「認知症かも」…実例で知る、受診からその後の生活を専門家が徹底解説

病院に連れて行くには

「もしかしたら認知症?」「まさかそんな」──。身近にいる人の物忘れや言動の変化を目の当たりにして、揺れ動く気持ち。そんな時、まず必要なのは受診に繋げること。そして診断がついたら、さまざまな支援を活用しつつ希望を持って生活を送ることです。30年間、認知症の当事者や介護者に寄り添ってきた専門医の松本一生先生に、家族やそばにいる人の視点から“はじめの一歩”をどう踏み出せばいいのか、お話を伺いました。

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「認知症かも」疑いの段階から快適な暮らしまで解説してくれるのは……

松本一生(まつもと・いっしょう)医師
松本一生(まつもと・いっしょう)
松本診療所(ものわすれクリニック)理事長・院長
1956年大阪市生まれ。さそり座。83年大阪歯科大学、90年関西医科大学卒。2005~10年大阪人間科学大学教授(診療所と兼務)、06~10年厚労省「認知症を知り地域をつくるキャンペーン」認知症本人ネットワーク支援委員長等、多くの研究会等の委員を兼務。13年より大阪市立大学大学院生活科学研究科客員教授。日本認知症ケア学会総務担当理事、日本老年精神医学会評議員・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医・認知症診療医。

初診への恐怖をなくす方法

私が開いている「ものわすれクリニック」では、初診の段階でご本人に物忘れの自覚があるケースは6割強、ご本人に自覚がなくて家族が困っているケースが3割くらいです。ご本人自身が気付いていない場合、どうやってご本人に受診していただくかは、いつも大きなテーマになっています。

認知症は、より早い診断を受けて早い対応ができれば、進行を抑えられるなどメリットがいっぱい。ところがご本人が拒むだけでなく、家族が受診を滞らせてしまうこともよくあります。

家族なら「受診して」と言えるだろうと思うのは早計に過ぎます。「いつものお父さんではなくなった」と気付いても、言うと自尊感情を傷つけてしまうかもしれないと、家族だからこそのためらいが出るのです。

では、相手の気持ちに十分配慮しながら受診を促すにはどうすればいいのでしょうか。実際の出来事を例に考えてみましょう。

〈事例1〉
夫のAさん(血管性認知症・60代)を何とか受診に繋げようと考えた妻のBさん。口にしたのは老後に備えた認知症予防の提案です。「私たちが70代になるのも間近ね。私もうっかり忘れ物をすることが増えたし、これから夫婦二人で楽しく暮らすために、一緒に認知症の検査をしっかり受けておきましょうよ」。Aさんもこれには反対できず、シブシブですが受診を承諾しました。

大切なのは、どう真摯に向き合おうとしているかです。
「健康診断を受けよう」と言って勧める場合もあるようですが、健康診断は通常、保険診療外です。認知症かどうか調べるのに医療保険を使って受診するなら“嘘”になってしまいますよね。
ご本人に知られてしまうと不信感を招くきっかけになるかもしれません。些細なことのようでも嘘は交えないほうが、いい結果を生みそうです。

「将来のために一緒に受けましょう!」
〈事例2〉
アルツハイマー型認知症のCさん(60代)は奥さんに買い物に行こうと誘われ、ごきげんでした。でも連れて来られたのはお店ではなく、私の診療所。奥さんにしてみれば、頑固な性格のCさんを受診させる名案のはずでした。しかしCさんは、騙されたことへの怒りがおさまらなくなってしまいました。

これはダメですね。「我慢して診察を受けようか」という気持ちにはなりません。どんなに医師が「一緒に考えましょう」という姿勢を示しても、自分は騙されたという怒りは強くなるばかりです。最初からボタンの掛け違いが起こると収拾がつきません。ご家族は切なる気持ちからであっても、嘘はつかないほうがいいだろうというのが私の意見です。

信頼する人が受診を勧めると本人も納得

もし家族で難しければ、ご本人が信頼できる人に受診を勧めてもらうのも効果的です。
かかりつけ医の先生とご本人が普段から信頼関係にあるなら、例えば先生に「あなたの状態がどうなのか知りたいので、ぜひ専門医のところに行ってくれないかな」と勧めてもらうと素直に聴かれることが多いですね。

