おせちもケーキも諦めない!流動食になった母に作るお正月料理
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、おせち料理の数々をご紹介。さすが介護食士の資格も光ります。
おせち料理
新しい年が始まりました。
我が家の場合、希望に満ちた新年というよりも、今年もなんとか母が無事でいられますように、と願う「めざせ! 現状維持」です。だからこそ、季節が巡り年末が近づくと、マラソンのゴール前のような気分になります。
毎週、訪問診療に来ていただいている先生方からも「新年まであと少し!」「頑張って新年を迎えよう!」と声をかけられるので、除夜の鐘を聴くと「ああ、今年も1年を終えられた……」と無事にゴールテープを切れたことに、じんわり。安堵と嬉しさで感慨深くなるのです。
毎年、母も食べられるおせち料理を少し作っているのですが、ここ数カ月で飲み込む力が急激に落ちたことにより、今年は形態を大幅に変えざるをえなくなりました。1年前は常食に近いものでしたが、今年は流動食。年末年始は医療機関がお休みということもあって、リスクを避けました。万一、のどに詰まった時のことも想定して、吸引器をレンタルして備えておきました。使わないことを祈りながら。
食形態は、定期的に訪問診療に来ていただいている大学病院の嚥下リハビリテーション科の先生に診てもらっています。おせちも12月の診察のときに試しに作ってみて、食べて大丈夫かチェックしてもらいました。
1つは、ごぼうとサツマイモのポタージュ。スムーズに喉に落ちる料理をと考えると「叩きごぼう」は無理なので、ポタージュにしました。これは、形態は良さそうに見えたのですが、いざ飲み込んでみると舌にざらつきが残るのが問題と言われました。
なぜ残るのか? 番組でご一緒した料理研究家の先生に聞いてみたら、「それ、煮る時間が足りてないの」とのご指摘。
「もっとお水を加えて、あと40分くらい煮てみたら解決するからやってみて」
自宅では、ごぼうとサツマイモと玉ねぎを無水鍋で煮て、ハンドブレンダーでつぶした「ポタージュの素」の状態で冷凍保存していました。母がダメだったものは私が食べるつもりでいたのですが、「牛乳を入れていない状態なら、煮直せばできるから!」というアドバイスで再チャレンジ。見事復活し、滑らかに仕上げることができました。ただ、年末年始なので念には念を入れて裏ごしをして食べました。
次に、ゆり根の梅和え。ゆり根は長めにゆでるとすぐ潰れます。そこに、たたいた梅干しと砂糖を少し加えて、母に合うくらいのテクスチャーになるまでだしでのばしました。酸っぱいと感じるものは刺激になるので、介護食には向いているとのこと。
3つめは鰆の西京焼き風。母は西京漬けが好きなのですが、漬けて焼くと硬くなるので、鰆は酒蒸しにしてふっくらと火を入れ、西京みそは酒、砂糖、だしと合わせて小鍋にかけて、和え衣として使います。和え衣は、食べ物を飲み込みやすくするとろみ剤の役割も担います。
食べてみると、とろみ具合は悪くないけれど鰆のたんぱく質が潰しきれなくて、舌にざらつきとして残ってしまいました。
実はこれ、ついこの間までは食べられていたメニュー。嚥下レベルの後退を目の当たりにすると落胆が大きいです。危ないものは潔く撤退。
栗きんとんも作りました。母は栗が大好物。兵庫の田舎にある家の前には栗の木があって、秋になると一緒に栗拾いをしました。長靴を履いて、栗の木の下に落ちているイガ栗を左右の足で挟み、足踏みするように動かしながらイガを剥きます。でも、たいていイノシシが先にありついていて、人間は地団太を踏むんですよね。
イノシシが食べ損ねた栗を持ち帰り、ゆでて、2人で虫を取り除きながら、肩が凝るだの、目が疲れただの言いながら剥く地味な作業を毎年繰り返していました。あんなに大変で面倒くさい作業も、やれなくなると寂しいものです。
今は、市販の栗の甘露煮を買ってきて、レンジで栗きんとんを作っています。今年は思ったより水分が飛んでしまって、付着性が強くなりました。そのまま食べると喉に張り付いてしまいます。
そこで考えたのが油分を加えること。張り付きが弱くなり、スムーズに喉に落ちていくだろうと思ったのです。生クリームと混ぜてみました。すると、ちょうどよいテクスチャーに! 味見をすると、モンブランの味わいになって、これは美味しい!! テクスチャーの前に味が良い。残った栗きんとんはこれからは生クリームと混ぜてモンブランとして食べようと、私自身が思いました。
実は母の誕生日祝いとしてケーキを買っていたんです。嚥下の調子がイマイチだったので今回はやめておこうと断念したのですが、そのケーキのクリームが栗きんとんのアップデートに活きました。
がっかりすることはあるけれど、そんな中でもこういう発見があるから介護食作りは楽しいんですよね。
そうやって何気ない1日1日を完走し、1年を完走できればと願ってやみません。皆さんにとっても素敵な1年になりますように。