会計せず店を出た母 本人もショックで引きこもりに【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
社会福祉士の熊谷恵津子さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。
Q.父と2人暮らしの母(83歳)が先日スーパーでお会計をせずに出てきてしまいました。店長に注意されただけですんだようですが、本人はかなりのショックだったようで、それ以来引きこもっていて心配です(57歳・女性)
A.まずは、会計をせずに出てきてしまった理由をお母さんに確認することが大事です。母親が会計をせずに出てきてしまったというのは、相談者自身にとっても、非常にショックなことだったと思います。けれどもお母さんは、それ以上にショックを受けているはずです。お母さんの気持ちを考えつつ、相談者は冷静になって、お母さんにどのように確認するかということに思考をシフトしてほしいと思います。
お母さんは、ほかのことに気をとられてうっかり会計を忘れてしまったのか、当時のことを覚えていないのかなど、理由によってその後の対応が変わってきます。「店長に注意されただけですんだ」とのことなので、おそらく店長からみてもお母さんに悪気があるようには感じられなかったのでしょうね。
慎重にならなければいけないのは、理由の聞き方です。「どうしてこんなことをしたの?」というように問い詰めるような聞き方をすると、本人は追い込まれてさらに孤立してしまいます。家族としては心配がつのるほど、問題をはやく解決しようとして「最近もの忘れはない?」などと直接的な聞き方をしてしまいがちです。しかしお母さんも過敏になっているときだと思うので、ダイレクトな質問は避けたほうがいいかもしれません。「体の調子はどう?」などとあいまいな聞き方のほうが、自由に話せるのではないでしょうか。その場ですぐには聞き出せなくても、焦らないことです。
リラックスした雰囲気づくりも大切です。家族が切羽詰まった様子で聞くと、お母さんも緊張したり、身構えてしまったりするので、お茶を用意して「お菓子を買ってきたから食べましょう」とリラックスした雰囲気をつくると、会話もスムーズに運ぶのではないでしょうか。お父さんの前だと話しづらいこともあるかもしれないので、できればお父さんがいないタイミングのほうがいいと思います。
お母さんが当時のことを覚えていなかったり、スーパーで同じことをくり返したりするようであれば、認知症が疑われます。こうしたときには、認知症の専門医を受診する必要があります。認知症は原因疾患によってさまざまな種類がありますが、特に「前頭側頭型認知症」の場合、症状の一つに社会性の欠如があり、万引きなどの行動に出ることがあります。
高齢の方が失敗を機に人と会ったり、外に出たりすることが怖くなり、引きこもってしまうケースはよくあります。一人で立ち直るのは難しいことだと思うので、外に出られるようになるまでは、家族がサポートすることが大事です。お母さんと2人で暮らすお父さんとも、どうすればお母さんが自信を取り戻してくれるのか、話し合ってみるといいですね。
【まとめ】母がスーパーで会計をせずに出てきてしまい、ショックを受けているときには?
- まずはお母さんに理由を確認する
- 問い詰めるような聞き方はせず、「体の調子はどう?」というように間接的な質問にする
- 聞くときにはお茶とお菓子を用意するなどしてリラックスした雰囲気をつくる
- 当時の記憶がなかったり、同じことをくり返したりする場合は認知症の専門医を受診する