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地域包括ケアシステムとは? 5つの構成要素と各地の事例

地域包括ケアシステムとは? 「介護」「住まい」「医療」「生活支援」「介護予防」5つの構成要素と各地の事例

超高齢社会において、医療や介護のニーズがますます増えることが予想されるなかで推進されてきた「地域包括ケアシステム」。高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるように、高齢者への支援やサービスを地域で一体的に提供していくことを目指しています。誕生の背景や施策の内容、各地の事例、今後の課題などについて、厚生労働省で地域包括ケアシステムの構築などに携わった宮島俊彦さんにうかがいました。

地域包括ケアシステムについて解説してくれたのは……

宮島俊彦先生
宮島俊彦(みやじま・としひこ)
兵庫県立大学客員教授
1977年3月東京大学教養学部教養学科卒、同年4月厚生省入省。95年保険局医療課保険医療企画調査室長。2001年国民健康保険課長、2005年大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、2006年大臣官房総括審議官を歴任し、2008年から2012年まで厚生労働省老健局長を務める。著書に『地域包括ケアの展望』(社会保険研究所)。2018年から現職。日本製薬団体連合会理事長。

地域包括ケアシステムとは

住み慣れた地域で自分らしい暮らしを、人生の最後まで可能な限り続けることができるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援が地域で一体的に提供される体制のこと。超高齢化に伴って医療や介護のニーズが増していくことをふまえ、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に体制を整えていくことが求められています。

高齢化の進展状況には大きな地域差もあることから、地域包括ケアシステムは、市町村や都道府県が地域の特性に応じて作り上げていくことが必要とされています。

地域包括ケアシステムの歴史と背景

地域包括ケアシステムの構築は、全国各地で実際に行われていた取り組みがきっかけとなりました。先駆けとして有名なのが、広島県尾道市(旧御調町)の公立みつぎ総合病院での取り組みです。

地域包括ケアシステムの“生みの親”とも言われる同院の山口昇医師は、1970年代に脳卒中や心臓病などの手術を担う中で、手術が成功して退院した患者が半年から1年ほど経つと再入院してくることに疑問を感じるようになります。そこで地域をまわってみたところ、食生活や室温の管理など在宅生活でのさまざまな問題点に気づき、病院での治療だけではなく、訪問看護や訪問栄養指導の重要性を実感します。

そこで「寝たきりゼロ作戦」として、1974年に現在の訪問診療や訪問看護にあたる「出前医療」をスタートさせたのです。さらに行政とも連携し、介護施設を併設するなど地域ぐるみのケア体制を構築させました。

ほかにも佐久総合病院(長野県佐久市)で農村医療を確立させた若槻俊一医師、介護のサービスなどを小地域完結型で提供できる仕組みをつくった長岡福祉協会(新潟県長岡市)など、地域全体で高齢者を支える仕組みが各地で実施されていました。

こうした取り組みを全国に広げるべく、2003年に厚生労働省老健局長のもとに設置された「高齢者介護研究会」の中で、地域包括ケアシステムの概念が提起されました。08年には「地域包括ケア研究会」が発足し、各地の取り組みをもとに議論が重ねられ、「30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域」、具体的には「中学校区を基本とする」といったことが決められていったのです。

11年には「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」で、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるには、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを切れ目なく提供する「地域包括ケアシステム」の構築が必要であると定められ、さらに議論が積み上げられていきました。そして14年に成立した「医療介護総合確保推進法」という法律の中で、その構築が具現化されました。

地域包括ケアシステムの5つの構成要素

地域包括ケアシステムは、次の5つの構成要素が互いに連携しながら、一体的に提供されることが想定されています。

構成要素1【住まいと住まい方】

自宅や介護施設を指します。住み慣れた地域、住みたい地域で、プライバシーと尊厳が十分に保たれた住まいであり、最も基本となる部分です。

構成要素2【医療】

病院(急性期病院、亜急性期・回復期リハビリ病院)と、日常の医療(かかりつけ医、地域の連携病院、歯科医療、薬局)が相互に連携を図り、通院、入院治療を行います。在宅医療、訪問看護、訪問リハビリテーションも利用します。

構成要素3【介護】

介護が必要になれば、施設・居住系サービス(特養や老健など)、在宅系サービス(訪問介護や通所介護など)を利用します。

構成要素4【介護予防】

要支援・要介護状態にならないための予防、重症化しないための予防、介護状態を軽減するための予防で、生活機能の維持、向上を目指します。

構成要素5【生活支援】

見守り、配食、買い物支援などの生活支援を指します。専門職による支援から家族や近隣住民、NPO法人、ボランティアなどによる支援まで幅広く含まれます。

5つの構成要素は植木鉢に例えられる

厚生労働省では、上記5つの要素について植木鉢に例えた構成図を示しています。

住まいと住まい方、医療・看護、介護・リハビリテーション、介護予防・生活支援、保険・福祉

生活の基盤となる「住まいと住まい方」を植木鉢に「介護予防・生活支援」を土と捉え、専門的なサービスが必要になる「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉」を「葉」として捉えています。

