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認知症になっても一人暮らしできる?リスクとサポート方法を紹介

 認知症の人の一人暮らし(イラスト/Getty Images)
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高齢者の一人暮らしが増え、今後もさらに増加していくことが見込まれています。一人暮らしでも自立して生活できていれば問題ないですが、もし認知症になったら、一人暮らしを続けていけるのでしょうか。一人暮らしの人が事前に準備しておけること、認知症になった場合のサポート方法などについて、東京都認知症介護指導者でデイサービススタッフの坂本孝輔さんに教えていただきました。

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一人暮らしの高齢者が増加傾向に

一人暮らしの高齢者は増加傾向にあり、65歳以上の人口に占める割合をみると、1980年には男性4.3%、女性11.2%だったのが2020年には男性15.0%、女性22.1%にまで増えています(内閣府「令和5年版高齢社会白書」より)。さらに2040年には65歳以上のうち、男性は5人に1人、女性は4人に1人が一人暮らし世帯になることが推計されています。

【65歳以上の一人暮らしの者(男性・女性)】1980年(688人・193人)、1985年(948人・233人)、1990年(1313人・310人)、1995年(1742人・460人)、2000年(2290人・742人)、2005年(2814人・1051人)、2010年(3405人・1386人)、2015年(4003人・1924人)、2020年(4409人・2308人)、2025年(4832人・2680人)、2030年(5024人・2935人)、2035年(5192人・3225人)、2040年(5404人・3559人)【65歳以上人口に占める割合(男性・女性)】1980年(4.3人・11.2人)、1985年(4.6%・12.9%)、1990年(5.2%・14.7%)、1995年(6.1%・16.2%)、2000年(8.0%・17.9%)、2005年(9.7%・19/0%)、2010年(11.1%・20.3%)、2015年(13.3%・21.1%)、2020年(15.0%・22.1%)、2025年(16.8%・23.2%)、2030年(18.2%・23.9%)、2035年(19.7%・24.3%)、2040年(20.8%・24.5%)/2020年までは総務省「国勢調査」、2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年推計)を参考に編集部が作成。棒グラフ上の( )内は 65 歳以上の一人暮らしの者の男女計。ただし、四捨五入のため合計は必ずしも一致しません
2020年までは総務省「国勢調査」、2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年推計)を参考に編集部が作成。棒グラフ上の( )内は 65 歳以上の一人暮らしの者の男女計。ただし、四捨五入のため合計は必ずしも一致しません

認知症の人が一人暮らしを続けるメリット

一人暮らしの高齢者が認知症になると、周囲の心配は尽きないでしょう。もし一人暮らしの親が認知症になった場合、同居を考えることもあるかもしれません。しかし子の家に親が転居することになると、それまでの近所付き合いなどの人間関係がなくなるほか、環境が変わることによるダメージによって本人が混乱することがあります。子が親の家に転居する場合も、離れて暮らしていた期間が長いと、生活が合わずにお互いにイライラして家族関係がうまくいかなくなることもあります。

認知症のBPSD(行動・心理症状)は、同居している家族がいるからこそ出現したり、重くなったりすることがあります。認知症によってすぐに忘れてしまい、作業がうまくできないことなどを家族に指摘されたり、叱られたり。あるいは自分が置いたはずの場所に大事なものがないと、家族を疑う「もの盗られ妄想」が出ることもあります。一人暮らしであれば、ミスをしても家族から指摘されることはないですし、大事なものがなくなっても家族を疑うことはないでしょう。同居している人がいるからこそストレスを感じ、BPSDが出やすくなることもあるのです。

このように認知症の人の一人暮らしは、リスクだけではなくメリットもあり、特に初期はそれが大きいといえます。

認知症の人が一人暮らしで心配されるリスク

もちろん、認知症の人が一人暮らしをするうえで、起こりうるリスクもあります。その多くは環境を整えたり、介護保険サービスを使ったりすることで回避できるものです。初期の認知症でも起こる可能性があるのは、次のようなリスクです。

火災

ガスコンロの火、Getty Images
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ガスコンロの火を消し忘れる、ガス漏れに気づかないといったことによって、心配なのが火災です。近隣にも大きな迷惑をかけることになるので、離れて暮らす家族にとっては気がかりでしょう。電磁調理器(IHクッキングヒーター)や自動消火機能のついたガスコンロにするといった対策をしておくと安心です。ただし認知症が進んでいると新たに操作を覚えるのが難しくなるので、早めの対策が必要です。万が一火事が起きた場合も、火災報知機を設置する、難燃性のカーテンやじゅうたんを使用するといったことで、損害を最小限におさえることができます。

ガスもれに気付きにくいなど、認知症と嗅覚障害の関係については、以下の記事をご参照ください。
嗅覚障害は認知症の前兆?においがわからなくなる影響と対策を紹介

事故・事件

外出して道に迷い、ウロウロして交通事故などにあうことも考えられます。また、知らない人を家にあげてしまったり、戸締りを忘れたりして強盗などの被害にあうリスクもあります。行政や民間の見守りサービスを利用する、玄関ドアのロックを遠隔操作できるツールを利用するなど防犯対策を見直すほか、近所の人たちに一人暮らしをしていて認知症があることなど、事情を伝えておくことも大事です。

