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認知症と生きるには

認知症かなと思ったら、まず行くべき病院は 認知症と生きるには51

「なんだかいつもと違いますね。ご自分ではいかがですか?」「やっぱり」

大阪で「ものわすれクリニック」を営む松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」(朝日新聞の医療サイト「アピタル」に掲載中)を、なかまぁるでもご紹介します。今回は、さまざまな診療科が認知症の診断や治療にかかわるようになった昨今、家族が認知症ではないかと思ったら、まず、どんな医療を受ければ良いのかついてのお話です。

家族が認知症ではないかと思ったら、まず、どんな医療を受ければ良いのでしょう。最近は精神科だけではなく、神経内科や脳神経外科など、さまざまな診療科が認知症の診断や治療にかかわるようになりました。もちろんそれぞれの専門領域があり、それに応じた認知症であるかどうかの判断が必要になります。

多様化する「認知症外来」

ここ10年ほどの間に「認知症外来」や「物忘れ外来」は増えました。私が1992年に自分の診療所で「ものわすれクリニック」を始めた時には、数えるほどしかなかった専門医療機関が、今では少し大きい街なら複数の施設から選べる時代になりました。

ただし、私がいつも利用する私鉄沿線では、ある駅の周囲にはたくさんの「認知症外来」がありますが、少し離れると全くないために、その周囲の住民は遠距離を車で受診しに行かなければなりません。まだまだ地域間格差があります。

さらに、認知症外来があった場合でも気をつけなければならないのが、その医師がどんな診療科の出身かということです。以前から認知症を診てきたのは精神神経科です。認知症の混乱につながる行動・心理症状(BPSD)が出ることもありますから、混乱があると精神科医が担当します。

私も精神科医なのだから、病気の初期から、その人の悩みに寄り添いたいと思いますが、精神科という科目は担当する領域が広く、認知症専門医はまだ数が足りません。

神経内科医も認知症診療に今では積極的にかかわっています。かつては神経難病、パーキンソン病などの病気を扱う科目でした。認知症もアルツハイマー型やレビー小体病など、脳細胞の変性(萎縮)がありますので、神経内科がしっかりと診断してくれると、その後の治療方針が立てやすくなります。最近では次に述べる脳神経外科と対比して脳神経内科と名称をつけていることころが増えてきました。

脳神経外科医も脳の専門家です。私などは脳腫瘍(しゅよう)やクモ膜下出血、脳梗塞(こうそく)などの患者さんをお願いしています。いざというときには手術してくれるため、とても心強い存在です。脳のスペシャリストとしての力を認知症診療に生かしてくれる先生が増えてきました。

心療内科は本来、こころの過剰なストレスが体の反応(心身症)を引き起こした場合に診てもらう科目ですが、最近では認知症診療にかかわってくれる先生が増えてきました。心療内科には厳密にいうと内科医でその領域を選んだ先生と、精神科医として心療内科(心身症)も診る先生がいます。あえて「精神科」と標榜(ひょうぼう)せずに心療内科として、受診する人のハードルが高くないように配慮している場合もあります。

それでは「何科が良いの?」と思われるでしょうが、その答えはありません。それぞれの場面で専門医だけではなく、かかりつけ医こそ大切だからです。とっかかりをつくるヒントを得る意味でも、あるエピソードをご紹介します。

ふだん知る医師の存在

山木良成さん(仮名、48歳)は、妻と二人暮らしです。ともに両親を見送りました。良成さんは大学で社会学を教えている准教授です。いろいろな情報を持っているだけでなく、テレビの情報番組から得た知識で、このごろ気になる自らの「異変」を解決しようとしています。

その「異変」は半年ほど前から。講義中に受けた学生からの質問で、ある単語がわからなくなってしまいました。学生は「歩数計」と言ったのですが、良成さんは思わず「君、歩数計って何のことだっけ」と聞いてしまい、教室の空気が凍りつきました。

良成さんは妻にも話せず、ひとりで「名のある大病院の高名な医師」を探し求めました。しかし「ここだ!」と思って受診したところ、脳血流検査をして左側の側頭葉の血流の話ばかりをして、話がよく分からないうちに診療が終わってしまいました。

信子さんはそんな夫の姿を見て、いつも夫婦を見てくれる内科「かかりつけ医」に相談しました。すると先生は「あぁ、そのことなら私も気づいていました。言葉の意味が分かりにくいようです。いつものご主人とは異なるから、気になっていました」と即座に答え、自ら連携している専門病院(認知症疾患医療センター)を紹介してくれました。そこで認知症であることがわかり、神経内科の専門医と臨床心理の支援を受けることができるようになりました。

ね、普段を知っている医師って大事でしょ。

何でも相談できるかかりつけ医を

そこで今回のアドバイスですが、

  1. 日ごろから自分や家族のことを何でも相談できる「かかりつけ医」を持っておくこと。専門医ではなくても「認知症サポート医」を介して専門医を紹介してもらい、「かかりつけ医」に戻ることが安心につながります。
  2.  何科の医師であっても、昨今の認知症の課題の大きさを知らない人はいません。しかしそれぞれの専門性があって、診断が得意なのか、気持ちに寄り添うことが得意なのか、何かあった場合に外科処置もしてくれるのかは、その医師によって異なる。だからハブ(車輪の中心)になる「かかりつけ医」こそ要となります

最初に書いたように「医者を選択できる環境にない」という地域に住んでいる皆さん、そのうち遠隔でパソコンを使った専門医受診も広がってきます。その時に協力してくれる「かかりつけ医」を見つけておいてくださいね。

※このコラムは2019年7月19日に、アピタルに初出掲載されました

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