ヒヤリを越えて凍る背筋 猛暑のたびに思い出す、駒村家の熱中症事件
タレント、アナウンサーとして活躍する駒村多恵さんが、要介護5の実母との暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。
熱中症に要注意
今年は本格的な夏を前に信じられない暑さ。6月に40度を観測する地点がでるなんて! グリーンカーテンにと、うちのベランダで栽培しているパッションフルーツも、しょっちゅう実がシワシワになってグッタリしています。
まさかここまで早い時期から猛暑になるとは予想していませんでしたが、熱中症に注意を呼びかけるニュースを耳にし始めると、毎年、私は身構えます。それは、決してひとごとではない、肝を冷やす、苦い出来事があったからです。
7年ほど前のこと。私は日曜日の朝、ラジオの生放送を担当していました。普段お世話になっているデイサービスは日曜がお休みなので、居住区内で日曜に営業し、かつ我が家まで送迎してくれるデイサービスを新たに探しました。当時、該当する施設は3カ所しかなく、そのうち2カ所は空きがなく、実質1カ所のみ。契約しました。
いつもは夕方、自宅まで送迎してもらうのですが、その日は放送終了後に母とお出かけすることにしていたので、私が直接、昼頃に迎えに行く旨をあらかじめデイに伝えていました。
生放送を終え、母を迎えに行きました。すると、
「今日はいらしてません」とのこと。
「え? どうしてですか?」
「朝インターホン鳴らしたんですが、出なかったのでお休みかと思いました」
その後、母と連絡はとれていないとのこと。普段通っているデイサービスでは、いつもと違う様子のときは私に連絡が来ていたので、そういうものかと思っており、新しく契約したデイサービスでは本人と連絡がとれなかった場合にどう対応するか詰めていませんでした。
母に何かあったのではないか。電話をしてみても一向に出ません。最近、日中寝ている時間が格段に増えていたので、そのまま寝ていることが第一に考えられます。
その日は真夏日の予想――私は母が出かける時間に合わせてエアコンのタイマーを切る設定をしています。ずっと寝入っていたら室内の温度は恐ろしく上がっているはずです。
急いで帰宅すると、母は案の定、ベッドに横たわったまま。パジャマが全身びっしょりぬれるほど汗をかいていました。
息はある。
呼吸を確認後すぐに着替え、訪問医療の先生に電話をして指示を仰ぎ、水を飲ませたり体を冷やしたりました。
しばらくしたら汗も引いて、熱中症の症状は治まりました。
いつも通り送迎時間に間に合うよう帰宅していたら、夕方までそのままだったはず。想像すると、背筋が凍りました。
後日、大学病院にて、現在の不調と共に過去の病歴や気になった出来事を伝えた時、「熱中症や発汗はお母さんにとっては大きなイベントですからね……色々な不調の引き金になった、可能性はあります」。と言われました。
そこに因果関係があるなどと思いもよらず驚きましたが、思い起こせば、これまでもたくさん汗をかいた後に調子を崩すことが多かったような気がします。熱中症そのものが治ったとしても、それを引き金に進んだ病は元に戻らない不可逆変化だとの事実にぼうぜんとしました。
それからというもの、日々の気温、湿度とにらめっこ。特に就寝中は首まで布団をかけるか、上半身はタオルケットでおなかから下半身は夏布団にするか、エアコンは冷房にするか、除湿が良いか、節電の文字も頭にちらつく中、考え抜いてボタンを押します。それでも朝、手足が冷えていたり、背中に寝汗をかいていたり、体温調節が難しくなっている母にとって発汗をどうコントロールするか。毎年のことながら悩ましいです。
そんななか、最近、漢方内科で発汗の状態を伝えて薬を処方してもらうことを始めました。通うのはちょっと面倒くさいですが、まめに状態を伝えて季節の変化と体調によって処方を変えてもらえるので、母の助けになっている気がしています。
ピンチを乗り越えたり、新しいことに出合って試してみたり。そんなことを繰り返しながら、今年も本格的な夏に挑んでいます。