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震災のニュースを見ると声を荒らげる認知症の家族 どうすれば【お悩み相談室】

タブレット端末を見る高齢女性、Getty Images
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認知症介護指導者の中島健さんが、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.知人から「認知症がある家族が、震災のニュースを見てから落ちつかなくなってしまった」と相談がありました。テレビは消しているそうですが、震災の情報を見つけると「何があったんだ」と声を荒らげられるそうです。どうすればよいのでしょうか。(40代・女性)

A.もともと災害などのニュースに影響を受けやすいタイプの人、受けにくいタイプの人がいます。これは本人の性格によるもので、認知症だから影響を受けやすいということはないと思います。

ただし、認知症によって理解力や判断力が低下したり、自分がいる場所を正しく認識できていなかったりすると、実際は遠く離れた場所で起きている災害なのに自分がいる場所にも被害が及ぶのではないか、海が近くにあるわけでもないのに津波が来るのではないかと考えてしまうことはあるようです。

認知症の人がこうした不安を抱えているときに、家族や周囲の人ができることは、「心配だね」「大変だね」と共感することです。落ち着かせようとして「大丈夫だよ」と言っても不安は解消されません。そればかりか自分の不安を理解してもらえなかったことで、さらに不安が増大しBPSD(行動・心理症状)が出る可能性もあります。災害のニュースなどによってBPSDが悪化する認知症の方がいますが、その原因はニュースの内容よりも周囲の対応によるところが大きいと言えます。

もしかしたら、この認知症の方は、過去に大きな災害を体験しているかもしれません。共感を示しつつ過去の体験を聞いて、そのときにどのような行動をとったのかといった話ができると、別のところに意識が向いて、不安も和らいでいくのではないでしょうか。

ただ、一緒に暮らしていて何度も「何があったんだ」と声を荒らげられると、毎回共感を示すのは難しいこともあると思います。そんなときはいったん「この人は優しいからこそ、落ち着かなくなっている」と考えてみてください。他人に起きた出来事を自分事のように受け止められるというのは、本当に優しい方なのだと思います。

相談者のケースでは、落ち着かなくなっている理由が震災のニュースにあることが明らかでしたが、そうではない場合もあります。最近やたらとものを集めようとする、自宅ではない場所に避難しようとするといった行動が見られたら、災害のニュースなどの影響があるかもしれません。認知症が進んだ方だと、大事なものというよりもティッシュやタオルなど日常生活に欠かせないものを集める傾向があります。それは、日常で馴染みのあるものが本人にとっての大切なものになっているからなのかもしれません。

テレビをつけないなど、災害のニュースが認知症の人の目や耳に入らないようにするのも1つの方法ではありますが、家族の知らないところで情報が入ってくる可能性はあります。無理に情報を遮断するのではなく、災害のニュースを機に認知症の人も含めて家族で「災害があったときにはこうしよう」など対策を話し合えると、認知症の人にとっては安心感につながるのではないでしょうか。

【まとめ】認知症の人が震災のニュースを見てから落ち着かなくなっているときには?

  • 認知症の人が感じている不安を理解し、共感の言葉をかける
  • 優しいからこそ、震災のニュースに影響を受けやすいのだと考える

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