認知症とともにあるウェブメディア

認知症が心配なあなたへ

怒りっぽくなったとの指摘に「怒っていない!」それは脳の病気かも

脳血管に変化があると怒りっぽくなる傾向が出る

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生によるコラム「認知症が心配なあなたへ」。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。今回のテーマは「怒りっぽさ」です。なかなか自分では気づきにくいものの、早期に気づくことができれば認知症の早期発見にもつながる可能性があることを解説します。

認知症のことを心配する人はほとんどの場合、「ものわすれ」を心配されます。当たり前ですね、認知症は一般的には「記憶が悪くなる」病気だと認識されていますから。最近のことのみならず昔の記憶が減退すると、多くの人は「自分がこの先、何もわからなくなるのではないか」と不安に襲われます。

でも、認知症の症状はそれだけではありません。計算をする力や判断力、あることを実行する力など、多くの能力が低下していくのが、この病気の特徴です。これらの低下は、認知症の中核症状といわれています。こうした変化は、ご自身で気づきやすく、認知症になるのではないかと心配することにつながりがちです。

一方で今回のテーマである「怒りっぽさ」(医学用語では「易怒性(いどせい)」と言います)は、本人が自覚しにくいポイントです。ただ、早期に気づくことができれば認知症の早期発見にもつながる可能性があるものです。それでは、どうやって日ごろから注意すれば良いのでしょうか? だって自分では気づきにくいポイントですからね。

怒りっぽさは、本人よりも家族や周囲の人が気づきやすい

私がこれまでの30年間に担当してきた認知症の患者さんは約9800人です(2022年6月現在)。軽度認知障害(MCI)を加えるとおよそ11000人になりますが、かなりの割合で、その人の家族から「うちの○○は最近、なぜか怒りっぽくなってきました」という訴えが出ます。これまでの穏やかな人柄がまるで別人になったかのようにイライラして、少しのことでも大声を出して怒ることが増えるようになると、その状態になっている本人が気づくよりも、その人と生活を共にしている家族や、普段からその人と接する機会が多い友人、地域の人の方が、その変化に気づきやすいのです。

家族から「怒りっぽくなった」という訴えがあった後、診察の機会をみてご本人に「○○さん、最近、イライラすることが増えましたか?」と質問した場合、「はい、自分でもイライラ感で困っています」と答えるよりも、「いいえ、私はいつもと変わりません」と答える人が多いというのが私の印象です。なかには「私はイライラなどしません!」と怒り出すこともあります。カウンセリングの際には特に、こういった本人の感情面に注意して観察します。

一般的にも脳血管に変化があると怒りっぽくなる傾向が出ます。すべての人がそうなるわけではありませんが、脳梗塞(こうそく)や脳出血の後遺症として「感情が抑えられなくなる」傾向が出ます。脳内の血管に障害が起きた場合、たとえば脳梗塞や脳出血の後に「高次脳機能障害」といって感情面が乱れる症状が出ることがあります。こうしたことは、脳内の血管のことだけではなく、交通事故で脳に損傷を受けた後の人にも出てくるものですが、認知症による脳の萎縮でも出てくることに注意が必要です。

そう考えると感情面の変化は血管性認知症や脳血管の変化によって出てくる症状と言えるでしょう。

生活習慣予防が認知症の予防にもつながる

糖尿病はアルツハイマー型認知症を引き起こす可能性がある

また、糖尿病があるとアルツハイマー型認知症になりやすいとされているのですが、同時に糖尿病は全身の血管をもろくして、破れやすくなっているため、血管障害を加速させる面もあるのではないかと考えられています。そうだとするならば、脳内の血管障害が出る前、そして糖尿病や血圧の乱高下によって脳内に微小な脳梗塞(ラクナ梗塞)がたくさんできる前に、私たちにできることはたくさんありそうです。

認知症の症状が出始めてから、認知症を心配するのではなく、日ごろの生活を整え、慢性生活習慣病にならないような日々を送ることこそ、認知症になる危険性を抑えてくれるからです。以前にも書いたように「予防、予防と気にしすぎる」のもいけませんが、やはり認知症の発症の背景には全身の血管の状態が反映すると考えると、予防的に生活習慣の改善に取り組むことが大切であることがわかります。

さて、それでは認知症が気になるあなたに今回のアドバイスです。自分では気づかなくても、親しい人や家族から「最近、短気になったよ」という指摘を受けた場合には、決して無視しないことが大切です。

特に、糖尿病があって、血糖値についていつもかかりつけ医の先生から指摘されているあなたは、先生には「節制します」と言いつつ、こころの中では「酒をやめるぐらいなら人生辞めた方がまし」とイラついて反発していませんか。

認知症は、ある意味では生活習慣と関係が大きい病気です。周囲から怒りっぽくなったとの指摘を受けた場合には、指摘を軽んじることなく、その声に耳を傾け、もう一度、自分の生活を見直すよう心がけましょう。

糖尿病でなくも短気になったのではないかと気になるときには、かかりつけ医の先生に相談して、頭部のMRIといった画像検査などを受けてみることも大切だと思います。それが、認知症予防の取り組みの一つとなるのです。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア