「毒入りだろう」と手料理を拒否する認知症の夫 体が心配【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症地域支援推進員で介護支援専門員の田中リエ子さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の夫(79歳)と2人暮らしです。最近食事を出すと「毒が入っているだろう」と言って食べるのを拒否します。仕方がないので買ってきたお弁当を出すと「まずい」と言ってほとんど食べません。食べてくれないと体が心配です(75歳・女性)
A.「もの盗られ妄想」などで最も身近な人を疑うのは、認知症の典型的なパターンです。とはいえ、実際に身に覚えのないことで疑われるのは精神的にこたえると思います。
こうした妄想は時期が来れば治まってくることがほとんどですが、現状で食べてくれないのは心配なので、食べてもらうための工夫が必要になります。例えば次のような工夫が考えられます。
・「毒が入っている」と言われたら、自分の分の食事と交換する
・手作りのものを使い捨て容器などに詰めて、買ってきたように見せる
・気にせず相談者が1人で食事を始めて、「これ、おいしいから食べてみる?」と声をかける
夫にどのような方法が効果的かはわからないので、色々とやってみるといいと思います。毒について真っ向から否定してしまうと、余計にそれにとらわれてしまうこともあるので、全く別の話題を出して気をそらすことも大事です。
また、夫はなぜ毒が入っていると疑うのか、その原因を探ってみると解決につながるヒントがあるかもしれません。何の根拠もなく疑っているわけではなく、過去の体験に基づいている可能性もあります。例えば過去に起きた集団食中毒のニュースが大きなインパクトとして残っていたり、戦後の食糧がない時代の記憶に関係していたりといったことです。
認知症の人の言動は、自分にとって印象に残っている過去の体験に基づいていることも多いのです。時間はかかると思いますが、夫が仕事で活躍していた時代の話や家族での楽しい思い出話などから、ふと過去の体験話が出てくることもあるかもしれません。夫婦2人だと難しいかもしれないので、親戚や子どもが来たタイミングで昔話をするなど、第三者を交えるのもいいと思います。
相談者1人で、食べてもらう工夫をしたり、原因を探ったりするのは大変なことです。かかりつけ医や介護サービスを利用していたらそのスタッフなどに相談することも大事です。
【まとめ】認知症の夫が「毒が入っている」と言って食事を拒否する場合は?
- 自分の食事と交換する、料理を使い捨て容器に詰めて買ってきたように見せるなど、食べてもらうための工夫をする
- なぜ毒が入っていると思うのか、本人の過去の体験などから根本的な原因を探る
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました。≫