認知症とともにあるウェブメディア

家庭外に居場所がない高齢者に閉じこもり傾向 地域資源と連携した緩やかなつながりの「居場所」活用が心身の健康維持につながる

Getty Images

地域で暮らす高齢者の「居場所」を調査したところ、「自分の部屋」や「家庭」というパーソナルスペースを挙げた人が多くみられました。一方で、「ゆるやかなつながりのある公共の場所」や「共通の生きがいや楽しみを主目的とした活動」、「交流を主目的とした活動」、「心身機能の維持・向上を主目的とした活動」を居場所として感じている人は少ないことが分かりました。また、類型別にみた「居場所」の有無と心理社会的指標との関連を見ると、「居場所なし」や「自室(家)のみあり」の人は、外出頻度が低く、閉じこもり傾向の割合が高いことも分かりました。調査分析の統括責任者だった東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典副所長は「いわゆる介護予防目的の通いの場だけではなく、心和む居場所も健康に重要では」と説明しています。

「通いの場」だけでなく、パーソナルスペースを含むより広い概念が「居場所」

この調査結果は、厚生労働省の老人保健健康推進等事業の成果物として、東京都健康長寿医療センターが2023年3月、「地域包括ケアシステムを構成する地域資源としての高齢者の『居場所』に関する調査研究事業」の報告書としてまとめたものです。

厚生労働省は、介護予防や地域包括ケアの要の一つとして、地域の住民同士が気軽に集い、住民自らが企画して交流や活動をする場所として、いわゆる住民主体の「通いの場」を勧奨しています。厚生労働省老健局老人保健課の調査結果によると、2021年末現在で全国に12万3890カ所の通いの場があるとされています。

この調査研究事業では、「通いの場」のみならず、パーソナルスペースを含めた、より広い概念である「居場所」について複数の調査をしています。「居場所」は、個人の主観を起点とした、安らぎや楽しみを感じられる選択肢としての場所や活動で、「通いの場」は、外形的に把握ができる介護予防やフレイル予防に資する場や活動とされています。

東京都健康長寿医療センターでは、「高齢者における『居場所』の類型」を主目的によって分類をしています。「共通の生きがいや楽しみを主目的にした活動・機会(タイプⅠ)」、「孤立予防を主目的とした活動・機会(タイプⅡ)」、「心身の機能維持・向上を主目的とした活動・機会(タイプⅢ)」の通いの場3つの分類に加え、タイプ0として、住民の多様なつながりも居場所のひとつの類型として整理しています。例えば、犬の散歩で出会う近所の顔なじみや、なじみの店で顔をあわせる常連客や店主などです。これらは「通いの場」というよりも、ゆるやかなつながりのある「居場所」として捉えられます。

このように「居場所」は多様であり、従来の「通いの場」は「居場所」の一部として含まれている概念として位置づけています。

安らぎ・安心・楽しみを感じられる場所は「自分の部屋」や「家庭」が多数で「通いの場」は少数

高齢者の「居場所」の実態を明らかにすることと、社会心理的指標(主観的健康感、精神的健康度、孤立・孤独)との関連を検討するため、2022年に地域特性の異なる全国5つの自治体(東京都大田区、東京都八王子市、兵庫県養父市、宮城県気仙沼市、群馬県草津町)において、主に要介護認定を受けていない高齢者を対象に質問紙調査がおこなわれました。ここで言う「居場所」の定義は、「安らぐことができる、安心していられる、生きがい、楽しみ、自己実現などを感じられる場所・活動」としています。

この調査の結果では、5つの自治体いずれも「自分の部屋」や「家庭(実家や親族の家を含む)」を居場所として回答した人の割合が高く、地域内におけるゆるやかなつながりとしてのタイプ0や、「通いの場」でもあるタイプⅠ、タイプⅡ、タイプⅢといった「居場所」の割合は低い傾向がみられました。

この調査において提唱されている新しい分類タイプ0の「居場所」について、大田区や八王子市など都市部では、「レストラン、喫茶店、居酒屋など飲食店」の回答者割合が高く、特に八王子市では「ショッピングモールなど商業施設」と回答した人の割合も22.7%と高い傾向でした。

