親身だからこそ本音が言えない ケアワーカーと利用者の適切な距離感とは
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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こんなに親身になってくれる、
ケアワーカーさんがいたとは!
不安しかなかった毎日に、光がさした。
きっとこれで、
私たち家族は生きていける。
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ケアワーカーさんは、
平日も休日も関係なく、
私たちに関わってくれる。
他人なのに、ありがたい。
だからいつだって
この人の言葉には、うなずかないと。
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この人に嫌われたくない。
見放されたくない。
ケアワーカーさんは、なんにも悪くないのに。
今はもうこの人に、本音が言えない。
「その家と仲良くなりすぎては駄目よ」
訪問介護ヘルパーをしていた時に、
上司からよく言われた言葉です。
ケアワーカーとご利用者の
適切な距離感を保ってほしい、
という意味でしょう。
当時は先輩方の、
自らの損得などかけらもなく、家族のようにご利用者とつながる姿勢に憧れていたので、
その本意が分かりませんでした。
けれど今ならその危険性を思い、上司の言葉に深く同意します。
なぜなら、
援助者であるケアワーカーがその家と密になるほど、
本人や家族から選択の自由を奪う危険性が、高まるからです。
「ここまでしてくれる、この人が言うなら」
と、本人や家族が本心を十分に語らないまま、
ケアワーカーの意見を尊重する光景を何度も目にしてきました。
だからこそ、ケアワーカーと介護家族との誤った距離感を防ぐには、
「この家族にはこのケアワーカーが、誰よりも重要である」
という状況を、つくらないことではないでしょうか。
特定の人ではなく、あらゆる人が軽やかに関われるような、
ネットワークをその家族に作っておくほうが、お互いに健康的です。
深いつながりを作り出せる現場にしかない、落とし穴です。
介護家族の繊細な心情に思いをはせながらも、
改めて、多くのケアワーカーの方々の
その献身と苦心に頭が下がります。
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《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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