母を亡くし、社交的だった父がボーッとしています【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
作業療法士の松本剛史さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.近くに住む父(80歳)は初期の認知症ですが、数カ月前に母を亡くしてから、生きがいを失ったようでボーっとしています。もともと社交的で料理などの趣味が多かったのに何もしなくなりました。はやく母がいたころの父に戻ってほしいです。(52歳・女性)
A.長年連れ添ってこられたであろう妻との別れで、お父さんはさぞやお力落としのことと思います。不安や悲しみなど強いストレスをきっかけに、意欲が低下したり、活気を失ったりすることは誰しも起こりうることです。お父さんの場合は、認知症の症状が進行することにつながる恐れがあるので、さらに心配ですね。
「何もしなくなった」とありますが、お母さんがいたころに比べるとボーっとしてはいても、一日中全く何もしないというわけではないと思うのです。趣味の料理などはしなくても、例えば、食事やトイレ、入浴、着替えなど基本の生活についてはいかがでしょうか? 何もしなくなったからといって、すべてを介助してしまうと、本当はできるはずのことができなくなってしまう可能性があります。
このため、まずはお父さんが現在の生活においてできていること、できなくなったこと、促しがあればできることなどをよく観察して、見極めてはいかがでしょうか。できていることは継続して1人でやってもらい、できないことは最低限の介助と促しを行います。そして介助や促しは徐々に減らしていくことを目指しましょう。
日常生活に関することは、規則正しく行うことを習慣にすることが大切です。そうすることで日常的に脳が活性化され、認知症の進行予防が期待できます。認知症には環境や状況の変化に対応できなくなるという症状があるので、規則正しい生活習慣は重要なポイントなのです。
そのうえで、もともとの趣味であった料理などをするようになると、家族としては安心ですよね。いきなり料理を促すのではなく、料理に関する質問をしてみる、回答があったら少しずつ料理に関する質問の頻度を増やしてみる、興味を示し始めたら料理の手伝いを頼むなど、段階的に料理への関わりを増やしていくのがいいと思います。
ただし、必ずしもお母さんがいたころのように戻ることが、お父さんにとってのベストではないかもしれません。今のお父さんの興味は別のところにあるかもしれないので、現時点で何に興味を示すのか、探ることも大切です。
家族だけでの支援には、限界があります。介護保険をお持ちでしたら担当のケアマネジャーに相談して、ホームヘルパーなどの訪問サービスやデイサービスなどの通所サービスの利用も検討されてはいかがでしょうか。
家族や地域の支援によって、お父さんが生きがいを取り戻せる日がくるといいですね。
【まとめ】認知症の父が母を失ってからボーっとして、料理などの趣味をしなくなったときには?
- 今のお父さんが1人できること、できないことを見極め、1人でできないことは最低限の介助と促しを行い、徐々に介助や促しの頻度を減らすことを目指す
- 規則正しい生活を習慣にし、脳を活性化させる
- 興味がありそうな話題を出すことからはじめて、段階的に趣味への関わりを増やしていく