家族でわいわい過ごした誕生日 今では母への感謝がしっくりくる日に
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。2月に誕生日を迎えた駒村さんが、番組スタッフにお祝いしてもらった時のお話です。
誕生日
先日、番組スタッフの皆さんが誕生日を祝ってくださいました。2人のプロデューサーさんがポケットマネーで評判の店のケーキを購入。リハーサル終わりにその場にいるメンバーで誕生日会を催してくれたのです。
私がケーキを切り分けていると、目の前でディレクターさんがプロデューサーさんに、
「このケーキは、結局“スペシャル”なんですか?」
「いや、スペシャルじゃない。だって3倍近く高いんだよ。載ってるフルーツなんてそんなに変わんないしさ…」
ちょっと! その会話、私の目の前でします!? スペシャルじゃなくても嬉しいけど!(笑)などと、ケーキを切りながら会話に突っ込みを入れていると、
「あーあ。ぐちゃぐちゃ…」
「誰か他の人が切ればよかったんだよ、駒村さんじゃなくてさ」
確かに。スタッフの中で私が一番不器用というは共通認識です。
「そうだね。今気づいた! ハハハハ!!」
長く仕事を共にし、ファミリー感あるスタッフの皆さんとともに、やんや、やんやと笑いながら、こぼれたフルーツを各自で載せ、みんなで美味しくいただきました。
昔は、家でもホールケーキを切って誕生日にわいわい食べたものです。他にも、お赤飯をはじめ様々な料理が並ぶ中、母は必ず尾頭付きの鯛をオーブンで塩焼きにしてくれました。鯛のヒレにしっかり塩をして、焦げないようにアルミホイルを巻き、鯛の歯から尾びれにタコ糸をひっかけて、尾が跳ね上がって見えるようにピンと立たせます。母の真似をして母の誕生日に私も挑戦したことがありましたが、上手く尾が上がらず、縛るのが緩かったのか、どんどん尾が落ちてきて、何度も何度もやり直しました。そんな大変な思いをして焼いたのに、出来上がった鯛は、申し訳程度に尾が上がったのっぺりした形。不格好な上に身はパサパサ。待ってもらった挙句、せっかくの鯛を台無しにしてしまい、母に悪いことをしました。当たり前のように上手に焼いていた母には改めて尊敬の念が湧きました。
主に家で料理を作るのが、母から私へ移行してきた頃、私の誕生日も外食に移行したのですが、出かけることさえ難しくなると、ついにはフェードアウト。祝ってもらうことが当たり前だった誕生日も、ただ通り過ぎる1日になるんだと悟りました。母に祝ってもらわないことにもすっかり慣れ、最近は、自分が生まれた日というよりも、母が私を生んでくれた日との思いが強く、誕生日は、「おめでとう」より、母への「ありがとう」の方がしっくりくるようになりました。そんな中、SNSでたくさんお祝いメッセージを頂戴したり、職場で祝ってもらえると、「おめでとう」と祝ってもらう感覚を思い出し、皆さんへの感謝の気持ちは年々深まっています。
「通り過ぎる1日」と悟った年の誕生日は忘れられません。放送終了後、サプライズで当時の出演者、スタッフの皆さんが集まって、ケーキを前に待っていてくれていました。嬉しさと、もうこれからは、家ではこういうことはなくなるんだなという寂しさが綯(な)い交ぜになり、自然と涙が溢れました。
その直後のこと。
「ここは火気使用申請をしている部屋なのか!?」
実は、当初予定していた場所にゲストの方がとどまってしまい、サプライズの準備が出来なくなったため、急遽空いている部屋を探して移動したそうなのです。急な変更でそこまで頭が回らなかったとのこと。数十秒ですが、ロウソクに火をつけてしまいました。
プロデューサーさんは始末書を書かねばならないのか確認に向かい、「なんだかすみません」という気持ちに…。
以後、ケーキにロウソクを立てることはなくなりましたが、祝ってもらって嬉しい気持ちに変わりはありません。