若年性認知症かもしれない人を傷つけず受診に繋げる

初診に至るまでがことに難しいのは、65歳未満で発症する若年性認知症のご本人と家族。ご本人は多くが働き盛りで、一家の大黒柱だという自負もあります。「認知症かもしれないから診てもらおうなんて口が裂けても言えない」とため息をつく家族もいます。

〈事例3〉
若年性アルツハイマー型認知症のDさん(40代後半)は働き者のショップオーナーでしたが、行動に変化が現れ始めました。妻に「最近、やる気があまり出てこないようだけど、医療機関に行ってみたら?」とアドバイスされたDさん、「仕事のストレスでうつになったのかなあ」と素直に返事。精神科の受診にこぎつけました。

若年性認知症が始まる時、アルツハイマー型認知症はやる気の低下が、レビー小体型認知症では気分の沈みが現れることもあります。「ストレスが高じて自律神経の障害があるのかも、それともうつかな、無気力症かな。わからないから受診してみましょうよ」と勧めてみて、認知症の診断に繋げるのもスムーズかもしれません。
「もしかしたら認知症では?」より「もしかしたらうつ病では?」のほうが尋ねやすい傾向があるのも本当のところ。認知症のマイナスイメージが少しずつ変わることを期待しつつ、傷つけにくい勧め方の一つとして知っておくのもいいかもしれません。

知っておきたい医療機関のかかり方

認知症の相談や受診をするには、どんな医師・医療機関にかかればいいのか整理しておきましょう。市町村には、住民がより早い段階から認知症の適切な医療や介護のサービスが受けられるよう協力・連携体制が作られています。
医療においては、

  1. かかりつけ医
  2. 認知症サポート医
  3. 認知症専門医または専門医のいる認知症疾患医療センター

が連携しています。

要(かなめ)になるのは地域のかかりつけ医です。ご本人やその家族を長年にわたり診ていますから、例えば診察にきた患者さんについて「この方は、10年前に脳梗塞を起こして脳血管障害があるから、その影響でこだわりが強くなったのかもしれない。最近血圧の変動があり、新たな脳梗塞が起きて血管性認知症が重なってきた可能性もある」などと考えます。

その後、かかりつけ医は認知症サポート医を仲立ちにするなどして認知症専門医か認知症疾患医療センターに患者を繋げます。
認知症サポート医は日本医師会が作った制度で、かかりつけ医への助言や支援を行い、地域包括支援センター、ケアマネジャーなど介護関連の職種との連携を推し進める役目を持っています。必ずしも認知症を専門とする医師であるとは限りませんが、認知症の啓発に力を注いでいます。

患者が紹介状(診療情報提供書)を持って認知症専門医のいる医療機関を訪れると、専門医は検査をして診断をつけます。診断の結果はかかりつけ医も受け取り、その後、相互に連携しながら患者を診ていくことになります。
もし在宅での訪問診療が必要になった場合、かかりつけ医が手配してくれます。かかりつけ医はあらゆる場面で支えてくれる存在なので、まだそういう立場の医師がいない場合はぜひ探しておきたいものです。

認知症の告知を行うのは、ご本人をよく知るかかりつけ医が望ましいと私は思っています。専門医による初診の際、要望メモなどに、希望する告知方法について記しておいてもいいでしょう。

かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症サポート医、認知症専門医、認知症疾患医療センター、ケアマネ・介護職者がそれぞれ連携し、かかりつけ医が本人や家族を支援
かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症サポート医、認知症専門医、認知症疾患医療センター、ケアマネ・介護職者がそれぞれ連携し、かかりつけ医が本人や家族を支援

専門医の診察内容と受診時のヒント

では、専門医の診察はどのように行われるのでしょうか。

〈事例4〉
「私は昔から高血圧なので、脳の中で血管に何か起きていないか心配です」
Eさん(血管性認知症・70代)にそう言われ画像を見ると、血管性認知症の可能性があることがわかりました。でもストレートに「血管性認知症」とは告げません。
「海馬は変化していないからアルツハイマーのような物忘れではないけれど、側頭葉に血栓がある人は今起きたことをコロッと忘れることは結構あるので、一緒に確認していきましょうか」
診断の結果をEさんと共有し、一緒に吟味する形で話を進めます。Eさんは、自分に起きた訳のわからない変化への不安が、客観的に画像を見ることで解消されてきたようです。
自分の身に起きていることを理解したEさんから「じゃ、ここはどうですか?」とどんどん質問が飛び出しました。Eさんにとって医師は一緒に病気を考えていく心強い仲間になっていたのです。その様子に家族も安堵しています。

