杖をお供にご近所をめぐる散歩の達人 小さな楽しみを集めて幸せに
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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今日も、散歩へ。
行き先はあるような、ないような。
でも、会いたいものはある。
3丁目の佐藤さんちには、
目つきの悪い、大型犬。
こっそり、クマと呼んでいる。
長生きしろよ、クマ。
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2丁目の角には、
年中、変な実がなってる木。
いつかひとつ、ぽろんと落ちてきやしないかな。
そしたら、ばあさんの仏壇にそなえてやるのにな。
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人生の目的地へ向かって、
突っ走っていたかのような、若いころ。
今は、ちいさな幸せがちりばめられた日々を、
痛むひざを杖で支えて、歩いている。
なつかしい友の家でひき返して、また明日。
私の周りの、散歩の達人たち。
達人は、皆さまご高齢で、
独自の散歩の楽しみかたをご存じです。
私は、そんな達人さんたちと、
情報交換をするのが日課で、
散歩中に出会った、季節の草花を
画像メールで送っていただいたり、
ご近所の隠れた名所を、教えてもらったりしています。
そんな気軽なお付き合いのなかで、
「散歩の達人は、人生を楽しむ達人ではないか」と
思うようになりました。
ところどころ痛む、
重くなった体をなだめながら歩いていく中で、
日々のちいさな幸せを見つけていらっしゃる、達人たち。
その、やや丸まった背中は、まだまだ若輩者の私に、
「好奇心を失わず、ゆっくり生きなさい」
そんな人生賛歌を教えてくれているようです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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