近所の人に説明するひと、Getty Images
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金銭トラブル

インターネットや訪問販売、電話勧誘販売などで不要なもの、高額なものを買ってしまうのもよくあることです。家族が離れて暮らしていると消費者被害にあっていることにすぐには気づきにくいので、クーリング・オフ制度の期間が過ぎてしまうことも考えられます。ケアマネジャー、ホームヘルパーなど家に出入りする人がいると早くに気づきやすく、また悪徳業者のターゲットにされにくい傾向があります。

判断能力が低下した後に財産管理などを任せる人を、予め指名しておくことができる「任意後見制度」については、以下の記事をご参照ください。
任意後見制度とは どんな人が使える?法定後見との違いや監督人などを解説

病気

健康を管理するうえで重要なのが、服薬や食事です。持病の服薬ができなくなったり、食事が偏ったりすると病気のリスクが高くなります。ホームヘルパーやデイサービス、宅配サービスなどを利用して服薬管理や食事の手配などができれば安心です。

食事の偏りや好みの変化の原因となる「味覚障害」については、以下の記事をご参照ください。
味覚障害の原因や治し方、対策とは 亜鉛摂取のおすすめ食材も紹介

近隣トラブル

ゴミ出しをルール通りにできなくなったり、コミュニケーションをうまく取れなくなったりして、隣近所との関係性が悪くなる可能性があります。認知症の人はゴミ出しについて近所の人に注意されても、本人にその自覚はなく、わけもなく攻撃されているように感じてしまうことがあります。近所の人に親が認知症であることだけではなく、そのためにミスを自覚できずに失礼な態度をとってしまう可能性があることまでを伝えておくといいでしょう。

あふれかえるゴミ箱、Getty Images
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孤立

近隣トラブルなどによって、それまで参加していた地域や趣味の集まりに行きづらくなり、社会から孤立することがあります。認知症や病気が進行していることに誰にも気づかれずに、悪化してしまうことも考えられます。近所の人や所属している集まりの人たちに家族から事情を話しておくほか、地域包括支援センター、ホームヘルパー、デイサービスなど、専門職とつながりを持っておくことが大事です。

一人暮らしだからといって症状が悪化しやすいわけではない

社会から孤立し、人とコミュニケーションをとらなくなると認知症が進行しやすいと言われます。一方で同居家族がいても、その関係においてストレスがあるとBPSDが出やすくなります。また同居家族がいると、認知症の人が失敗するのを避けるために、本人が何もやらなくていい環境をつくってしまうことがあります。一人暮らしでは家事など自分でやらなければならないことも多いので、身体機能などが保たれるという面もあるのです。一人暮らしだからといって、認知症の症状が悪化しやすいとはいえません。

一人暮らしの家族が認知症になる前から備えておくべきこと

高齢者が安全に一人暮らしを送れるように、電磁調理器のほか、見守りカメラ、家の鍵やエアコンなどの遠隔操作、スマートウォッチによる健康状態の共有など、さまざまなツールがあります。電磁調理器の操作やスマートウォッチの充電など、認知症になってから新たに覚えるのが難しいツールは、あらかじめ操作に慣れておくと、認知症になっても習慣が身についているので、継続しやすくなります。

また本人に若い頃の思い出話を聞いておくこともおすすめします。妻、あるいは夫とどのように出会って結婚したのか、どのように子育てしてきたのか、仕事ではどのように活躍してきたのか。認知症の症状は、過去の体験に紐づいていることがあります。例えば夕方になると必ず出かけようとする場合、実はその時間帯がかつて自分の子どもを幼稚園に迎えに行く時間帯だったということが後でわかるようなケースがあります。認知症の人の一人暮らしを支える介護スタッフにとって、本人の過去のエピソードなどは貴重な情報になるのです。

靴を履き替える園児たち、Getty Images
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また、年金や貯蓄額を聞いたり、口から食べられなくなったときや延命措置などについて話し合ったりできると、いざというときに困らなくてすみます。

一人暮らしの家族に認知症の疑いがあるときにするべきこと

電話をしたときの様子がおかしい、久しぶりに帰省したら家がゴミ屋敷になっていたなど、一人暮らしの家族に認知症の疑いがあった場合、まず何をすべきでしょうか。

サポートする人を決める

医療や介護など関係各所とやりとりをする家族の代表者“キーパーソン”を決めます。あくまで代表者なので一人で抱え込まずに、兄弟姉妹がいる場合は役割分担を明確にすることが大事です。

一人暮らしの認知症の人を支えるチーム体制【一人暮らしの認知症の人】→【キーパーソン】—【家族】→【ケアマネジャー】→【医療】訪問医療、訪問看護/【介護】訪問介護(ホームヘルパー)、デイサービス、ボランティア、イラスト/Getty Images
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医療機関を受診する