一方、「田畑、菜園など」を選択した人の割合は、大田区では4.4%にとどまっていましたが、八王子市(18.8%)、養父市(28.5%)、気仙沼市(35.1%)、草津町(18.6%)は郊外や農村部であり、大都市よりも田畑が広がる地域であり、相対的に高い割合が示されました。「銭湯・温泉施設等入浴施設」も、温泉が豊富な草津町は30.5%、気仙沼市は21.8%と他の都市よりも高い割合でした。

最近、高齢者にも急速にインターネット利用者が増えていますが、今回の調査では「インターネット空間」は都市部・郊外部・農村部いずれも差がなく、相対的に低い割合を示しました。このほか、「ボランティアグループ」や「地域のサロンやカフェ」、「老人クラブ」、「住民同士の体操・健康づくりのグループ」、「図書館・公民館などの公共施設」、「スポーツクラブ(ジム)」といった活動や場所も同様に低い割合を示しました。

「レストラン、喫茶店、居酒屋」「公園・広場」「田畑・菜園」でゆるやかな交流を好む

調査では、さらにタイプ0に分類されるいずれかの「居場所」、つまり、ボランティアリーダーなど誰かによって企画・運営されていない多様な住民のつながりの場・機会を持っていると回答した人に対して、顔なじみの人とあいさつなどちょっとした交流をしている場所があるかも尋ねています。

調査の結果、都市部と農村部の傾向には違いがあり、顕著な地域特性が見られました。例えば、「レストラン、喫茶店、居酒屋」がちょっとした交流である場所と回答した人は、大田区で31.7%でしたが、他の自治体では20%程度であり約10ポイントの差がありました。「公園・広場等公共地」も大田区は17.5%、八王子市は22.4%と都市部で高く、「田畑・菜園など」は養父市が60.5%、気仙沼市が46.1%、草津町が25.3%と農村部で高い傾向がありました。

「居場所」に役割を求めている高齢者はまだ少数派

介護予防やフレイル予防には、地域のなかで社会参加してさまざまな人と交流することが重要とされており、その効果を高めるためには一定の「役割」を担うことがポイントの1つといわれています。今回の調査では、高齢者に「居場所に求めること・期待すること」も尋ねていますが、「役割」と回答した人は、5つの自治体ともにとても低い割合でした。通いの場とは異なり、「役割」を求めない、求められないがゆえに、居場所は居心地の良い空間として重要であるとも言えます。

一方、高い割合が見られたのは、「安らぎ・安心」や「自分らしくいられる」でした。また、都市部では「友人・知人や社会とのつながり」と回答した人も割合も高い傾向でした。

Getty Images

「居場所」がない人や、「自室(家)のみ」、「ゆるやかなつながりだけ」を居場所と感じている人は主観的健康感が低い傾向

調査結果をもとに、「居場所」の有無と3つの心理社会的指標との関連が分析されています。1つ目は、「居場所」の状況と主観的健康感の関連です。大田区、養父市、草津町の3自治体の調査では、自己の健康状態について「非常に健康だと思う」「まあ健康な方だと思う」「あまり健康ではない」「健康ではない」の4つの選択肢から当てはまるものを選んでもらい、「あまり健康ではない」、「健康ではない」と回答した人を主観的健康感が低い群として分類し、居場所のタイプ別にその割合がまとめられました。その結果によると、「居場所なし」の人はいずれの都市でも主観的健康感が低く、「自室(家)のみあり」や「タイプ0のみあり」の人でも、主観的健康感が低い人の割合が高い傾向でした。

「居場所」がない人や、「自室(家)のみ」、「ゆるやかなつながりだけ」を居場所と感じている人は精神的健康状態も低い

2つ目は、精神的健康状況との関連です。WHOが開発した簡易な質問項目(WHO-5)を用いて精神的な健康状態が測定されました。質問項目は5つあり、それぞれ自分の状態により5点満点で回答してもらいました。5項目の合計得点が13点未満の人を「精神的健康状態が低い」として回答者の割合が整理されています。その結果、「居場所なし」では精神的健康状態が低い人の割合が高く、「自室(家)のみあり」や「タイプ0のみあり」についても精神的健康状態が低い人の割合が高い傾向が示されました。

