家族ゆえにぶつかり合う真逆の思い 気持ちよく暮らすための小さな工夫
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
息抜きに、ほんの10分だけ公園にでかけていたら、
認知症がある妻が、玄関で待ち構えていた。
「突然いなくなって、どこに行ってたのよ! 何時間も待ってたのよ!」
「ちゃんと言って、出たじゃないか!
たった10分を勘違いして、人のせいにするなよ!」
「私は聞いてないわ!」
お互いに言い分がある。
妻も自分も納得がいかず、にらみあった。
——最近、こんなことばかりだ。
妻はわかりづらいことが増えて不安なのか、
最近ひとりになりたくない様子だ。
でも、狭い部屋で顔を突き合わせていれば、ケンカだって増える。
だからこそ、僕には外でひとりになる時間が必要なんだ。
それは、ずっと一緒にいたいからこその手立てなのに。
「30分で、帰ってくるよ」
妻がひとりになった後も、
不在理由が分かるように板書し、そう伝えた。
「気をつけてね。行ってらっしゃい」と、
妻も余裕の表情だ。
今日は、このちょっとの工夫が功を奏したが、
また、うまくいかなくなる日がくるかもしれない。
——でもまあ、いいじゃないか。
僕たちの暮らしは折り合いを探しながら、
いつもふたりで。
認知症がある人が暮らすご家庭で、いさかいが生まれる時。
認知症があるご本人にも、
そのご家族にも、
お互いに譲れない理由があるわけです。
例えば、今回のように、
「ひとりにしないで」
「ひとりにさせて」というような、
双方に真逆の思いがあったとき、
その折り合いを見つけていくことは、とてもむずかしいものです。
なぜなら第三者ならまだしも、家族や身近な人であるほど、
お互いのあるがままの気持ちをわかりあったり、譲りあったりするのは困難なもの。
いさかいのひとつやふたつ、あって当然です。
だからそんな時には、
具体的な工夫をやってみることをオススメします。
どちらかが我慢しすぎるのではなく、
家族が一緒に気持ちよく暮らすための、ちょっとした工夫。
その工夫がうまくいったり、いかなかったりと、実際大変ではあります。
けれどその行ったり来たりのプロセスから、
お互いの気持ちの折り合いが、ようやく見つかったりもします。
本当に家族とは、難しくもかけがえがないと感じます。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》