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認知症が心配なあなたへ

最近のことだけ忘れる それは多忙が原因かも 過剰に心配しないで

最近のことだけ忘れてしまう。新しいことを覚える力を「記銘力」、記憶を保つ力を「保持力」、保っている記憶を記憶の貯蔵庫から取り出してくる力を「想起力」という

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生によるコラム「認知症が心配なあなたへ」。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。今回は「最近のことを忘れて気になる」という人に対するアドバイスです。記憶のメカニズムについても解説します。

自分がいつか認知症になるのではないかと気にしているあなたにとって、最もいやな言葉は「あれ? 忘れたの? 認知症じゃないの?」などという他人からの一言でしょう。発言した人は悪気なく、もしかするとその場の雰囲気を和らげようと、冗談っぽく言ったのかもしれません。しかし言われた身には後々までこころに引っかかる不安が残るものです。

特にこうした「ちゃかした軽率な発言」には認知症に対するマイナスイメージが含まれるため、発する際には、認知症がある人や家族を傷つけないよう留意しなければなりません。

実際に認知症になった人の場合、古い記憶は残っていても、ごく近い過去の記憶が残らないため「最近のことだけ忘れる」状態になりがちです。記憶には新しいことを覚える「記銘力」、その記憶を脳の記憶として保っておく「保持力」、そして保っている記憶を記憶の貯蔵庫から取り出してくる「想起力」という3つの働きがあります。そのうち新しい経験を記銘できなくなると、最近体験したことを記憶の貯蔵庫に覚え込ませられなくなります。反面、記憶を保つ力と、蓄積した過去の記憶から取り出してくる力があると、昔の記憶は保たれるため「最近の記憶だけ忘れる」ということになるのです。やがて認知症が進んでくると、「保持力」や「想起力」も低下するため、過去にさかのぼって忘れるようになります。

意識が混濁しているときは注意

記憶の力とは別に、軽く意識が混濁(ぼんやりする)するようなときにも注意が必要です。認知症では、意識がはっきりとしているにもかかわらず、認知機能が低下しますが、それとは別の軸で、意識レベルにも注意しなければなりません。夜中にたたき起こされれば誰もが同じように、ぼんやりします。これが「目覚めている時」でも起きる状態を「せん妄」(病的な軽度意識混濁)と言います。この「せん妄」が起きると、その時に経験した出来事を覚えていません。当たり前ですよね。意識が混濁しているときには記銘するための経験自体がないのですから。

一度に処理しようとして忙しすぎないかチェックを

それ以外にも認知症が心配な人が注意すべき大切なポイントがあります。ひとつは「いくつものことを一度に処理しようとして、忙しすぎないか」を自分でチェックしてみてください。人間の脳には大きな可能性がありますが、それでも一度にたくさんのことを考えて処理しようとすると、ちょっとした記憶がなくなることがあります。脳が無意識のうちに脳にかかるストレス負荷を軽くしようとして、大事なことではないレベルの記憶を消すとでも言えばよいでしょうか……。このような理由から一部の記憶が飛んでしまうことがあり、これを失錯(しっしゃく)といいます。パソコンのデータの削除に似ていますね。忙しすぎるときや、自分の能力を超えたところでストレス過剰になるような時、この失錯が起きますので、自分にかかっている負荷に注意してください。家族もその人に過剰なストレスがかかっていないか、注意して見守ることが必要です。

「頭の中での指さし確認」を心掛けて

頭の中で指さし確認をすることが、うっかり忘れの防止になる

ボクは「最近のことを忘れて気になる」という人や、その人の最近の記憶(近時記憶)の低下を訴えてくる家族の相談を受けるとき、いつも心掛けてもらうことがあります。それは「頭の中での指さし確認」をしてもらうことです。

誰でも年齢を重ねれば、脳が臨機応変の対応を瞬時にすることが難しくなります。つまり、ボールペンをそこに置いたことを確認せずに、つい、別のことに注意を向けてしまうといった状況になるのです。言いかえれば「気もそぞろで、他人の言葉に気を取られ応対するうちに机の上のボールペンのことを忘れてしまう」といった経験が増えてくるものなのです。その時に認知症を心配し過ぎるといけません。そんな時には、実際に指さし確認までする必要はないのですが、いま一度、自分の頭の中で「ここにボールペンを置いた」と確認するようにしてください。それで「うっかり忘れ」が減るかもしれません。何かを忘れたとたんに「認知症!」と過剰に怖がる必要はありませんョ。

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