3年ぶりに再会の元同僚たちと登壇 コミュニティーの大切さをスピーチ
“侍”として米国社会に挑む心意気で2001年に渡米し、バイオテック(製薬)企業で新薬開発に努めてきた木下大成さん(56)。カリフォルニア州のシリコンバレーで妻、息子との生活を過ごしてきましたが、数年前から少しずつ見られていた記憶や理解力の低下が顕著になり、2022年10月、若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。認知症とともにある人生を歩み始めた木下さんが、日々の出来事をつづります。今回は、3回目となるシリコンバレーでのウォークイベントへの参加で、スピーチをしたり、元同僚たちと再会したりしたお話です。
9月28日、米国アルツハイマー病協会主催の毎年恒例のウォーキングイベント“Walk to End Alzheimer's”がありました。私たちが住む北カリフォルニア・シリコンバレーで開催されるこのイベントは、同協会が全国で開催するウォークイベントの中でも最大級の規模。そんなイベントへの参加は3回目となりますが、今回はなんと、オープニングイベントでのスピーチを任されました。
偶然にも、その前には、約3年ぶりに私の元同僚たちが集まって、私に励ましのメッセージを送ってくれていました。そうしたタイミングでもあったため、いつもお世話になっている若年性認知症初期ステージのディレクターと相談し、イベントでは同僚たちと一緒にステージに上がって、コミュニティーの大切さについて話すことにしました。
イベント当日、会場の公園には、朝8時半集合にもかかわらず、すでにたくさんの人々が集まっていました。今年も3000人規模の人たちが参加したそうです。
開催場所の公園の中央辺りには、イベントのために設置されたステージがあり、そこでかつての同僚たちと久しぶりの再会を果たしました。本当のことを言うと、顔を合わせる前には不安感もありましたが、この日に集まってくれた人たちは特に交流が深かった仲間たち。それぞれ最後に会ってから長い時間が経っているにもかかわらず、彼らと話していると、一緒に働いていた時の記憶が脳裏に戻ってきます。
最初に交わした言葉は「全然変わってないじゃん!」。そして彼らの言葉の一つ一つで、認知症という病気が私と友人たちとの関係を奪うことができないと気がついた時、止まっていた時間が、もう一度動き出したように感じました。
スピーチでは、「この病気を持つ人たちにとってコミュニティーはとても大切。しかし当事者やその家族にとって、自分たちがどう社会から受け入れられるのかを考えることはとても怖いことで、自分たちから積極的に人の輪に入ることは簡単ではありません。ですが、私たちが最初の一歩を踏み出す時に、周りの皆さんの少しの応援があれば、思い切って立ちあがることができます。皆さんが、もし誰かの役に立ちたいと思っているならば、まずは私たちに、『ハーイ(日本語では:やあ、元気?)』と声をかけてみてください。私の同僚たちがやってくれたように。それが誰かの人生を大きく変える力をもたらすことになります」と話しました。
自分で言うのはお恥ずかしいのですが、結果は大好評でした。普段からオンラインミーティングで顔を合わせている当事者グループからの人たちも、「よく言ってくれた!」と興奮気味にステージ裏に駆け寄って来てくれました。私にとっても、この役割を通して、同じ病気と闘う人たちとの一体感が強くなったと感じています。
実際、このスピーチをして以来、これまで話したことがなかった人たちも声を掛けてくれるようになりました。今は、少しでも早く何か具体的なことを始めないといけないという気持ちになっています。そしてそれを更に次の世代につなげていくことが、これからの自分の大きな目標です。