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母を誘わず温泉旅行へ 憎まれ口を叩かれ驚いています【お悩み相談室】

頭を抱えるひと、Getty Images
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社会福祉士の熊谷恵津子さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。

Q.一人暮らしをしている母(77歳)に、家族で温泉旅行に行った話をしたら「なぜ誘ってくれなかったのか。どうせ私が邪魔なのでしょ」と責められました。母は足が悪いので誘わなかったのですが、そんな被害妄想を言う母ではなかったので驚いています(50歳・男性)

A.家族からすると、お母さんが急に被害妄想を言うようになって、ショックですよね。相談者としては「足が悪いから誘わなかった」ということをわざわざ伝えなくても、お母さんは当然わかってくれているはず、と思っていたのではないでしょうか。親が高齢になると、どうしても親子の立場が逆転する面が出てきます。これまで以上に相談者にとってお母さんは気遣いが必要な相手になったということをわかってほしいと思います。

高齢になると失うものが増えていきます。体力が衰えてきたり、同世代の身近な人を亡くしたり。たとえ身近な人ではなくても、同世代の有名人には同じ時代を生きてきた同志のような感覚を抱きやすいので、そうした人が亡くなったニュースを聞くと、ショックを受けるものです。

加えて、認知症の人を多く見てきて感じることなのですが、失うものが多く、大きいほど感受性は研ぎ澄まされていきます。認知症の人は特に、感情が豊かです。けれども感情をうまく言葉にして表現することができないから、被害妄想のような症状が出てしまうこともあるのではないかと思います。

認知症ではなくても、高齢になると同様のことは起きやすくなるのではないでしょうか。お母さんも家族が心のどこかでは、自分のことを足手まといだと思っているということを感じ取ってしまっているのかもしれません。お母さんとしては心細くなっている中で、これまで以上に家族のことを頼りにしているからこそ、「なぜ誘ってくれなかったのか」という思いも強くなっていることも考えられます。

こうした今のお母さんの心情を理解して、お母さんへの対応を考えていく必要があります。このケースであれば、やはり温泉に行く前に「温泉に行こうと思うのだけど」と一言話しておくだけで、お母さんの気持ちは違ったと思います。

また、認知症の初期は被害妄想が出やすい傾向があります。被害妄想のほかにも体験したできごとそのものを忘れてしまうといった症状が出ているようであれば、認知症の可能性があるので、専門医を受診したほうがいいでしょう。

【まとめ】「どうせ私が邪魔なのでしょ」と母が被害妄想を言うようになったときには?

  • 高齢になると喪失感が大きく、心細くなりやすい。これまでと違うお母さんの心情を理解し、対応を考える
  • 被害妄想以外にもの忘れなどの症状もあれば、認知症の疑いがあるので専門医を受診する

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