同居の父に資産を聞いたら詐取を疑われ…信頼を回復するには【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の椎名淳一さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.同居している父(70代)が初期の認知症と診断され、今後のことを考えて年金や貯金はどの程度あるのか聞いたところ、「お金を全部取ろうとしているのか」と疑われ、弟に言いつけられました。信頼を取り戻すのは難しいのでしょうか(40代・男性)
A.相手が認知症の人ではなくても、一度失った信頼を取り戻すのは難しいことです。しかし同居している家族ですから、今後の接し方次第で信頼を取り戻すことはできると思います。
お父さんは初期の認知症ということで、不安を抱えていると思います。自分の症状をはっきりと自覚していなかったとしても「今までとは何かが違う」という感覚はあることが多いようです。人は不安になると大事なものをそばに置いておきたいと思うようになります。「大事なもの=お金」と考えるからこそ、お金についていろいろと聞いてきた相談者のことを疑ってしまったのかもしれません。認知症の初期の人によく見られる「もの盗られ妄想」も、盗まれたと訴える対象は、財布や貯金通帳、宝石類など財産に関連するものです。認知症の人が財布などを「盗まれた」と訴えるときには、家族が一緒に探して、一緒に見つけることができると本人の安心感は高まります。
この相談のケースでも「お金のことを一緒に考えていこう」というように、寄り添う姿勢を見せると、信頼を取り戻せるかもしれません。今後、介護保険サービスを利用することなどを考えると、確かにお父さんにどの程度使えるお金があるのか、知っておきたいですよね。感情がたかぶっていると話を聞き入れてもらえないと思うので、時間をあけて落ち着いたタイミングで、お金のことを聞いた理由などを話せるといいですね。お父さんは弟のことは信頼できているかもしれないので、弟を交えて3人で話をするのがいいと思います。
特に認知症の初期の場合、少しの思い違いから、お互いの思いがどんどんズレてしまうことがあります。ただし、きちんと説明すればわかってもらえる可能性もある時期だと思うので、諦めずに丁寧に話す、一緒に考えるということを意識してほしいと思います。
【まとめ】父が初期の認知症なので今後のために年金や貯蓄額を聞いたら「お金を取ろうとしているのか」と疑われたときには
- 不安感から、お金をそばに置いておきたいという思いが強くなり、相談者を疑っている可能性があることを理解する
- 「一緒に考える」という姿勢を見せることが安心感につながるので、お父さんの気持ちが落ち着いているタイミングで、弟を交えて3人でお金について話し合う
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