淡々と検査をして病名を告げるだけでは、受診は不要だと思っているご本人との関係は深まらず、いい医療には繋がりません。初診でご本人が望んでいることは何なのか、私は必ず聞くようにしています。

ただし大きな病院の外来などで、医師がご本人や家族の話に長時間、耳を傾けるのには限界があります。そこでお薦めなのは、要望などを紙1枚に簡潔にまとめておき、診察の時に医師に読んでもらうこと。例えば「本人はプライドが高い。最初から病名を告げられると穏やかではなくなるかもしれない。長年診てもらっているかかりつけ医を通して伝えたい」など。家族が希望するアプローチや今後の方向性などを医師に伝え、意思の疎通を図っておくことも大切です。

「専門医の受診を」

在宅? それとも施設? 生活の場を選ぶポイント

認知症は、ご本人の状態が安定して家族が安心できれば、進行を十分に抑えられます。診断がついたら暮らしの環境を整えていきましょう。
基本となるのは生活の場です。在宅か、施設か。在宅なら同居か、一人暮らしか。施設の場合、在宅での介護ができず選択するものと考えられがちです。でも施設で暮らしたほうが安定する人もいるのです。Fさんのケースをご紹介しましょう。

〈事例5〉
勝気でプライドの高いFさん(アルツハイマー型認知症・80代)は、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言うで、家族がけんめいに頼みごとをしても首を縦に振ったことがありません。そこで家族にこうアドバイス。
「Fさんは側頭葉が変化している半面、前頭葉はしっかりしています。周囲の人たちをきちんと意識する能力があるということです。ご家族よりも他人の中にいたほうが、いい意味でイイカッコしてシャンとされると思いますよ」
その後、グループホームに入所したFさんは、何のトラブルもなく人気者に。家族は「これまでの振る舞いはいったい何?」とあきれるわ喜ぶわ……。

家族は自分たちの責任で介護をしなければ病状が悪くなっていくと勘違いしがちです。でも、家族の感情的な部分を介護に持ち込まないほうがうまくいく場合もあります。
在宅介護を何年したから、もう施設に入ってもらっても許されるはず……といった家族の情的な年月の尺度ではなく、ご本人の状態を客観的に把握して、生活の場を選択したいものです。

拡大家族ネットワークづくりで安心介護を

超高齢社会で家族のありようが変わった今、生活の場がどこであっても介護に必要なのは、血縁を超えて拡がる家族のような繋がりです。
地域で信頼できる人たちによる“拡大家族ネットワーク”をつくり支援者になってもらうと、介護は破綻することなく続けられます。ことに遠距離介護では重要です。“拡大家族”たちと手を組めば、遠くてもゆったりとした雰囲気のなか、安心して介護ができるでしょう。

周りを見渡せば介護専門職、民生委員、老人会の役員、市民ボランティア……さまざまな人々がいます。もしまだ“拡大家族ネットワーク”を持っていないなら、自治体によって設置されている「地域包括支援センター」に行ってみてください。ボランティア団体や当事者の会を紹介してくれるなど、ネットワークのつくり方をアドバイスしてくれるはずです。

介護の中心人物「キーパーソン」は、こう決める

介護を始める上で決めなければならないのが、キーパーソン。医療や介護サービスを受ける人と家族の間に立って意見を取りまとめ、さまざまな場面で方針を決める人です。常に要介護者ご本人と一緒にいる人をキーパーソンに立てるべきだと思われがちですが、必ずしもそうとは言えません。

〈事例6〉
Gさん(レビー小体型認知症・70代)の家のすぐ近所に住む長男は頭を抱えています。「親父は自分が行くと頑なな態度をとり、取りつく島もない」。ところが遠方で暮らす長女が2カ月に一度、飛行機で訪れる時は素直に話を聞くのです。長男は「自分がいけないのか。キーパーソンになるのは荷が重い」と考え込んでいます。

レビー小体型認知症は海馬が萎縮していない場合が多く、自分の意見をわりとしっかり言えます。いつも近くで接している家族に対して親密な関係ゆえに強い敵対心が向く場合もあるのです。被害感情が出て「お金を取った」などと言い出すこともあります。長女をキーパーソンにして、関わりが密な長男から情報を受け取り、要点を決めてお父さんに話す。そんな方法もあります。