医療機関を受診し、認知症かどうかを診断してもらいます。本人に病識(症状を自覚する能力)がないと、受診を促すのは難しいですが、受診を指示するのではなく「私のために行ってほしい」とお願いするような形で促すと、スムーズにいく傾向があります。

身近な人が「認知症かもしれない」と感じた時に、相手を傷つけずに受診に繋げる方法については、以下の記事をご参照ください。
「認知症かも」…傷つけずに病院へ連れて行く方法 実例から専門家が解説

要介護認定の申請をする

認知症の人がどこまで一人暮らしを続けられるかは、ホームヘルパーやデイサービスなどの介護サービスによるところが大きいといえます。要介護認定されれば、介護サービスを受けたときの自己負担額が軽減されます。認定を受けるには、役所で要介護認定の申請をする必要があります。

要介護認定の申請方法や要介護度の区分の違い、利用できるサービスやその費用については、以下の記事をご参照ください。
要介護認定とは?8区分の詳細と介護保険、申請の流れについて専門家が解説

介護サービスを申し込む

訪問看護を受けるひと、Getty Images
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ケアマネジャーに、本人の症状や生活に合わせたケアプランを提案してもらいます。本人が介護サービスを拒否する場合は、まず月に1回程度の訪問看護を提案してはいかがでしょうか。介護よりも健康状態をみてもらうことを目的とした看護のほうが本人にとっては受け入れやすい傾向があります。また、月に1回でも専門職に訪問してもらうことで安心感を得ることができ、次のサービスにつながりやすくなります。

一人暮らしの認知症の人をサポートする際の注意点

離れて暮らす認知症の親をサポートする場合、どのような点に注意すればよいでしょうか。

本人の意思を確認する

認知症の人を一人暮らしさせておく場合でも、施設に入居させる場合でも、家族は罪悪感を抱きがちです。しかし大事なのは、本人の意思です。家族と同居したいのか、一人暮らしを続けたいのか、施設に入居したいのか、そのときどきで確認するようにしましょう。例えば、衣食住に対して本人が不安を感じている場合は、たとえ一人暮らしを続けられる状況だったとしても施設に入居したほうが、本人は安心して過ごせることもあるのです。

帰省の際には本人や家の中の変化に気を配る

短時間でもいいので、できればこまめに帰省して、本人の変化や家の中の変化に気を配りましょう。本人の写真や動画を撮って、ほかの家族に送るのもおすすめです。子は自分の生活だけで日々大変で、一人暮らしをしている親のことを考える余裕がなくなることもありますが、親の写真や動画を見ると「最近帰っていないから顔を出そうかな」という気になるのではないでしょうか。

帰省し高齢の母親と過ごす娘、Getty Images
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帰省するタイミングはケアマネジャーとの面談や通院の日のほか、生活サイクルが変わりやすく、衣替えの必要がある季節の変わり目、地域のお祭りなど本人が楽しみにしている行事がある日などに合わせると、帰省がより有意義になるでしょう。

限界まで一人暮らしをしない

介護保険サービスを必要に応じて利用すれば、ある程度進行しても一人暮らしは可能ですが、認知症の後期になると施設入居を検討したほうがいいケースも増えていきます。一人暮らしの限界を見極めるのは難しいことですが、次のようなポイントがあります。

  • トイレで排せつできなくなる
  • 転倒などによってADL(日常生活に必要な動作)が低下している
  • 家族に頻繁に電話をかけたり、近所の人に助けを求めたりして、本人が一人暮らしに不安を感じている可能性が高い
  • 一人での食事や服薬に問題があるのに、ホームヘルパー不足などによって地域に利用できる介護サービスがない

認知症の家族に不安を感じたら地域包括ケアシステムを活用しよう

高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるように、高齢者への支援やサービスを地域で一体的に提供していく体制が「地域包括ケアシステム」です。親が住む地域の地域包括支援センターに相談して、医療や介護などチームでの協力態勢を整えることが重要です。

高齢者の暮らしを地域でを支える地域包括ケアシステム、Getty Images
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「地域包括支援ケアシステム」については、以下の記事をご参照ください。
地域包括ケアシステムとは?5つの構成要素と各地の事例

まとめ

認知症の人の一人暮らしにはメリット、デメリットがあります。それぞれをよく理解して、適切に対応していけば本人も家族も安心して過ごせるはずです。

認知症の人の一人暮らしについて解説してくれたのは……

坂本孝輔(さかもと・こうすけ)
介護福祉士、東京都認知症介護指導者
介護専門学校を卒業後、特養、訪問介護、福祉用具、小規模多機能型居宅介護、グループホームなどでの経験を経て、2012年に株式会社くらしあすを起業、地域密着型通所介護(デイサービス)「二本木交茶店」を運営。認知症ケアをライフワークとし、施設や家族介護の課題解決の支援に尽力している。共著に『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』(すばる舎)。

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