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バイオテック侍のシリコンバレー日記

ダイハードマン、そして日本の仲間から得た認知症と向き合う決意

若年性認知症当事者の大先輩、丹野智文さんとともに
若年性認知症当事者の大先輩、丹野智文さんとともに

“侍”として米国社会に挑む心意気で2001年に渡米し、バイオテック(製薬)企業で新薬開発に努めてきた木下大成さん(55)。カリフォルニア州のシリコンバレーで妻、息子との生活を過ごしてきましたが、数年前から少しずつ見られていた記憶や理解力の低下が顕著になり、2022年10月、若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。認知症とともにある人生を歩み始めた木下さんが、日々の出来事をつづります。

2023年2月、映画「ダイ・ハード」シリーズで知られる俳優・ブルース・ウィリスさんの家族が、彼が前頭側頭型認知症を患っていると公表し、米国でも全国ニュースや、米国アルツハイマー協会のニュースで大きな話題となりました。”絶対にくたばらない不死身の男“ダイハードマン”、つまり、ダイする(死ぬ)のがハード(難しい)な男として、彼はこの病気と共にどう生きるかを、私たちに考える機会を与えてくれることになると思います。

それでは、私のような一般人は、一体、なにができるのだろう。
幸運にも、私は「なかまぁる」で、記事を書かせていただく機会に恵まれました。当事者として、自分のことについて発信していこう。そんな思いを私が持つキッカケとなった2022年末の日本への一時帰国について、今回は紹介したいと思います。

かつての学舎で学生時代の先輩や同級生にも力強い声援をいただきました
かつての学舎で学生時代の先輩や同級生にも力強い声援をいただきました

昨年末には、4年ぶりに日本への帰国を果たしました。それまでは、年に1度は帰っていたのですが、こんなにも間が開いたのは、言うまでもなく新型コロナ禍による入国制限、それと自分の病気のことも一因でした。環境が大きく変わる中、久しぶりに日本に到着する前は少し緊張もしていましたが、空港内で聞こえる声も、ポスターや表示もすべて日本語。“ようやく帰ってこられた”と、安堵(あんど)なのか疲労なのかも分からない感情が、入国ゲートに向かうカーペットを歩いている間に静かに湧いてきました

今回の大きな目的は、まずはいつも通り、息子(11歳)を日本の家族や近しい親族に会わせること。自分の人生に非常に大きな影響を与えて下さった先輩や同級生と再会すること。そしてハイライトとも言えるイベントは、認知症の当事者や支援者の方々の集まりに参加することでした。

まず、最初のイベントは、横浜の実家近くのたまプラーザ・みまもりあいプロジェクトさんに誘ってもらい、認知症当事者や支援者が集まる食事会に参加しました。私にとって対面イベント・デビューです。会社や同窓会とは異なり、特別な健康状態の共通性を通じて人と知り合っていくという初めての経験に、実は何を求められるかと緊張気味でしたが、開けてみれば普通の飲み会。おいしい蕎麦に気取らない会話で、あっという間に楽しい時間が過ぎ、終わった時もどちらかというと会社帰りのように「じゃ、また」ぐらいな感じで爽やかに解散しました。認知症だからといって無理にしゃちこばらず、いつも通り、普通に集まって楽しむ、ということがこの集まりのモットーなんだろうなぁと、滞在先のホテルに向かう電車の中で思い返していました。

昭島市で滞在したホテルの窓から見た富士山。すばらしい。
昭島市で滞在したホテルの窓から見た富士山。すばらしい。

その他にも、東京都昭島市で開かれた丹野智文さんの講演会にも参加しました。自分に「アルツハイマー病」と診断がおりた時、自分が感じる世界も、周りの人たちとの関係も、そして今までの生活のありかたまでも、さほど長くない間に手中から滑り落ちてしまうような恐怖にかられました。しかし、丹野さんは、実際いろいろと不便になるし、不都合なことも増えるけれど、認知症になっても終わりじゃない。元気に生きられるという、ご自身の実体験を訴え続けて、多くの支持と仲間を獲得されてきました。しかも、壇上の彼は、何一つおごることなく、失敗談も含めて気さくに経験をシェアしてくれました。丹野さんの著書は読んでいましたが、診断を受けてもうすぐ10年を迎えるご本人が、軽快な語り口で私たちに語りかけてくれる姿を実際に目の前で見られたのは、間違いなく大きな収穫でした。それまでは考えることすら気が進まなかった認知症に対し、正面から向き合っていく決意を新たにすることができました。
また、この講演会で、若年性認知症の支援に特化している東京都多摩若年性認知症総合支援センターの来島みのりさんにもお会いすることもできたことも特別な意味がありました。

※来島みのりさんが回答する「お悩み相談室」はこちらから

この度、直接、日本の認知症当事者や支援者の方にお会いして、とにかく元気があるということに驚きました。米国のアルツハイマー協会主催の若年性アルツハイマー当事者のミーティングには、週1回、1時間半のオンラインミーティングに参加していますが、参加者はカリフォルニア州全土とお隣ラスベガスで有名なネバダ州の方であるため、直接会える距離ではありません。直接集まって、笑い合う場所が提供されている日本の皆さんの環境が正直、うらやましく思いました。次回の帰国やそれ以降も、機会を作って皆さんに是非お目にかかりたいです。

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