そこにいない人や物が見えます。本人はそれらをありありとした形で見ているので、たとえ「これは幻視だ」と自覚があっても、人から強く否定されると困ってしまいます。強い否定はせず、何が見えているのか話を聞き、一定の共感をしながら見えているものを一緒に探したり、確認を手伝ったりして不安に寄り添いましょう。
部屋を見回し、環境整備
幻視も錯視も、暗い場所ほど起きやすいと考えられています。必要に応じて部屋を明るくしたり、錯視のきっかけになるものが視界に入らないように片付けたりしましょう。洋服はクローゼットにしまい、電気コードは隠すなど、できることを心がけてみてください。
声をかけるときは正面から
レビー小体型認知症に限らず、認知症の人と会話をするときは後ろから急に話しかけないこと。正面から目線の高さを合わせて会話すること。そして緊急を要さない限り、まずは話を聞き、一定の共感を示すことがお互いにとってよい関係を作るポイントです。
(イラスト協力/朝日新聞メディアプロダクション)