植木鉢や土がないところでは植物を植えても育たないのと同様に、高齢者の尊厳やプライバシーが守られた「住まい」つまり「植木鉢」が提供され、その住まいで安定した日常生活を送るための「介護予防・生活支援」つまり「土」があることが基盤です。基盤があってはじめて、「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉」つまり「葉」が効果的な役割を果たすことが示されています。

地域包括ケアが効果的に機能するために重要な「4つの助」

地域包括ケアシステムがうまく機能するためには、「自助・互助・共助・公助」の4つの助が連携し、解決していくことが必要とされています。

自助

自分のことは自分ですること。自分の力で住み慣れた地域で暮らすために、市場サービスを自ら購入する、セルフケアで健康管理する、病気の可能性があれば受診するなど、自発的に自身の生活課題を解決する力のことを指します。

互助

家族、友人、クラブ活動の仲間など、個人的な関係性を持つ人間同士が助け合い、それぞれが抱える生活課題をお互いが解決する力。共助と重なる部分もありますが、費用負担が制度的に裏付けられていない自発的な支え合いであり、住民同士のちょっとした助け合い、自治会などの活動、ボランティア団体による生活支援など幅広い形態が想定されています。

共助

制度化された相互扶助のこと。介護保険や医療保険に代表されるような社会保険制度やサービスを指します。

公助

自助、互助、共助では対応できないようなことに対して、最終的に必要な生活保障を行う社会福祉制度のこと。市町村が実施する高齢者福祉事業のほか、生活保護、人権保護、虐待対策などが該当します。

それぞれの助が連携しあう

4つの助は単独で実行されるだけではなく、相互に強い関係性をもちます。自助を支えるのは互助であり、互助でも難しい場合は共助が登場し、第三者が介入することで自助を支え、互助の負担を減らします。自助、互助、共助でも難しい課題には、公助が対応します。

地域包括ケアシステムのメリット

地域で暮らす人々にとって、地域包括ケアシステムが普及するとどのようなメリットがあるのでしょうか。3つのメリットについて紹介します。

ニーズに合った包括的なサービスを提供

介護予防、自立支援、QOL(生活の質)の維持、要介護支援というように、高齢者の心身の状態などによって必要なサービスは変化していきます。こうした変化に合わせたサービスの提供体制こそが、地域包括ケアシステムといえます。

地域の実情に合わせてさまざまなサービスを生み出すことが推進されています。

認知症の程度に合わせた支援を期待できる

認知症といっても、症状の程度はさまざまです。認知症と診断されたからといって、すぐに訪問介護や通所介護のサービスが必要になるとも限りません。自立して生活できる軽度の人にとっては、こうしたサービスよりも必要なのは、進行を防ぐための社会参加や認知症サポーターなどによる見守りなど、ちょっとした手助けです。つまり、地域包括ケアシステムでは、介護保険サービスではカバーできないようなケアが可能なのです。一方で症状が進行して、より支援が必要になってきたときには、介護保険サービスの利用につなげてQOLを保つことを目指します。

高齢者の社会参加が活発に

4つの助の1つである「互助」にあるように、高齢者は支援を受けるだけではなく、支援をする側でもあります。例えば介護予防に関するイベントやボランティア活動への参加は、社会参加でもあり、介護予防につながります。介護予防は食事や運動、社会参加が重視されていますが、社会参加は1人では取り組めないものです。地域包括ケアシステムの推進により、高齢者が社会活動に積極的に参加することが期待されています。

地域包括ケアシステム構築のプロセス

市町村は3年ごとの介護保険事業計画の策定・実施を通して、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築していくことが求められています。

地域包括ケアシステム3つのプロセス

地域包括ケアシステムの構築にあたっては、3つのプロセスが示されています。

  • 1つ目は「地域の課題の把握と社会資源の発掘」です。「地域ケア会議」などによって、地域の実態やニーズ、社会資源を把握したり、ほかの市町村との比較検討を行ったりして分析します。
  • 2つ目は「地域の関係者による対応策の検討」で、分析によって明らかになった地域の課題を解決するために、具体策の検討に入ります。
  • 3つ目が「対応策の決定・実行」で、介護サービスや医療・介護連携、住まいの整備や確保、生活支援や介護予防、人材育成などを実施していきます。

地域ケア会議の役割とは

地域包括ケアシステムを構築するプロセスにおいて、大きな役割を担うのが「地域ケア会議」です。

地域の支援者を含め、多職種による専門的視点で実施される会議で、役割としては「適切なサービスにつながっていない高齢者を支援する」「地域で活動するケアマネジャーの自立支援に役立つケアマネジメントを支援する」「個別ケースの課題分析を通じて地域課題を発見する」「地域に必要な資源開発や地域づくり」「介護保険事業計画への反映など政策形成につなげる」など、多岐にわたります。

