一時帰国での京都訪問 歴史の重さを感じつつ、仲間の皆さんと交流
“侍”として米国社会に挑む心意気で2001年に渡米し、バイオテック(製薬)企業で新薬開発に努めてきた木下大成さん(55)。カリフォルニア州のシリコンバレーで妻、息子との生活を過ごしてきましたが、数年前から少しずつ見られていた記憶や理解力の低下が顕著になり、2022年10月、若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。認知症とともにある人生を歩み始めた木下さんが、日々の出来事をつづります。今回は、この夏、日本に一時帰国した際に訪れた京都での交流のお話です。
7月、“夏”としては5年ぶりに日本に一時帰国しました。その間の中心的なイベントの一つは、京都の認知症当事者で、カメラマンとして活躍されている下坂厚さんにお会いすることでした。
当日の待ち合わせ場所は、宇治市の平等院鳳凰堂!
いかにも歴史ある場所で、数多くの巨木に囲まれた様々な瀟洒(しょうしゃ)な建物に、道中を通していにしえの繁栄ぶりを思い浮かべることになりました。そこで下坂さんや他の当事者の皆さんと合流して、一帯を散策しました。
アメリカで私たちの住むエリアでは、認知症の当事者やその家族が集まってどこかに行くという機会はほぼありません。特に妻は、わたしの体調も言葉の壁も気にせず交流できる場に、居心地の良さを感じていたようです。途中、下坂さんが10円玉を取り出して、「デザインに使われているのは次に訪れる平等院」と教えてくださったので、目の前に現れた本物と見比べてみると、まさしく平等院。この美しい建造物を何世紀も前に生み出した、当時のデザイナーと施工者の知恵と技術に驚くばかりでした。
その後、近くの大学構内で行われた当事者参加型の宇治市のヒアリング(当事者ミーティング)を傍聴させていただきました。そこで印象的だったのは、当事者の声を行政側が直接くみ上げる流れが出来上がっており、地域の町づくりに関わる話し合いが 定期的に行われていることでした。
他方、アメリカは、日本と違い必ずしも福祉国家ではなく、このように日本のベースラインの高さを見ると、アメリカでの自分たちの生活と将来に息苦しさを感じることは少なくありません。そのため、一時帰国のたびに切なさが増しますが、深く考えても仕方ないので、そこで思考を止めるということを繰り返しています。
京都でもう一つ楽しかったのは、バスや電車での移動。
車社会のアメリカと違い、いたるところで公共交通機関が整えられているので、車なしで色々な場所に出かけるという選択肢があります。しかも、バスの窓から見える京都の町並みが、明らかに東京や大阪と違う。歴史を感じさせる建物があちらこちらに見える京都ゆえに、なおさら楽しく感じました。
翌日は、祇園の保存会の方々が合流してくださり、祇園祭の準備、真っ最中の町を案内してくださいました。 路地を歩いていると、地域の皆さんが手作りで山鉾を準備されている風景に出会い、かの有名な祇園祭の高揚感のようなものが、私たち訪問者にもおのずと湧いてきて、日本の夏を大いに実感しました。同時に、歴史を感じる瀟洒な建造物がいくつも並ぶ京都という場所の歴史の重さを感じました。息子も、なかなか体験することができない日本ならではの貴重な時間を興味深く過ごしたようでした。
今回の訪問では、下坂さん、京都の皆さんに本当にお世話になりました。サンフランシスコもシャッターチャンスが多い土地柄、是非いらしてください。ご案内しますよ!
ありがとうございました。いつか、またお目にかかれることを楽しみにしています。