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高齢の父と認知症のわたし:2 

玄関に貼られた外出前のメモ。「◯◯は持ったか?」「帽子は何にする」など誰かに問いかけられているような言葉に涙が出ました。「鍵は持ったか! マスクは付けた? 時計は持ったね! ズボンのファスナー確認したかな ボウシは何にする」
玄関に貼られた外出前のメモ。「◯◯は持ったか?」「帽子は何にする」など誰かに問いかけられているような言葉に涙が出ました

こんにちは、若年性認知症当事者のさとうみきです。
前回(高齢の父と認知症のわたし:1)は、高齢になった父が、何度かの引っ越しを経て、わたしが育った東京都八王子市内の実家を離れ、我が家近くのマンションで、ひとり暮らしを始めるまでをつづりました。

80歳を超えた父の度重なる引っ越しは、想像を超える大変なことだったと思います。
認知症のわたしにとっても、体だけではなく、脳の疲労が取れなくて、ぼんやりとした記憶になっています。
自分の活動や生活、家族のこともある中で、
急に「引っ越ししたい!」と度々言い出す父には、正直参りました。
さらに、コロナ禍になり、時折、ご飯を届けに行っても、
わたしに会うことすら怖いかのような様子でした。
そのようなわけで、父がどんな状況で生活をしているのか、室内をうかがい知ることは出来ませんでした。

インターフォンに貼られたメモ。夕食だけ宅配を頼んでいたので、玄関を開ける前に確認していたようです「ピンポンと鳴ったらマスクを付ける事 対面はなるべく避ける ドアーの金具を付けて開ける様、急ぐな」
インターフォンに貼られたメモ。夕食だけ宅配を頼んでいたので、玄関を開ける前に確認していたようです

そんなある日、突然の連絡でした。
「サービス付き高齢者向け住宅に入居したいから、どこか見学先を探してくれ!」

わたしは、またか……。
それにしても、あんなにコロナ禍を怖がっていた父が、
個室があるとはいえども、共有スペースのある住環境で本当に大丈夫なものか……。

父によくよく話を聞いてみました。
やはり、長引くコロナ禍で、ひと恋しかった様子でした。

ならばと、狭い我が家での同居も話題にしましたが、生活のリズムが違うことから難しいとの反応でした。
そして、いくつか候補になった近くのサービス付き高齢者向け住宅の見学に行くと、
とてもきれいな施設に充実した食事でした。
介護保険を利用していない父にはちょっともったいないくらいに感じたほどでした。

施設を見学させて頂くと、部屋にはミニキッチンもありました。
今まで朝食、昼食は、父自身が作っていたので、
わたしの頭の中では、
「夕食だけ提供してもらった方がいいなぁ」
と、わたしなりに父が出来ることはそのまま継続できるようにと、
いくつかのことを整理して、考えていました。

最初の見学先は、わたしの今までの活動の中で出会いがあった方の会社のため、
ちょっと個人的にお話を伺うことも出来て安心感がありました。

そして、父もその場で即決しました。
即決すると、いつものごとく、
引っ越し日程の手配、役所関係の手続きなどを、わたしにせかしてくるのです。

わたしの中で、自分のスケジュールと父の引っ越しでやるべきこととで、
頭の中の渋滞を起こしてしまいました。
「ちょっと待って! わかってるよ! わかってる!」

そんな、声を上げてしまう自分を落ち着かせ、
父にとっては、きれいで優しいスタッフのいるサービス付き高齢者向け住宅への入居は、
一日も早く手続きをして引っ越しがしたいに決まっていると思うようにしました。

なんとか、段取りをし、引っ越し作業のために、
久しぶりに、父が暮らしたマンションの部屋に入れてもらいました。

コンロが黒一色で、目が悪い父にはレバーが分かりにくかったのか、白いテープで目印を付けて工夫していました
コンロが黒一色で、目が悪い父にはレバーが分かりにくかったのか、白いテープで目印を付けて工夫していました

そこには、わたしがしているように、ひとりで暮らしていくための工夫として様々なことが記されたメモ紙がありました。
まるで自分に問いかけているような父のメモを読んで、
コロナ禍でわたしを自宅に入れることを拒んでいた父に対して、もっと説得をして、介入すべきだった……。
そんな気持ちになりました。

母が亡くなってから必死で頑張ってきた父。
唯一、身近にいるわたしが、もっと気にかけていこうと心に誓いました。

さて、マンションからサービス付き高齢者向け住宅への引っ越し当日は、
波瀾(はらん)万丈のスタート!となるのですが、そのお話は、次回へと続きます。

2DKからワンルームのサービス付き高齢者向け住宅への引っ越し。引っ越し用の箱とスタッフさんをみると、以前に引っ越しをしたときの思いがよみがえります。わたしがドラマを見て診察を受け、認知症の診断へと至ったころでした
2DKからワンルームのサービス付き高齢者向け住宅への引っ越し。引っ越し用の箱とスタッフさんをみると、以前に引っ越しをしたときの思いがよみがえります。わたしがドラマを見て診察を受け、認知症の診断へと至ったころでした

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