また、ケアマネジャーによる高齢者の個別ニーズに応じた会議から、行政による社会資源の整備を推進する会議まで、規模もさまざまです。また、両者をつなぐツールとしての役割もあります。会議には、自治体職員、ケアマネジャー、介護事業者、民生委員、医療従事者などが必要に応じて参加します。

地域包括支援ネットワークがカギとなる

地域包括ケアシステムを実現するためには、高齢者を支援するネットワークが重要です。

【地域包括支援ネットワーク】ケアマネジャー、医療機関、NPO、民間企業等、介護事業者、社会福祉協議会、ボランティア、民生委員・住民組織、保健所・保健センター

具体的にはケアマネジャー、医療機関、NPO法人、民間企業、介護事業者、社会福祉協議会、ボランティア、民生委員、住民組織、保健所・保健センターなどです。地域ケア会議はネットワークを連結させる役割もあります。

すべての市町村に設置されている、高齢者のための総合相談窓口である地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムの実現に向けた中核機関であり、ネットワークの中心的存在として位置づけられています。

地域での具体的な取り組み例

地域包括ケアの先駆的な事例について紹介します。

取り組み例1【鳥取県境港市・米子市】

特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)、デイサービス、保育所など多くの施設を運営する社会福祉法人「こうほうえん」が中心となり、多様なサービスを地域に展開。介護施設を地域ネットワークの拠点にして、イベントなどで地域住民と交流したり、施設を小学校に隣接させて世代間交流を行ったり、ほかにも民生委員や社会福祉協議会との連携、高齢者の社会参加への促進などに取り組んでいます。また、高齢者ができるだけ在宅生活を継続できるように特養の機能を地域に展開して、施設職員の定期巡回や随時対応サービスなどで地域に暮らす高齢者を多面的に支えています。

取り組み例2【千葉県柏市】

東京大学とUR都市機構との共同研究としてスタート。都市部の急速な高齢化をみすえて在宅医療のニーズが高まることを想定し、産学官一体で「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」を発足。行政が事務局となり、医師会をはじめとした関係者と話し合う体制を構築し、在宅医療を推進しました。医療、看護、介護の関係団体が議論を重ね、多職種連携のルールづくり、在宅医療に関する地域住民への普及・啓発、在宅医療に従事する人材の育成などに取り組みました。

取り組み例3【東京都世田谷区】

地域の豊富な資源やネットワークを最大限活用し、区内5地域、27の日常生活圏域を基本に地域包括ケアシステムを構築。5つの構成要素をバランスよくとり入れた取り組みや、NPO、事業者、大学、行政など70団体が連携して高齢者の社会参加の場や機会づくり、応援をおこなう「せたがや生涯現役ネットワーク」をつくるなど、社会参加を促進しています。

また、2020年には「世田谷区認知症とともに生きる希望条例」を施行し、認知症になっても自分らしく希望をもって暮らすことのできる地域共生社会を目指し、区の責務、区民の参加、地域団体、関係機関、事業者の役割を定めています。

今後の課題

地域包括ケアシステムは確立されたものではなく、現状ではいくつかの課題を抱えています。主な4つの課題について説明します。

地域ごとの格差

もともと介護サービスは民間の事業者が中心となって実施されてきました。このため、行政が中心となって各事業者をとりまとめるのが難しいという問題があります。地域包括ケアシステムの構築がうまく進んでいる地域は、リーダーシップがある社会福祉法人や医療機関などに体制づくりが委ねられているのが現状です。

認知度の低さ

地域包括ケアシステムは目に見えるものではないので、一般の人たちへの認知が進むのは難しい面があります。また、実際に家族や自分自身が高齢になり、介護の問題などに直面しなければ必要性を実感しにくいところもあります。

地域包括ケアシステムが確立すると、市町村に住まい、医療、介護、介護予防、生活支援などについて、何でも相談できて個別のサービスに結び付けてもらえるような総合窓口ができます。こうした窓口ができると、自然と地域包括ケアシステムの認知度も上がっていくと考えられます。地域包括支援センターはそうした役割を期待されていますが、介護保険の給付など介護に関する対応が中心で、医療に関しては十分に対応できていないのが現状です。

医療と介護の連携

高齢者が可能な限り住み慣れた地域で生活していくためには、切れ目のない支援が必要となり、医療と介護、福祉が効率よく継続して機能する必要があります。しかし、実際にはそれぞれが独立した体制で運営しているため、連携を取りづらいのが現状です。

厚生労働省では「在宅医療・介護連携推進事業」など、市町村が中心となって地域の医師会などと連携しながら地域の関係機関の連携体制を構築することを推進しています。

担い手不足

地域包括ケアシステムの担い手は、行政職のほか、医療従事者や介護職、生活支援をおこなうサービス提供者などが中心になります。しかしこうした人的資源が十分ではないのが現状です。人的資源の解消不足については、高齢者自身も生活支援の担い手となることが介護予防にもつながり、有効策の1つと考えられています。

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