かかりつけ歯科医が今後の経過(予後)を左右する

医療の支援の輪にぜひ加えてほしいのが、かかりつけ歯科医師です。
私のクリニックでは、終末期にいる3人に1人が誤嚥性肺炎で亡くなっています。認知症の中期以降、その人の健康状態を左右するのは歯科医といっても過言ではありません。口の中のケアはそれほど、誤嚥性肺炎を防ぐために必須なのです。

詳しくはこちらの解説も

ケアマネジャーの選び方

介護サービスを利用する際、サービスの手配や調整をして、ケアプランを作成するのがケアマネジャー(介護支援専門員)です。医師、看護師、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、介護福祉士、はり師、きゅう師、栄養士等々、さまざまな職種の人に受験資格があるため、ケアマネジャーの経歴はさまざまです。
例えば看護師なのか介護福祉士なのかによって得意分野が異なることを知っておくのも大切です。担当の医師とも相談しながら、ここを重視してほしいという点を考えてケアマネジャーを選びましょう。

役所や地域包括支援センターは、ケアマネジャーが所属している事業所のリストはくれますが、公的な立場なので推薦はできません。かかりつけ医や家族介護者などから評判を聞き、情報を集めて吟味するのもいいでしょう。

デイサービス通いで生活安定

デイサービスもそれぞれ特色を打ち出してはいるものの、必ずしもご本人が気に入るデイが見つかるとは限りません。自尊感情が強いご本人の場合は特にそう。

〈事例7〉
「わしゃ、あんな年寄りばかり集まっている所にゃ行かん!」と、口をへの字にするHさん(血管性認知症・90代)。それでもデイサービスに通い始めたのは、かかりつけ医に「Hさんよりレベルが低い人はいるかもしれないけど、そんなことは気にせずに、週に3日行くと生活にリズムがついてとてもプラスになりますよ」と言われたから。1カ月も経つと、年下ばかりの利用者仲間やスタッフがHさんを持ち上げてくれて、機嫌よくデイに出かけるようになりました。

デイサービスに通うことでご本人の生活は安定します。ご本人にはメリットを伝え、上手に褒めればモチベーションも高まるはず。医師など信頼している専門職による説明には聞く耳を持ってくれるかもしれません。

頼れる人を見つける方法

「認知症初期集中支援チーム」は地域の頼れるファーストエイド(応急手当)

「認知症初期集中支援チーム」は、ご本人やその家族と関わり、早期診断や悩みの解決、以降の対応策などを支援していく取り組みで、認知症専門医や看護師、社会福祉士、作業療法士などの専門職で構成されています。
「初期」とは、認知症がまだ軽い初期の人を指すのではありません。医療や介護のサービスをほとんど受けていないようなご本人に、初期の約半年間、集中してきめ細やかに関わる、ファーストエイドを提供するということです。地域包括支援センターに設置されているので、そこで利用の相談をすることもできます。

自分たちに合う当事者の会、家族の会と出会おう

認知症の当事者・家族同士が交流し、日常の悩みや困りごとを語りあえる家族会などが全国各地域で開かれています。貴重な情報交換の場となっており、力づけられる家族や本人も大勢います。家族会も多岐にわたり、例えば若年性認知症やレビー小体型認知症など、認知症のタイプ別に開催している会も誕生しています。また認知症に特化しない介護者のサロンもあります。
それぞれ特徴や考え方も異なると思います。困っている思いに、自分のことのように心から共感してくれる家族会を見つけることが大切です。
また、コロナ禍をきっかけにオンラインにチャレンジした家族会もあり、開催方法の可能性も広がっています。自分のニーズに合う会をぜひ探してみてください。地域包括支援センターにも情報があるはずです。インターネットで検索してみるのもいいでしょう。

オンラインで会話する家族

診断がついてからが勝負の時!

私は義母を27年間介護して看取り、現在は妻を介護中で、家族介護者の仲間の一人だと思っています。

家族や身近な人が認知症と初めて向かい合った時、困りに困って何かを摑みたいと模索すると思います。そんな時、認知症になったから自分たちは終わりだとは絶対に思わなくていいのです。なぜなら認知症はなってからが勝負の病気ですから。家族が対応の仕方に迷ったり、何をどうしたらいいかわからなかったりしても、それは恥ではありません。むしろその不安や疑問こそが大切なのです。もがきながらでも泣きながらでも叫びながらでもいいですから、良いパートナー、相談できる相手をみつけてください。必ず出会いはあるはずです。

さあ、地域で支えあいつつ、より安心できる介護関係をつくりあげていきましょう。

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