Getty Images

「居場所なし」や「自室(家)のみあり」の人は閉じこもり傾向

3つ目は、閉じこもりとの関連です。普段の外出頻度が週に1回以下の場合を「閉じこもり傾向」としてその割合をみてみると、「居場所なし」や「自室(家)のみあり」の人は、どの地域でも閉じこもり傾向が強いことが分かりました。

公園や広場、図書館、飲食店、銭湯など地域資源を活用した居場所は高齢者にとって居心地がよく、参加(=利用)が長続きするので、ウェルビーイングの向上が期待できる

報告書では「居場所」としての「通いの場」について、地域包括ケアに資する地域づくりや介護予防などに取り組む人たちの多くは、「高齢者に対して、介護予防のための通いの場として、体操や運動などの活動へ参加を促すことが多いと思われる」としています。しかし、体操や運動をする「通いの場」に参加するようになっても「そのうち見かけなくなる人も多いのではないか」と指摘しています。効果を感じられない、物足りないとか、自分には合わない、気を遣うと感じてしまったりして参加しなくなる人が多いのではないかと考察しています。

その一方で、参加を続ける人たちの特徴として「他の参加者と会って、交流することを楽しみにしている方が多いのではないか」とも指摘しています。

こうしたことから、調査結果も踏まえ、体操や運動が苦手な人たちに対しては、趣味活動や他の参加者と取り組むことが出来る就労的な活動などの共通の生きがいや楽しみを主目的とする社会活動であるタイプⅠや、地域のサロン活動など参加者同士の交流を主目的としているタイプⅡの「居場所」を薦めることが良いと思われる、と総括しています。

Getty Images

また、高齢者の中には、近所に友だちを作りたい、何らかの活動に参加したいと思っていても、団体行動が苦手だったり、興味がわく活動がなかったりして地域の中に居場所を持っていない人たちが多くいます。加えて、活動的でなく、毎日何もすることなく過ごしている人たちもおり、閉じこもりや要介護のリスクが高まることが懸念されています。

このような人たちにとっては、公園や広場、図書館、飲食店、銭湯などのインフォーマルな集まりや交流・イベントなど住民のゆるやかなつながりであるタイプ0の「居場所」への参加の方が、他のタイプの居場所に参加するよりもハードルが低いとしています。社会参加する機会がなかった人たちへの機会創出につながる可能性があり、こうした地域資源を専門職が積極的に活用すべきだとしています。高齢者にとって居心地がよく、参加が長続きする可能性があり、ウェルビーイングの向上が期待できるとみています。

特に、研究チームでは、生活支援コーディネーターなど地域包括ケアに関わる専門職が、高齢者に対してより多く社会参加の選択肢を提示できるよう、タイプ0の「居場所」を把握することの重要性を指摘しています。コミュニティにあるタイプ0の「居場所」とつながることで、そこに集まる住民との会話を通じて地域のどこに生活に困っている人や虚弱な人がいるか把握しやすくなるというメリットもあるとしています。

これらの知見を総合して、報告書では、「さまざまな居場所を見つけて、地域資源として有機的に連携することによって、『支え合う地域づくり』の推進や地域高齢者の心身の機能の低下、社会的孤立や孤独の予防が期待でき、地域包括ケアシステムの強化につながる」とまとめられています。

高齢者人口がますます増えていくと推計される将来の日本社会を見据えて、藤原副所長は、こうアドバイスします。

「居場所とは、わざわざつくるものではなく自然に人が集まる場所です。その理由(ワケ)を理解することで、孤立・孤独対策のヒントが見えてくるのではないでしょうか」

*この記事は、東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典副所長、相良友哉研究員への取材及び「令和4年度老人保健増進等事業 地域包括ケアシステムを構成する地域資源としての高齢者の『居場所』に関する調査研究事業 報告書」を参考に作成されています。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア