認知症とともにあるウェブメディア

認知症が心配なあなたへ

コロナ禍でステイホームが習慣に でも、出無精は認知症予備軍の可能性も

コロナ禍で積極的に外に出ない生活習慣になっていませんか

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生によるコラム「認知症が心配なあなたへ」。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。みなさん、コロナ禍が続く中で、積極的に家の外に出ることを避け、どこにも行かない生活習慣になってはいないでしょうか? 今回は、そうした「やる気のなさ」と認知症の初期症状との関係について、松本先生が解説してくださいます。

コロナ禍の外来で思うこと

コロナ禍が始まって、とうとうまる3年が経過しました。この3年の間にみなさんの生活も大きく変わったのではないでしょうか。学校行事が中止になって生徒としての大切な思い出が作れなかった子どもたち、せっかく大学に入ったのにリアルな学生生活を十分に経験することなく最終学年を迎えた大学生。高齢者も、これまでは介護施設にいても、施設外との交流が盛んにできていたにもかかわらず、コロナ禍で「感染防止」が重視されるあまり、外界との交流がなくなってしまったという人々が多くいるはずです。あげればきりがありません。そんな行動の変化が認知症への気づきを遅らせているかもしれないと、私は心配しています。

普段の外出まで減っていませんか

このコラムを読んでいる皆さんのように、「認知症が心配なひと」にこそ気を付けていただきたい点があります。「不要の外出を控え、大勢の人との交流を避ける」ことが大切であったこの3年間を経て、いつの間にか、積極的に家の外に出てアクティビティーを行うことを避け、どこにも行かないような生活習慣になってはいないでしょうか。

「認知症が気になる」と訴える人がボクの「ものわすれクリニック」を自ら受診する場合には、最も多い訴えとして「最近、物忘れが増えた」というものが筆頭です。諸検査をすると約1割の人は年齢相応の物忘れであり、その時点では「病的な物忘れ」としての認知症には当たらない人です。自分自身が物忘れを気にしすぎるあまり、単純なことをうっかり忘れたり、直前のことをうっかりと忘れたりした場合にも、必要以上に「認知症!!」と気にする人が多いのです。なかにはご家族の誰かに記憶を試されて「認知症じゃないの?」などと脅され、恐怖に満ちて「物忘れ外来」に来る人も多いのです。

『やる気のなさ』に気をつけて

前は好きだったけど今はめんどくさいな。認知症の初期症状やMCIかも……

しかし、ボクの31年目を迎える認知症の診療を通して、最も皆さんに気を付けていただきたいと思っている「変化」は、物忘れ以外のことです。それは「やる気のなさ」です。

「わたし、最近、どこへも行かなくなった」と訴えて本人自ら受診することもありますが、本人はそのような自分の行動変化に気づかず、むしろ家族や周囲の知人の皆さんが「あれ? この人そういえば最近、どこにも外出しなくなったな」と気づき、物忘れ外来を受診することが多いのです。この場合、少しずつやる気がなくなって、これまでしてきた趣味にも関心を示さなくなっていることに気づけば、認知症やMCI(軽度認知障害)の早期発見につながるチャンスになってきました。こうしてボクは、認知症の初期症状のうちで最も大切な見極めのポイントは「やる気のなさ」だと考えるようになりました。

感染に気を付けながら行動を!

さあ、そうしたところに生じたのがこのコロナ禍です。ボクも最初は軽く考えていて「1年もすれば(新型コロナウイルスに対する)集団免疫ができて流行もおさまるかな」と考えていました。しかし、その後も流行の波がくり返され、いつの間にか3年が経過してしまいました。

ボクは、病気がある妻の介護者として日々の買い出しやルーチンの仕事があるため、ここ何年も遠くに外出することができず、ましてや旅行などもってのほかの人生を送っています。ボクのように外出できない状況になかったにもかかわらず、どこへも出かけることなく過ごした人々には、それが本当にコロナへの対応のためであるか、それとも「やる気のなさ」のためなのか、ぜひ、この機会に再考してみてください。

「やる気のなさ」から生じる行動の変化は、まずは、

  1. 旅行や外出することをおっくうに感じるようになる
  2. これまでやってきたことへの関心がなくなる
  3. やると言っていても直前になると「面倒くさく」なってドタキャンが増える、といった面で気づくことが多いのです。

「やる気のなさ」と「うつ状態」は混同しやすいですが、「うつ状態」の場合は、自分を「価値のない存在」と思ったり、「自分などいなくなった方が良い」といった自分を否定する感情が出てくるのが特徴です。
一方で、「やる気のなさ」では、決して自分を責めることはないけれど、何事にも関心を示さず、外出もなく、何もしなくなります。こうした「やる気のなさ」が、多くの人にとって、認知症であることを早期に見つけるきっかけとなることを、ボクは診療の中で見続けてきました。
認知症が気になるからと言って脳トレばかりしている皆さん、夫婦で直近の記憶を確かめ合ってばかりいる皆さん、そして何よりも「脳に良い」と言われるサプリばかりを追い求めているだけで、何も行動せずに認知症を気にしてばかりの生活を送っている人は、むしろ認知症になる可能性が高くなってしまいます。

今は、コロナやインフルエンザの感染には注意しながらも、ふだん通りの外出が減ってきていないかをチェックし、改めて積極的な外出を心がけることで、認知症への心配を解消していただければと思います。

次回は「自分のプライドとどう付き合うか」をテーマにします。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア